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ゲームの終わりより先の未来

 あの日、榎本くんと出かけてこぼしてしまった不安。

 榎本くんのおかげで救われた部分はあれど、解決はしていない。またそうなってしまう自分をありありと想像できてしまった。


 頭の中でぐるぐる考えて、そしてまた彼に頼ることはしたくない。彼に頼ってズブズブと依存してしまうことが怖い。それでもいいと私が、そして彼が思うのならまた別の話になるだろうが、今の私の答えは否であった。


 だから聞いてみることにした。

 部活が終わった後、まだ明るい校舎を栞さんとふたり並んで歩く。


「栞さん、変なこと聞いてもいい?」

「変なこと?何かしら?」


 変に緊張して鼓動が早くなってしまう私に、栞さんが気づいた様子はない。そのことに少しだけ安堵して口を開いた。


「この前、予定が立て込んでるって言ってたけど、どんな予定?あ、言いたくなかったら言わなくていいんだけど」


 人には聞かれたくないことがある。それをわかっていて聞くのは卑怯なのかもしれない。

 それでも聞かないと何も変われないし進めないと思った。


「ああ、家の用事よ。実は京都に行っていたの。でも買ってくる時間がなくてお土産はないのよ……ごめんなさいね」


 そう言って栞さんは困ったように笑った。

 本当はその言葉が嘘でも何でも良かった。栞さんから用事があったんだと、だから行けなかったんだと聞きたかった。

 自分勝手ではあるが、これで切りを付けることができる。


「また今週末、人と会う約束があって。こっちはまだ堅苦しいものじゃないからいいんだけど」


 ん?堅苦しいとは……?


「ふふふ、いつか紗綾さんも参加することになるかもしれないわね」

「参加……?」


 私が心底わからないという顔をしていたのか楽しそうに笑って、でもそれ以上は何も言わなかった。


 栞さんと別れてひとり帰路につく。

 考えることは栞さんのこと。一区切り付けれたが、これでめでたしとなることでもない。

 ふとした時にやってくる栞さんを理想の姿で思い描くこと。

 これは私がたった今変われないことを責めても意識がすぐに変わることはない。ならば少しずつ付き合っていくしかないのだ。


 また理想を押し付けてしまった自分に気づいて反省する。その繰り返しで、今の私のままでは精神的に弱っている時に彼女に何かを口走ってしまうかもしれない。


 そんなことにならないように気をつけることしかできないが、それほど悲観している訳でもなかった。私を救ってくれた人がいたという事実があったから。

 榎本くんに依存するのではなく頼りにする。こうして支えてくれた榎本くんがいたのだから、きっとまたそういう人が現れるし、現れなくとも見つけるのだ。

 だからきっと大丈夫。


 依存しないように依存先を増やす。相反するようだが、それが自立に繋がるという。

 それが希望的観測でも、大丈夫だと自分に言い聞かせて歩みを進めた。


 こうして、栞さんの双子の弟としてではなく、榎本くんという人が大切になっていること、栞さんに隠れるようにして私の中で榎本くんの存在が大きくなっていることに、私は知るよしもなかった。


 ───


 ひとつ問題が片付いても新たに降って湧いてくるのは仕方ないことなのか。

 中学2年。人生の岐路が確かに近づいていた。


 ベッドに仰向けで寝転がり、天井をぼんやりと見つめる。


 どこの高校に進学するか。

 まだ最終的に決めるには早いかもしれないが、あまり悠長にしていられないのも事実だった。


 候補としては近くの市立高校、そしてこの世界の軸とも言えるやもしれない私立鶯森(おうもり)学院。

 鶯森学院は高等部、大学、大学院まであり、進学と就職に強いと言われている。そして歴史があるものの手入れされた芝生に美しい外観の学校……というのがこの世界での鶯森学院高等部。


 ゲームの中ではさらっとした説明のみであったが、実際に学校が存在するとなると違和感を覚えてしまう。

 まず歴史があって進学と就職に強いって名門っぽい。それに確か部活でも活躍してるらしい描写があったし、設定盛り過ぎたんかと言いたい学校だ。

 そんな学校が実在しないとは言わないが、この世界(ゲーム)の舞台であることを踏まえると、どうしても設定凄いなと思ってしまう。

 そしてゲームの中で鶯森学院がそんな凄そうな学校というように描かれていなかったのが一番違和感があった。


 まあそれはひとまず置いておくとして、ここで大切なのはゲームに関わるかどうかということだ。

 鶯森学院へ行って主人公に関わるか、それとも傍観者として見守るか。逆に主人公と関わるのを徹底的に避けて別の学校へ行くか。

 鶯森学院に受からないことも考えられるが、今までコツコツと勉強していたことから無理ではないと思っている。実際成績は良い方なはず、多分。

 家からの距離も電車を使えばそう遠くない。


 どちらにしても、今もゲームの登場人物達に興味はそれほどない。でも興味がなくとも巻き込まれる可能性はある。

 というか興味がなくてあまり覚えていないので、イベントが起きても逃れようがない。

 小学生として過ごした6年という時間は長く、私の記憶が薄れていくには十分だった。

 なんとなく顔と名前、どんな人かは覚えているが、主人公とどんな結末になっていたのかは曖昧だ。

 もしかしたら栞さんは、元から情報がなかったから覚えていられたのかもしれない。そう思ってしまうほど、記憶はおぼろげなものとなっていた。


 きっと鶯森学院に進学するか否かで事は大きく変わる。それはゲームの内容に巻き込まれるかだけではなくて、私の将来にも影響を及ぼすだろう。


 実際に生きている私達には、ゲームのような選択肢や終わりがある訳ではない。その先の人生も続いていく。

 そして出会った人やもので未来が大きく変わっていくことを私は知っていた。栞さんが教えてくれたことだった。

 彼女に出会って新しい趣味も出来たし、こんなにも何かを、誰かを好きになれることを知った。

 だからこそ、どこへ進学するかということが重要なことであることは明白だった。


 彼女と一緒にいていいのかという不安は消えていないし、知っている彼女に近づいていくことも止めることなどできない。

 ただ、彼女の側にいたいと思った時にいられるような自分でありたい。


 そう思う自分がいて、寝転んでいたベッドから起き上がる。

 今できることをやるために机に向かった。


 問題は山積みだけど、ゲームの終わりより先の未来できっと良い結末を迎えられると信じてる。

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