待望の新スキル
「気を取り直して、スキルの説明を頼む」
「はーい!じゃあ、まずは前回からあった方から……」
「……おう」
気を取り直して、と言ったのに即座に蒸し返すのは絶対にわざとやっている。
いや、もう横道に逸れるのは無意味だ。
今はラウラの言葉を静かに待とう。
「3つ目……フロルちゃんのギフトを含めれば4つ目のスキルはー…………」
たっぷり間を置いて俺を焦らしたラウラは、俺の新スキルを発表した。
「なんと、<リジェネレーション>だよー!」
「おー……自然回復か?」
「あれ、知ってたのー?」
「いや、まあな……」
<リジェネレーション>が自然回復系統のスキルではないゲームを俺は知らなかったから、ついつい口を挟んでしまった。
しかし、そのような前世の定番の話をラウラするわけにもいかず、言葉を濁す。
余計なことを言ったせいで追及されるかと思いきや、幸いラウラはあまり気に留めていないようだ。
「まあ、レアスキルと言うわりに結構知られたスキルなんだけど、一応説明するねー」
自らの務めを果たそうとするラウラに、俺は頷いて続きを促す。
「<リジェネレーション>はアレンちゃんの言うとおり、魔力と体力が回復しやすくなるスキルだよー。回復速度は人によってまちまちだけれど、武器で戦う人は体力、魔法で戦う人は魔力の回復が速くなる傾向があるよー。あと、少しだけど状態異常にも効果があるよー」
「状態異常もか……結構いろいろあるんだな。つまり、俺は体力が回復しやすくなるのか」
状態異常のくだり以外は予想どおりの説明だ。
しかし、ラウラは俺の言葉に首を横に振った。
「アレンちゃんは、絶対魔力の方が回復しやすいと思うよー」
「え、なんでだ?」
「アレンちゃんが魔力に恵まれてるのに剣を振り回して戦う奇特な人だからだよー?」
「…………」
あれか。
体力より魔力の方が多いからか。
俺の戦闘能力をゲーム風に表現するなら、HPよりMP、腕力より魔力が多い魔法使いタイプであるにもかかわらず、剣を振り回して戦うキャラクターということになる。
リジェネレーションの定番は固定値で回復するパターンと体力や魔力の上限値に比例して割合回復するパターンがあるから、このスキルが後者ならラウラの話も理解できる。
理解できるが、俺自身が非効率なネタキャラビルドだと言われているようでモヤモヤする。
「<リジェネレーション>についてはこれくらいかなー。次に行ってみよー!」
「おお……。よし、頼む!」
元気なラウラに引きずられるように、俺はなんとかテンションを立て直した。
気を取り直してラウラを見る。
すると、鬼畜精霊はさっきよりも5割増しくらいでニヤニヤしていた。
「んふふー…………」
「…………」
嫌らしい笑みを浮かべるラウラから視線を逸らさずに見つめ合う。
先ほどよりもずっと多くの時間をかけ、ラウラはようやく口を開いた。
「5つ目のスキルは、すごい珍しいレアスキルだよー。ここに来た冒険者でこれを習得したのはアレンちゃんが初めてじゃないかなー?」
「おお……?」
それは期待せざるを得ない。
にっこり笑ったラウラから、5つめのレアスキルが発表された。
「5つ目のスキルは、なんと!<フォーシング>だよー!!」
「おお!?」
ラウラに釣られるように驚いて見せる俺。
しかし――――
「で、<フォーシング>ってなんだ?」
「知らないみたいだから、<フォーシング>について説明するよー」
「おう、頼む」
俺が知らないスキルだったからか、説明するラウラは少しだけ嬉しそう。
話を聞き洩らさないようラウラの声に神経を集中するのだが――――俺はラウラの言葉を理解できなかった。
「<フォーシング>は、多分相手を脅かすスキルだよー」
「………………」
ちょっと、よくわからない。
「もう一度」
「え?<フォーシング>は、きっと相手を脅かすスキルだよー?」
「………………」
ラウラの言い間違いではないようだ。
わけがわからない。
「え、なんでだ?てか、スキルの効果が脅かすってどういうことだ?<威圧>ってスキルがあるのは知ってるが、それじゃなくて?」
「そんなに一気に聞かれてもー」
「ああ、すまん……」
「もう、アレンちゃんがっつき過ぎー」
気づかないうちに大きく身を乗り出していた。
素直に姿勢を正し、ラウラの言葉を待つ。
「えっとねー、まず<威圧>とは別のスキルだよ。脅かすっていうのは言葉どおりの意味。なんでって言われても、そういうものだとしか言いようがないよー」
ラウラはにやけたまま首をかしげて困った風を装った。
普段ならイライラして声を荒げるところだが、今は困惑が勝ってそれどころではない。
「<フォーシング>って使い手がすごく少ないんだよねー。推測される習得方法が、なんというか、清く正しく生きてると難しいっていうのが主な理由なんだけどー」
「おい、どういうことだよ!?」
あまりに酷い物言いに俺は再び身を乗り出した。
「詳しくはわからないんだけど、<フォーシング>って相手を脅して怯ませるスキルだからねー。習得方法は、やっぱり相手を脅迫することじゃないかって言われてるよー」
もちろんそれだけじゃ習得できないからそれ以外の要素もあるみたいだけどね、とラウラは続けた。
「清く正しく生きている人間には覚えられないって……。まるで俺が清く正しく生きてないみたいじゃないか」
「実際どうなのー?なにか<フォーシング>を習得しそうな心当たりはないのー?」
「そんなのあるわけ――――」
そう言いかけた俺の頭の中に、自分自身の記憶が蘇る。
『暴れるようなら、面倒だから首だけにしておくが』
『ああいいぜ、俺が稼げる冒険者だってことを証明してやるよ――――お前の命でな』
『それだけの価値もないものなのか?あんたらの正義とやらは』
『声を出すな』
『フィーネを泣かせたお前を許してやる理由も、特には思いつかないなあ……』
『抵抗するなら殺す』
『てめえの下らねえ愉しみに、ティアを巻き込むんじゃねえよ……。そんなに斬られたいなら、望み通りぶった斬ってやる!!!』
『二度とティアに手出しはさせない。お前の心が折れるまで、斬り刻んでやる』
「…………ソンナノ、アルワケナイヨー?」
「アレンちゃん……」
ラウラの憐れむような目を見つめ返すことができない。
(いや、そんなはずは……)
俺は英雄を目指す冒険者なのだ。
断じて無法者などではない。
しかし、そんな俺の意思を嘲笑するかのように次々と甦る俺の記憶たち。
思い返せば都市に帰還する以前も、我ながら酷い状態だった。
ソロで活動する以上舐められるわけにはいかないと思い、周囲全てに牙をむいたときもあったほどだ。
(いや、この程度はグレー寄りの冒険者なら稀によくあること……!そうだ、俺は悪くない……そこまで悪くないはず……!)
心の中で自分に向けた言い訳を唱える。
しかし、現実は残酷だった。
「<フォーシング>って、お日様の下を歩けない集団の親玉とかが、極まれに習得するらしいよー?」
「………………」
「<フォーシング>の使い手が少ないのは、後天的に習得するしかないからなんだよねー。先天的に持って生まれるとスキルの調整なんてできないから、親から忌み嫌われちゃって……。残酷なスキルだよねー、うんうん」
「………………」
俺の心をサンドバッグにする説明の数々に、視界がじんわりと滲んでいく。
「はー、へこんでるアレンちゃん、かわいい……」
俺は両手で顔を覆い、咽び泣いた。




