救い人
この街に何が起きたんだ。久しぶりに訪れたタートに入るやいなや、僕の目には崩壊した家、泣き叫ぶ人々が写った。
どこを見ても目に入るのは、始まりの街として親しまれ、多くの観光客が訪れていた街とは思えない光景だ。
血が滴っている左腕を右腕で押さえている大男が僕の前を通りかかる。他と比べ、冷静ではあるように見える。僕はそう判断して、その大男に問いかけた。
「この街で何が起きたんですか?」
「魔族に襲われたんだ」
「魔族、こんな場所にまで?それにこの荒れようでは、かなりの数ですよね?」
「いや、1人だ。たった1人に俺らは蹂躙されたんだ。あんたには悪いけど俺はもういくぜ。助けられる人は助けたいんだ。」
たった1人の魔族にだと……。それはもうお伽噺の世界だ。いや、魔王は可能だとは聞くが。
今は、こんなことを考える時ではない。僕になら助けられる。多くの人の命を。
僕は救い人だから。
街にある教会には怪我人が集められていた。僕は魔法で怪我を癒しながら、現状を考える。
まず、怪我人が多過ぎる。国の救護隊が到着するまでに、応急処置だけはしておきたいが人手がたりない。助けられない人も出てしまうかもしれない……。
さらに街の人の精神面が心配だ。体を癒しても、心までは癒せない。未だに、多くの人が顔をひきつらせながら、震えている。
魔族の被害者は一生のトラウマになるだろう。その辺のケアも考えなければ。
やることは山積みで、人手は足りない。
僕はその魔族を許すことはできない。
絶対に。