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3.5話 ある日の夢


「……このたびは、ご招待をいただき」

「ふん。以前スペンサー家での茶会で同席した者を招くのに、貴様一人を抜くわけにもいかなかっただけだ。空気を読んで欠席すると思いきや、真に受けてのこのこと醜い姿を晒しに来るとは……」

「……!も、もうしわけございません」


 あの日王子から醜い魔女と指をさされ、周りから追い出されるようにして、ろくに話もできないまま帰ることになった初めてのお茶会。

 しばらく家で塞ぎ込んでいたリーティアのもとに、王宮からの招待状が届いた。

 差出人はラフィザード国王妃。まだ難しい文章は読めないリーティアの代わりに執事が読んで説明してくれたことによると、王宮にて王子とその同年代の子供達との親睦を深めるためのお茶会を開催すること、それにリーティアを招待するとの内容であった。


「す、すぐに帰りま……」

「もう遅い。招待客にすぐに帰られてはこちらの面目が立たぬ」


 王子と親睦を深めるための王家主催のお茶会。

 己が姿を現せば王子を不快にさせてしまうが、王妃からの招待を断るわけにはいかない。そう思って出席を決めたリーティアであったが、お茶会当日の王子への挨拶にて、その判断が間違っていたことを悟った。


「貴様のその老婆のような髪。卑しい金の目。よくもまあ何も隠さずに外を歩けることよ。貴様の両親は娘可愛さに真実を言えないのだろうが、それで恥知らずに育っては世話はない」

「……!」


 リーティアは知らなかった。白い髪がおかしいということ。金の目が卑しい色であること。

 言われてみれば周りに同じ色を持つ子は誰もいなくて、リーティアだけが変であった。

 それでも今まで一度も家族からそんなことを言われたことはなく、今でも心のどこかで両親や兄に聞けば否定してくれるのではと思っていた。


「もうしわけ……ございません……」


 けれど王子の言葉でそんな僅かな希望も打ち砕かれた。

 家族が今までそう言わなかったのは、リーティアに気を遣ってくれていたからだ。たとえ醜くても娘として、妹として可愛がってくれていただけのこと。勿論それはありがたいことではある。しかし、今のリーティアにその愛情に感謝する余裕はなかった。


「……ふん。その様子では使用人達にも気を遣わせていたのだろうな。だがここには貴様を立ててやる義理のある者は一人もいないぞ」


 王子がぐるりと周囲を見渡す。

 つられてリーティアもあたりを見回せば、王子の言葉に勝ち誇ったような笑みを浮かべる少女達、同意するように目配せする少年達の姿があった。


「あ……」


 少女達の冷たい視線、少年達の嘲笑うような視線が次々と突き刺さる。恥知らず、醜い魔女、卑しい目だとくすくすと言い合う声が大きくなっていく。

 王子の言うことが正しい。ここにいる全ての人がリーティアを醜いと思っている。

 ずっと狭い世界で生きてきたリーティアは知らなかった。己の醜さを、この白い髪と金の目が他人にどう見えるかを——。


『月の妖精のようだ』


「っ!」


 ぐらりと視界が傾く中。ここにはいない誰かの声が聞こえた気がした。



 ◆◆◆



「……夢……」


 カーテンの隙間から差す光を浴び、リーティアはベッドの上でぱちりと目を開けた。

 ぼんやりと寝返りを打てば、真っ白なシーツの上に広がる同じく白い髪が目に入る。あの日から短く切りたいと言い出せず、六歳の頃よりずっと伸びた真っ白な髪。

 王子に、他の皆に、指をさされ醜いと嘲笑われた子供の頃の夢。こんな夢を見た朝であれば、いつもならば衝動的に振り払っていたところだろう。

 

「ううん……」


 しかし最後に聞こえた声のおかげだろうか。嫌な夢を見たというのに気分は落ち込んでいない。自分でも驚くくらい、王子達の言葉より最後に聞こえた一言が胸に残っている。

 リーティアは上半身を起こすと、サイドテーブルに置いていたブラシを取り、今までで一番丁寧に髪を梳いた。


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― 新着の感想 ―
[一言] あの王子ほんとに数年間リーティアちゃんが本当に苦しい思いをしてたのに気づかなかったのはある意味天才ですね、 綺麗な髪ってつい触りたくなっちゃうしリーティアちゃんの髪絶対綺麗だからジオだったら…
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