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コンタクト奮闘記~指を目に近づけんのは怖いに決まってんだろ!~

作者: 夜月紅輝

どうも作者の夜月です。


今日ね、眼科に午前中行ってきたのですが、まあ大変でした。主に気力が。

ヘタレ精神全力です。それでも読んでくださる方は読んでみてください。

作者は燃え尽きた。

 俺はコンタクトに憧れていた。


 よくCMとかで見る"コンタクトにして世界が変わった"に憧れていた民だ。

 もともと裸眼から目が悪くなったものなので、そういった意味でもコンタクトに想いを馳せていて、高校生の時からずっと憧れを抱きつつも、メガネ男子の三年間。

 ついに一念発起し、いざ眼科(戦場)へと赴いた。


 場所はいつもメガネを買っている眼鏡市場の二階にある眼科。前々からコンタクトの処方をしていることは知っていたのでそこにした。


 コンタクトという存在は知っていても、兄や友達がつけているのを見かけたことがあるだけで、実際に触れたり、ましてや見たりすることもほとんどなかった。

 なのでドッキドキである。しかし、これでメガネフリーで裸眼のような体験ができるとなるとやはり憧れは止められない。


 眼科(戦場)にたどり着くと押し扉をあけてすぐ目の前にある受付に向かう。

 そして、保険証を渡してから少しの間にアンケートと同意書を記入。

 正直、同意書は文字がやたらめったらありとても読めたものではなかったが、要するに何回か定期受診しないと払う値段が高くなりますよ的なことだった。


 すると、係員の女性から声をかけられた。コンタクトの練習をする前に目の検査をするのだ。

 視力検査や鏡がたくさんある少し広めの空間を抜けていくとまた細い通りがあり、そこに診察室があった。そこの扉は開いていてすぐにでも通り抜けられるようになっている。


 診察室に入ると医師が何やら忙しそうに書類に何かを記入していた。まあ、他に受診者はいたのでそれ関係だろう。

 眼科によくある顎を乗せる機械(後で調べると細隙灯顕微鏡さいげきとうけんびきょうというらしい)を挟んで先ほど受けたアンケートについて話をされた。


「それでですね、要するに定期健診の一回目なら保険料が適用されるということなんですよ。けど、ただ健康診断みたいに受けに来られると保険が適用されなくなってしまうということで。それは高齢化社会になり始めた今だからそっちの方にお金をかけようということになりましてね、そういうわけで適用されなくなったんですが、それでも本当に目に違和感があって受けに来る人はいるんですね。その人は保険が適応されるということなんですが、ただそれについてこちらから判断は難しいのでこちらの書いたアンケートで―――――――」


 半分ぐらい聞き流してた。なんというか早口すぎてわからんのだ。2、3倍速の録画を見ているみたいで一回も噛むことなく、どこで息継ぎはさんでんの? と思うぐらいの速さ。

 まあ、最後まで話して結果的には保険が降りるのは初回だけって理由だったが。それにもいろいろ言っていたが、書いている今でも思い出せん。


 そして、コンタクトの練習をする前に簡単な視力検査。メガネかけてやるタイプでやった。案の定、目が酷く悪かった。


 それから、ようやくコンタクトの装着練習が始まった。

 最初は簡単なビデオを見た。コンタクトのつけ方ビデオだ。まあ、見ている限り余裕だと思った。兄にも出来てることだし出来るだろうと。

 それに大体どんな感じは知っていたので、すぐにいけるだろうと。


 見込みが間違っていた。それから、俺の不毛な格闘の時間が始まったのだ。


 ビデオを見終わると爪切りと手洗いだ。

 コンタクトつけている人にはわかるだろうが、爪切りは黒目の部分を傷つけないよにするため。そして、手洗いは雑菌が入らないようにと想像がつく理由だ。

 といいつつも、初心者の俺は爪が長かった。どうしようと思っていると係員の女性が洗面台と爪切りを貸してくれたので、そこで爪をパチンと切って手を清潔にする。


 そして、少し場所を映って鏡の前に座る。そこには右目と左目でそれぞれ度の違う練習用コンタクトレンズが置かれていた。

 俺はビデオの内容を思い出しながら手順を一つずつやっていく。


 まず初めに、コンタクトレンズが入った容器のホイルを開ける。

 そして、右手でつまむように掴むと左手に移し、右手は湿り気を取る。

 それから、右手(利き手)の人差し指にレンズを乗っける。だが、すぐにはつけない。それはレンズには表と裏があって、表向きはおわん型になるのに対して、裏側は少しくぼんだ形で見分けられることになっているらしい。

 ビデオにはレンズに数字が記入されてる場合もあって、その向きで判断することもできるらしいが、今回は違うのでスルー。


 レンズの形をしっかりと確認するといざつける作業へ!


 ビデオによると聞き手と逆の手(俺は左手)を頭の上から通すようにして上まぶたを引っ張り上げる。そして、利き手(右手)は人差し指にレンズを乗っけると中指で下まぶたを引っ張りながら入れていく。これだけだ。


 だが、これが俺には本当に苦手だった。自分でもびっくりするくらい。


 一回目。

 入れようとしたが目に人差し指を近づける恐怖で思わずまばたきをしてしまう。


 二回目。

 再トライだ。なんとかまばたきを我慢して目にレンズをつけようとする。しかし、目の下の方にレンズをくっつけるようにしてしまい、柔らかいレンズは変形してしまった。


「レンズも乾いてくるので、目に付きやすいように一度液に入れて湿らした方がいいですよ」


 近くで見守ってくれている女性のアドバイスだ。液とはレンズが入っていた容器に一緒に入っているもののことだ。単純にレンズが乾かないよう対策で。

 初心者の俺はアドバイスを無下にしてはいけない。ありがたくそうしよう。


 三回目。

 左手の人差し指で押さえていた上まぶたがつけようとするときに落ちてくる。少し人差し指が湿っている。恐らく右手の人差し指の湿り気を取る時に持ち替えたのが原因だろう。


 四回目。

 先ほどの失敗を繰り返さないように左手の湿り気を取って再トライ。しかし、俺の意思に反してまばたきしてしまう。

 うん、怖い。やっぱり思うけど怖いよ。指を目に突っ込むの。


「最初は上まぶたがしっかりあいているのでそれを維持すればイケます」


 とのことだ。だが、それが上手く維持できないので困っているのだが。


 五回目。

 ということも言えないまま、再再再再再トライ。

 今度は上手く指に目が触れた感触があった。

 くっついたと思った。

 指を放してみる。

 ただ人差し指に裏返って張り付いているだけだった。


「目を動かさなければいけます!」


 目を動かすなってどういうことよ? いや、言いたいことはわかってるんだけど......ね? その.......難しいのよ。


「指が入っていくのを見ると怖いので、鏡に映った目をジッと見てください」


 ほうほう、なるほど......でも、あれですよ? 鏡の自分の目をジッと見ながらやっていたら、人差し指が迫っている余計に見えてしまうんですが?


 ということも言えないまま、途中で女性がレンズを洗う液を用意してくれたのでそれで乾き始めたレンズを洗う。

 まだ早いと思うが、この時から若干の諦念を感じながら払拭するようにトライトライトライ。


 正確に数えているわけではなかったが、七回目も八回目も九回目も十回目も十一回目も十二回目も最初の一~五回目のどれかに当たった。


 しかし、数的に多かったのは上まぶたが落ちてくることによるものだ。やはり指が目に近づくたびにまばたきの回数が多くなってしまうらしい。

 この時から「俺、コンタクト向いてねぇんじゃないか?」と思い始めたのは言うまでもない。

 とはいえ、言わせてもらうなら怖いのだ。本当に怖い。指先を目に近づけるとか正気の沙汰じゃない気がする。

 だが、友達や兄はこの試練を乗り越えた先にいるのだ。なんというか、すぐ近くにいた存在がとんでもなく遠い距離にいるように感じた。


「大丈夫ですよ。上まぶたは上がっているので、それを維持したまま目を動かさずに行けば」


 女性は途中からこの定型文から似たようなことしか言わなくなった。

 まあ、実際やるのは俺なんだし? それしか言いようがないのもわかっているが......他にないものか。


 すると、その想いが届いたのか新たなアドバイスが送られてきた。


「もう少し目じりからガッと上げた方がいいかもしれませんね。それからまつ毛のある部分から引っ張る感じで」


 意外と難易度高めだった。まつ毛からって......それ左手の人差し指目に入ってないですか?


 ともあれ、文句ばっか言っていても仕方ないので一応チャレンジはした。その女性からも「いい感じです」と言われた。

 結果? まあ、言うまでもないよね。


「まぶたが上がらない.......」


「まあ、恐怖心で思わずまばたきしてしまいますよね。ですが、そこを我慢すればなんとか......」


 どうやら言葉に漏れていたようだ。とはいえ、結局のところそこに収束するらしい。知ってたけど。


 それからも、果敢に挑み続けた。本当に挑み続けた。マジで挑み続けた。しかし、どれも結果は失敗。

 どんぐらいやったのだろうか。数えてないのでわからないが、感覚だけで言えば20回は確実にトライしている。


 すると、女性がまたあることを提案してきた。


「それでは実際にこちらで入れてみましょうか? 一度入れれば恐怖感も収まるでしょうし」


 その言葉に素直にうなづけなかった。人にコンタクトを入れてもらうという羞恥より恐怖があったのだ。あれだ、わかる人にはわかる安易に人に耳かきさせたくないやつと同じだ。自分には自分の感覚があり、タイミングがある。

 それを言っているからダメなんだろうと思う人もいるだろうが、それが結構当事者には大きなことだったりするのだ。


 俺は逡巡しながらもその案に承諾。そして、やってもらった。


 レンズは二回目のトライで、「目を動かさないでください」という言葉によりようやく右目だけ入った。

 入ったら確かに違く見えた。近視であるうえに乱視も入っている我が身は若干のブレ(恐らく左目の)はありつつも、クリアに見えたことは確かであった。

 しかし.......しかしだな。


 右目の下あたりがとてもゴロゴロするのだ。女性は「最初はそんなですけど、慣れますよ」というのだ。

 まあ、確かにそうなのだろう。俺も最初にメガネかけた時は目と目の鼻筋というか、メガネのパットが当たる部分が非常にムズムズしたのを覚えている。そんな感じなのだろう。


 とはいえ、先ほどから抱き始めていた諦念感と虚無感が抜けないのはどうしてだろう。

 .......あ、自分でつけてないからだ。


 よく見れば右目の目じりの部分が充血してる。いつの間にしていた。どの時に傷つけたのかはわからないが、もしレンズが入った時であれば少し不満は残る。


「左目もやってみますか?」

 

 俺は無言でうなづいた。

 それはコンタクトをしてみたいという気持ちもあったのだが、やらなければ申し訳ないという気持ちもあったからだ。

 というのも、七回目~十二回目の間に実は右目のコンタクトレンズの新しいやつを出させてしまっているのだ。

 レンズは目に入るものだから清潔でないといけない。にもかかわらず、一度無くしていたりするからだ(後で見つけたけど)。それで新しいものを出させてしまっているわけで......やらなきゃ申し訳ない気持ちが沸き上がったのだ。


 左目も右目と同じようにやり始めた。

 女性が言ったように「一度入れれば恐怖感がなくなる」という言葉を信じて――――――も結果は変わらなかった。

 怖かった。バリバリ怖かった。“バリ”がいくつあっても足りないくらい怖かった。

 まばたきめっちゃした。とにかくした。何度か上手くいきかけてたけど、左まぶたがいらんスーパーセーブを連発して入らなかった。

 まあ、そりゃあそうだろうなという気持ちもあった。だって、自分で右目入れてないんだもの。


 慣れてくると思っていた右目のゴロゴロ感も依然残ったまま。

 左目はやはり自分では入れられない。

 怖い。無理。目に指を近づけるとかやっぱどうかしてる。


 そして、深いため息とともに女性に告げた。


「すいません。俺、コンタクトやめます」

後日談としては、右目のレンズも外してもらいました。うん、自分にはそれすらも出来ませんでした。

女性からは「外す方が簡単ですよ」と言われ、模型まで使ってレクチャーを受けたのですが、まあ無理でした。

人には向き不向きがあると言いますが、まさかこんなところまで発揮されるとは......


いつか心に安寧が戻ったら挑戦してみるかも?(恐らくないですね)


それでは、皆さんにはコンタクトレンズが無事に入ることを祈って、さよならです。

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