伝承
平原の遥か先から上ぼる太陽。その光景を大きな岩の上から眺めながら、俺は祖母から聞いた昔話を思い出していた。
* * * * * *
この大地はのぉ、唯一神ハーデ様が自らの左腕を切り落として創造なさったのじゃ。ハーデ様が流した血は海に、肉は大気に、骨は大地に、皮膚は天になった。
ブレーバー、お主は空を見るのがすきじゃったろ?ハーデ様の皮膚は、あの青空のように美しく、また、絶え間なく変化し続けているのじゃ。
少し話がそれたのぉ。ハーデ様がこの世界を創造された後、次に創造されたのが人族じゃ。
初めにヒューマン。
次にエルフ、ドワーフ、アニマルズの順で創造なされたとされておる。これは種族によって主張が異なり、各種族が今もこう主張している。
「我が種族が最初に創造された」と。
今も、と言ったがのぉ、ああ、そうじゃ。昔も同じような主張が起きた。主張が始まったのはハーデ様が世界を創造されてから、千年ほど後だとされておる。
それぞれの種族は互いにわかり会えないと判断し、戦争が起きた。これが、原初戦争じゃ。
ヒューマンは知恵、エルフは魔法、ドワーフは技術、アニマルズは身体能力を武器に戦った。
大地は荒廃し、海の水は干からび、天は戦いの煙で覆われた。
その様子を見たハーデ様が悲しみになり、各種族の生息了承区域を定めたのじゃ。戦争は終結したが、今なお小競り合いは続いておる。
生息了承区域というのは、お主も15才になるし、知っておるとは思うが、簡単にいうと各種族の縄張りのことじゃ。儂らヒューマンにとっての国土じゃな。
そしてのぉ、最近――といっても、数百年程前からだが――人族が争うことによって生まれる邪心から魔族と呼ばれる存在が生まれた。
奴ら魔族は儂ら人族に多大なる敵意を抱いていて、殺意をもって、襲ってくる。邪悪で恐ろしい魔法を容赦なく使ってくるせいで、多くの人族が命を落としている。由々しきことにのぉ。
そして、奴らを束ねているのが魔王じゃ。魔王は圧倒的な力で侵略を始めた。抵抗する力をもたなかった人族はその数を減らしていき――現在は人族の人口は半分未満にまで減少している。
こんな危機的状況だというのに人族は協力しようとしないのじゃ。
しかしじゃ。今から約100年程前にハーデ様からの信託があったのじゃ。
人族に100年後、勇者が生まれ、勇者は15になった時、世界を救う旅に出る。そして魔王を打ち倒し世界に平和をもたらす、とな。
それからというもの、儂ら人族は待った。勇者を。必死に耐え用途していたが、やはり魔族は強いのじゃ。減少していく人口、荒廃していく大地、汚染されていく大気。それらは、目にしたこともない原初戦争を頭に過らせた。
じゃが。じゃがのぉ。儂はのぉ、分かっているのだ。
何を?――誰が勇者か、じゃよ。
信託の続きにはこうあるのじゃ。生まれる勇者は黄金の髪を、太陽のように赤く輝く瞳を、そして人を惹き付けるカリスマ性を持つと。
そして、その子が生まれたらこう、名前を付けるようにおっしゃったんじゃ。
――勇者と。