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英雄になりたかった少年の物語  作者: ななめぇ
第七章閑話
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A_fairytale21




 前回の会議から2日後。

 シエルの対外折衝が一段落したところを見計らい、臨時の会議を招集した。


 全員揃うと、いつものようにシエルの仕切りで会議が始まる。


「では、会議を始めます。本題は編制の変更ですが、先に私から交渉結果について説明を」


 編制を考えるために、編制に組み込む妖精の全体像を把握することは必要不可欠。

 先ほど私が報告を受けた内容が、シエルの口から改めて皆に語られた。


 シエルによると、最終的に庇護を求めてきた群れは水妖精、木妖精、火妖精、土妖精、妖狼、妖鳥の6つだったという。

 水妖精は都市近辺の河川や水路、木妖精は都市内の地上、妖狼は都市内の地下を棲み処として希望し、火妖精、土妖精、妖鳥は特に希望がないとのこと。


 ただ、火妖精と土妖精は交渉が折り合わず離脱した者も多かった。

 少数の力が弱い妖精ばかり残ったらしいので、編制には組み込まず古参の火妖精ホランと土妖精ノーンの下で育てさせようと思っている。


 2人の名前は、私が付けた。

 火や土の需要は尽きないから、しっかり成長してマスターの役に立ってほしい。


「木妖精は果実を含む素材の提供、水妖精は水薬の精製や水路の管理、妖狼と妖鳥は都市外での広範な活動を対価として想定しています」

「水は心配ないし、木は植えればいいかな。でも、鳥はともかく狼は?どうやって都市から出入りするの?」

「以前、ならず者たちが使用していた地下通路を接収していますので、こちらを利用します。出口は都市から東方向1500ほどの距離に隠されており、思いのほか頑丈な造りです」

「そんなのがあるんだ。すごいね……」

「道具を使って自力で掘ったのかな!?」

「いや、流石に<土魔法>じゃないかな」

「人間の<土魔法>で?それって結構大変――――」


 話題が逸れて雑談が始まりそうになったので、シエルがベルを鳴らしてみんなの意識を集めた。


 それは、聞き漏らすと魔力の雫ランキングの減点対象になる恐ろしいベルとして認識されている。

 ココルもこればかりは覚えているようで、両手で口を塞いで微動だにしない。


「狼と鳥以外の獣型の妖精たちは条件が折り合わなかったため、ココルが処理しています。風妖精は中立の立場で都市内の滞在と通行のみを希望しましたので、屋敷と周辺区画を除き、認めています。報告は以上です」

「わかった。おつかれさま、シエル」

「風は自由なのが多いからね。あたしも人の事を言えないけど」

 

 風精霊のシルフィーが、カラカラと笑う。


 何も要求せず敵対もしないなら、都市内に留まることを拒否するつもりはない。

 魔力に関しても、垂れ流されている分を使うのは好きにすればいいと思う。

 

 ただ、中立を選んだ妖精たちが人間と諍いを起こしても、私が手を差し伸べることはない。


 選択権は与えた。

 自由を選んだ以上、そこから先は知らない。


「続いて本題です」


 全員の顔がこちらに向いた。


 新編制の発表を前に、皆の表情は様々だ。


 メリルは屋敷の外に出ずに済む役割であることを祈り、ココルは純粋にわくわくしている。

 家妖精の班長たちは、それぞれ得意不得意があるので少しだけ不安そう。

 いつも飄々としているシルフィーも、新たに生まれた妖精たちをどれだけ保護できるかは編制に左右されるから、いつもより真剣だった。


 すでに内容を知っているシエルだけがすまし顔だ。

 もっとも、シエルがわかりやすく感情を表すことは、あまりないけれど。


「新編制を発表する」


 私はポケットから取り出した手帳を見ながら、新たな編制を読み上げた。





 ◇ ◇ ◇ 





 会議の後、私は台所横の使用人室で一人、テーブルに向かっていた。


 広げた手帳には、先ほど発表したばかりの新編制が書いてある。


・屋敷班 ― 

 お屋敷の家事は基本にして至高。寝室の掃除と料理は私がやるからそれ以外の場所。マスターを含めて人間に存在を気づかれてはいけない。住人の動きをしっかり把握・予測すること。家事が上手なのはもちろん、隠れるのが得意な家妖精限定。私が直接指示を出すから班長は無し。


・交渉班 ― 

 ほかの勢力と交渉する。領主とか妖精の群れとか。決められた時間内に交渉が終わらないときは処理班に引き継ぐこと。班長はシエル。旧班長から人間の言葉が得意な2人をシエルの補佐に付けて3人体制。


・警備班 ― 

 屋敷、フィーネ様のお家、孤児院を中心に周辺を警戒する。フィーネ様のお世話と孤児院の手伝いもする。侵入者や生ごみを見つけたら処理班に連絡。処理班が到着するまでの足止めと戦闘支援も。警戒を切らさないように人数を多く配置して交代制。班長はメリル。


・処理班 ― 

 交渉班と警備班からの指示を受けて色々と処理する。敵対勢力とか侵入者とか生ごみとか。生ごみの再利用は各班長と相談すること。班長はココル。ココルを補助するため、戦闘ができる中でも比較的賢い家妖精を配置。


・情報収集班 ― 

 領域内でマスターに有用な情報や危険な情報を収集する。政庁と詰所の中も含む。ついでに情報収集した建物を綺麗にする。都市外門を出入りする人の情報は、衛士の人と上手く協力して収集すること。マスターが都市内にいるときは遠巻きに見守ること。班長は旧班長が引き継ぐ。


・妖精のお手製班 ― 

 『妖精のお手製』を運営する。マスターに使ってもらいたい服や装飾品を商品に紛れ込ませてマスターに薦める。魔力の雫ランキングの売上管理も。不正したらご飯抜き。赤字と脱税はお店がなくなるからダメ。班長は旧班長が引き継ぐ。


・新入り育成班 ― 

 領域内で生まれた妖精を回収する。自我が芽生えるまで育てて、適性を見て各班に編入する。共存できない妖精は追放。マスターの害になる妖精は処理班に引き継ぐ。班長はシルフィー。

 

・火妖精班 ― 

 マスターが使う装備類を修理する。改修と製造もする。火を噴く箱の開発も忘れずに。新たに加わった火妖精の育成も。班長はホラン。


・土妖精班 ― 

 マスターが使う装備類を修理する。改修と製造もする。建築全般と都市外壁の強化と、新たに加わった土妖精の育成も。班長はノーン。


・水妖精班 ― 

 綺麗で美味しいお水を作る。水薬も作る。都市周辺の水路の管理もできる範囲で。班長は未定。


・木妖精班 ―

 木の実や果実を作る。植物のふりをして周辺の監視もする。班長は未定。


・妖狼班 ― 

 北の森で素材を収集する。マスターが都市外にいるときは可能な範囲で追跡も。班長は未定。


・妖鳥班 ― 

 北の森で素材を収集する。マスターが都市外にいるときは可能な範囲で追跡も。班長は未定。


 これまでは区域ごとに担当を決めて全部やる方針だったけれど、適性がはっきり分かれてきたのと一人で対処可能な範囲が広がったことを踏まえて、役割で班を分けることにした。


 役割がはっきりしている火土と、新たに加わった妖精たちは例外。

 一旦は群れごとにまとめて管理して、慣れたら情報収集や警備にも振り分けたい。

 特に妖狼と妖鳥は、各班の家妖精と組ませることで効率的に役割を果たせるようになるかもしれない。

 その辺りは、様子を見ながらシエルと相談しようと思う。


(あと、北西区域の妖精もかな……?)


 元々北西区域に居た妖精たちは加入して間もないから、もう少し様子を見てから編入しようと思っている。

 良くも悪くも特別扱いはしない。

 マスターの役に立つなら相応の待遇にするし、領主屋敷の火精霊と通じるようならココルの出番だ。

 

「ふう……」


 編制に関しては、とりあえずこれで解決するはず。

 新たに生まれた妖精を編制に加えていって何か問題が起きるようなら、新入り教育用の班を別にもう1つ作ることも視野に入れる。

 現状では、これで十分だ。


 残る問題は――――

 

「…………」


 使用人室のカーテンを見やる。

 

 この部屋の位置は、マスターの寝室の隣にある保管庫の真下。

 カーテンの向こうには私たちの拠点があり、その地下には()()()()が存在している。


(本当に、どうなってるんだろう……?)


 地上に出たいのか、それとも縦長に伸びる性質でも持っているのか。

 精霊の泉は少しずつ上の方へ上の方へ、日々大きくなり続けている。


 私には、マスターの寝室からの景観を守る義務がある。

 あんなよくわからない青紫色の塊を地上にのさばらせて、マスターの目に触れさせるわけにはいかない。

 それに、バチバチうるさいのも良くない。

 昼も夜もお構いなしにバチバチするから、きっとマスターの睡眠やお楽しみの邪魔になる。


 しかし、ではどうすればいいかと考えても、根本的な解決方法は見当たらなかった。


 明らかに雷属性に寄っているので、<雷魔法>を浴びせても多分効果はない。

 斬れたら欠片は好きにしていいと言ってシエルに内緒でココルをけしかけても、全く歯が立たなかった。

 上に伸びるなら()()()()()()()()()()()()()()というココル発案の力技によって、精霊の泉の直下を掘り進めることで誤魔化しているけれど、この方法もいつまで通用することか。


 終わらない攻防に溜息を吐き出そうとした、そのとき――――


「…………」


 思考を中断して集中する。


 マスターからの魔力供給が、()()止まったからだ。


「むう……」


 マスターの魔力が、何かに吸われている。

 このところ、頻繁に起きる現象だ。

 マスター自身が魔力を使用しているわけではないということは、減り方でわかる。

 しかし、マスターが耐えがたい苦痛に見舞われているわけではないということも、魔力の味でわかる。


 一体、マスターはどういう状況に置かれているのか。


 最初、マスターが帰って来ないのは特大魔石の件で怒っているからだと思ったけれど、マスターの仲間とフィーネ様の会話から、どうやら違うらしいと理解した。

 一方、帰還予定――もう何度変更されたかわからないけれど――を大幅に過ぎていることも事実だ。

 心配したフィーネ様のお願いで、保管庫にフィーネ様が書いたメモを置いてみたものの、マスターからのお返事を見たフィーネ様の顔色は優れないまま。

 きっとまた、何かトラブルに見舞われているのだと思う。

 

(早く、帰ってきてほしい……)


 何者かに断続的に魔力を吸われるマスターを屋敷で待つ日々。

 

 何とか状況を打開したいけれど、それをマスターが望むかというと――――


「うーん……」


 屋敷でマスターを待つ間、私にできることを私なりに考えた。


 マスターが口にした望みと、その裏にある本当の願い。

 マスターの性格や日頃の言動も考慮すると、両者の()()も見えてきた。


 口にした望みと本当の願いが異なるのであれば、叶えるのは本当の願いの方であるべきだ。

 それができるのが、完璧な家妖精だと私は思う。

 

 そのために()――――そろそろ、私はマスターと話せた方がいいはずだ。




「………………」




 手帳のページをめくる。


 マスターの指示が書いてある、最初のページを開いた。


 下手な字で書き連ねた、私の大切な原点。


 けれど、その中には私とマスターの交流を妨げる邪魔な一文も紛れている。




『マスターと話すのはダメ。』




「…………」


 目を閉じる。


 自身の心に是非を問い、答えを得て、目を開ける。


 私は、ゆっくりとペンを手に取った。


     

         

『マスターと話すのはダメ。』

          Λ

       都市内に言葉を話す家妖精が増えてからでないと




「…………。……()()




 マスターからの指示を違えることなく、解釈を改めて小さく頷く。




 マスターに伝える初めての言葉は、ずっと前から決めている。


 

 

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