しあわせこれくしょん
今年で五十億周年を迎えるソーシャルゲームがあった。
ガチャ要素のあるソーシャルゲームに擬人化キャラクターがあふれているのは、サービスが続く限りキャラクターを追加し続けなければならないからだ。キャラクターには設定が不可欠だが、設定にこだわってもセールスには直結しないので、ゲームが短命に終わった場合、割に合わないことが多い。そこで、人殺しの道具や人殺しの親玉や人殺しなどの、ありものの設定がしばしばキャラクターの元ネタとして利用される。
ところが擬人化キャラクターも、元ネタの数に限りがあるという欠点を持ち、実在する元ネタをすべて使い果たすと、擬人化した人殺しを擬人化し、擬人化した人殺しの擬人化キャラを擬人化し、擬人化した擬人化人殺しキャラの擬人化キャラが登場するゲームを擬人化し、擬人化擬人化擬人化人殺しキャラが登場するゲームの擬人化ゲームをさらに擬人化ゲーム化するところまで窮まってしまった。
そのころソーシャルゲームの平均稼動期間は、サービス開始からわずか0.3秒だった。AIが毎秒新作を自動生成し、公表してもバズらなければ即刻タイトルが変わった。
そんなところへ発表されたのが、究極のソーシャルゲーム『しあわせこれくしょん ~しあこれ~』だ。手軽で快適な『しあわせこれくしょん』の前に、既存のソーシャルゲームはすべてプレイヤーを奪われサービス終了を余儀なくされた。
『しあわせこれくしょん』に登場するキャラクターは“無娘”。無の擬人化キャラクターだ。無は擬人化しても無なので、キャラクターデザインもキャラクターボイスもキャラクター設定もキャラクターエピソードもない。そしてバリエーションは無数に存在する。しかも無娘は、すべてのキャラクターが、サービス開始時点でゲームに実装済みなのだ。
『しあわせこれくしょん』では、無限個のガチャ石が毎日無料でもらえる。ガチャを引くと毎回必ずウルトラエクストリームハイパースペシャルレアの無娘が当たる。なぜなら無娘のレア度はウルトラエクストリームハイパースペシャルレアしかないからだ。毎回必ず最高レアの無娘が当たるので、プレイヤーはとてもしあわせな気分になれる。
無娘はなにもしないが、プレイヤーもただ目を閉じて瞑想するだけでいい。面倒なゲームシステムは一切ない。ゲームにログインしなくてもいい。そもそもログインして操作すべきUIがない。データを保存するサーバーもない。無娘は全キャラクターが想像力次第で無限にかわいいので、無娘のことを考えるだけで全プレイヤーが無限にしあわせな気分になれるに決まっている。こうしてしあわせな気分を無限にコレクションしてゆくゲームが『しあわせこれくしょん』だ。
『しあわせこれくしょん』のプレイヤーは、しあわせになりたいと思っている者すべてだ。人も猫もかえるもチューリップも、生まれてから死ぬまで『しあわせこれくしょん』のファンだ。実際のところ『しあわせこれくしょん』は発表前からサービスが始まっていた。しあわせを願う者達の想いが、ソーシャルゲームの隆盛する時代に『しあわせこれくしょん』という名で顕れたのにすぎない。『しあわせこれくしょん』は生命の誕生とともに始まり、今年で五十億周年を迎える。