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嫌われ令嬢は愛されたい  作者: 鶏冠 勇真
本編

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12/28

11話 いつまでも

 

 数ヶ月後。


 さんさんと降り注ぐ日差しを浴び、瑞々しく生い茂る緑の葉。その合間に見える、まだ小さいが元気良く育っている野菜や果物。あらゆる木や草、蔓が根を張る大地は十分に水気を含み、踏めばふかふかと足が沈む。

 ここ数年『精霊に見放された土地』と噂されていたセルヴィ領は、かつての『精霊に愛された土地』としての姿を取り戻しつつあった。


「今日もいい天気ね。お弁当を持ってくれば良かったわ。こんなに綺麗な景色を眺めながら食べればきっとご飯がもっと美味しくなるもの」

「どんな景色よりリーティアの方が綺麗なんだからわざわざ景色を見る必要は無くないか?ああ、自分じゃ自分の顔は見れないもんな、なるほど。次は弁当と鏡を持って来よう」

「お弁当だけでいいわ。……私はジオの顔を見ながら食べればいいもの」


 そんなセルヴィ領の中にいくつもある農作地の一つを訪れていたジオとリーティアは、今日も誰に憚ることなく手を繋ぎ、視察という名のデートを楽しんでいる。


「おお!光の救世主様!それに奥様も!」

「みんなー!次期領主夫妻がいらっしゃったぞ!」


 すると、畑を見て回るリーティア達を見つけた農民達が一斉に手を止めて駆け寄って来た。


「一年の収穫量が水不足に陥る前の年の五割まで回復すれば養子にしてくれるって契約だから、正確にはまだ次期領主ではないが」

「いやいや、どの畑も前の半分どころか、むしろ前の五割増しかって勢いで育ってます!それもこれも全部貴方様のおかげです!」


 かつての水不足は、セルヴィ領の水源である湖を守る水の精霊が三年前の地震によって傷付き、眠りについていたことが原因だったらしい。傷の癒えた水の精霊が領民達の夢枕に立ち、それが判明した。

 王都から来た光属性使いが精霊をも治癒したのだと領民達は感謝を捧げ、その噂はあっという間に広がることになった。

 当の本人は「三年も戻すのはさすがに疲れた」と、愛する妻の膝枕で癒されている間に。


「私はジオが爵位を貰えようが貰えなかろうがどっちでも良かったけど、こうやってジオの力が皆に認められるのは嬉しいわ」

「俺もリーティアが結婚してくれるなら爵位なんてどうでもいいが、リーティアが嬉しいなら俺も嬉しい」


 定期的に届くアルブム家からの手紙によると、王都では王位継承権が第一王子から齢7歳の第二王子に移ったり、第一王子が引き篭もったりなど色々あったらしい。

 まあ、リーティアをただ一人の妃とするため他の妃候補を陥れていたアンドリューは、リーティアに逃げられた結果、成人したにも関わらず婚約者が誰も居ない状況になってしまったのだ。それなら今から妃候補を募るより、いっそ王太子の方を入れ替えて教育し直す方が良いと、アンドリューの言う通り名より実を取るらしい国王が判断したのだろう。

 王都から遠く離れた地で新しい生活を営むジオ達にとっては割とどうでも良いことだが。


「若様、良かったらこれを。今年初めて取れたホワイトベリーです」

「いいのか?ありがとう」

「奥様、俺が作ったカブです、食べてください!」

「ありがとう。明日のサラダに入れるわ」


 今ジオとリーティアは、セルヴィ男爵夫妻が用意してくれた小さな屋敷に二人で住んでいる。

 本当はジオだけならセルヴィ家の離れに住むはずだったが、夫妻が『新婚さんなら夫婦水入らずがいいだろう』と気を遣ってくれた結果だ。


「おいコラ、いつまで奥様に見惚れてんだ!若様の前だぞっ」

「あだっ!」


 リーティアにカブを手渡した青年が緩めた頬をかいていると、その隣の年配の男性、おそらく青年の父親であろう人が青年の背をバシンと叩いた。


「いいや仕方ない。うちの妻は世界一綺麗だからな。月の妖精が目の前に舞い降りたら誰だって釘付けになるだろう」


 痛がる青年の背をさすり、ジオが真面目な顔で父親を諌めた。青年が「あれ?痛みが消えた……ま、まさかこれが若様の治癒魔法!」と驚いたのを見るに、魔法も使ったのだろう。


「へぇ、寛大でお熱いお言葉ありがとうございます」


 今日も今日とて正直者のジオは、セルヴィ領にてすっかり愛妻家として名を馳せている。そしてそんな彼に寄り添う月の妖精の如く美しい妻の名も。

 実り溢れる農作地の傍らで、領民達の明るい笑い声が溢れた。



 ◆◆◆



「ジオも初めて会った時、私に釘付けだったの?」

「ああ、勿論。今夜は月が綺麗だと思ってたら、妖精まで降りてきたと思ったんだ」


 農作地からの帰り道、のどかな道を手を繋いで歩く。


「……私も、ジオが花の妖精なんじゃないかと思ったことがあったの」

「え?違うが」

「わかってるわよ!ちょっとした例えよ」


 ジオと出会ったばかりの時のことを、リーティアは今でも夢に見る。


「初めて会った日の次の日に、あの夏の木の花を咲かせてみせてくれたでしょう。あの時私、花じゃなくて、花吹雪の中で得意そうに笑ってるジオが凄く綺麗で格好良いと思ったの」


 思えばもうあの時に恋に落ちてたのだろう。ジオはリーティアを綺麗だ、妖精のようだと言うが、リーティアだって実は同じことを思っていた。


「……ずっとそばにいてね、私の妖精さん」

「勿論だ。俺の月」


 手を繋いだ二つの影が、更に一つに重なる。

 黒と白の髪も重なり合い、美しいコントラストを描いていた。



嫌われ令嬢は愛されたい、完結です。

お読みいただきありがとうございました!感想お待ちしてます。



ルックスもお金も地位も身分も女子人気も何もかも(中身以外)上等な王子様に見初められたというのに、その手を振り払ってずっと身分の低い、取り柄と言えば多少回る口とちょっとした特殊能力くらいしかない男の子を選ぶ女の子が好きです。

もう何度も同じような話ばかり書いてるのでシリーズにまとめることにしました。興味のある方は目次ページ上のリンクからどうぞ!短編verもあります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 正直者がバカを見る? 悪いが、ソイツは違うぜ! 愛を信じているやつが、最後に笑うようになってる! …みたいな作品だったなぁ
[良い点] 面白かったです。ヒロインに気付かれず囲い込むヒーローの話は良くある中、匙加減?立ち回り?を間違えると見事に失敗するんですねと。 やはりヒロインを罵倒するのが1番不味かったのかな。フォローも…
[良い点] ・美しいラスト 中央とか出世とかのメンツを気にせず田舎で幸せに暮らすってのがまたいい ・10代で異性に褒め言葉を言うのは勇気がいるのに、頑張ってそれを伝えるコミニュケーション努力する男は…
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