第三話 婚約したいと思う婚約者の浮気相手
イレーレナさんはルアンソワ様の方を向くと、
「できれば今すぐルアンソワ様と婚約したいです。でも無理なんですよね」
と甘えた声でいいながら、ルアンソワ様の肩へもたれかかる。
「きみの気持ちはわかる」
「わたしもルアンソワ様の気持ちは理解しているつもりです。でも、それだけじゃ足りない気がします」
「わたしはきみのことを愛している。それでいいだろう」
「愛しているだけではわかりません。キスしてください」
「イレーレナ……」
「ルアンソワ様……」
二人はまた抱きしめ合い、唇と唇を重ね合わせていく。
わたしがここにいるというのに、なぜ二人は、はらわたが煮えくり返るようなことを繰り返すのだろう……。
「いい加減にしてください！」
わたしは二人に対して叫ぶ。
しかし、二人はしばらくの間、うっとりとしたまま。
ようやくルアンソワ様は、イレーレナさんから唇を離すと、
「何をきみは怒っているのかね？」
と言ってくる。
「何って、他の女性と二度もキスをするなんて、どういうことなんですか？」
わたしは、こういう話題をするのは、恥ずかしい気持ちになる。
なんといっても、わたしはまだキスというものをしたことがなく、キスという言葉を口にするだけでも恥ずかしい。
でも、もうそういうことは言っていられない状況だ。
「さっきも言っただろう。わたしは、イレーレナのことが好きなんだ。本気なんだ。好きな女性とキスをして何が悪いと言うのだね」
「わたしはイレーレナさんを恋人と認めたつもりはありません」
「認めてもらわなきゃ困るなあ」
「無理です」
わたしがそう言うと、ルアンソワ様は厳しい表情になる。
「きみがどう言おうと、わたしはもうイレーレナを恋人にすると決めたんだ。きみはわたしの決定に素直に従えばいい」
「従うことはできません」
「なぜだ？ わたしはきみを婚約者のままにしておくと言っているんだぞ。別れるとは一言も言っていないのに何をそこまで怒っているのだね」
「わたしを婚約者と思っているのだったら、今すぐこの人と別れてください」
「それはできない」
「どうしてできないんでしょうか？ わたしのことが嫌いになったのでしょうか？」
わたしとしては、思い切ったことを聞いたと思う。
もし、嫌いだと言われたら、その時は、もう婚約者ではいられなくなってしまうのだろうか……。
それはつらいことだ。
いや、その時は、好きになってもらうようにもう一度努力するしかない。
そう思っていると、
「わたしは、きみのことが嫌いではない。それは理解してほしい」
とルアンソワ様は言った。
一瞬わたしはホッとする。
しかし、
「それとこれとは話は別だ。きみのことは好きだが、イレーレナも好きだ。わたしはこの関係を両立させたい」
と言うルアンソワ様の言葉で、すぐにそれは打ち砕かれる。
「両立なんて……。できるわけがないじゃないですか」
「それはやってみなければわからない」
「うまくいくはずがないと思います」
「イレーレナの方はいいと言っているのだから、後はきみがいいと言えばそれで大丈夫だ」
「わたしは嫌です。それにイレーレナさんだって、自分が婚約者になりたいと思っているじゃないですか？」
すると、
「わたしは、婚約者になりたいと思っています。それはその通りです。でもルアンソワ様があなたを婚約者のままにして、関係を両立させたいと言っている以上、従うだけです」
と言いながらイレーレナさんは、冷たく笑った。
「面白い」
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