第28話 『大規模作戦 Ⅴ クロセル討伐作戦 終結 』
何もできないまま、当日を迎えてしまう。
門の外で集合する。空は晴れてて風もない。いい天気である。吹雪く心配はない、のかな。
「集まってくれてありがとう。私は聖騎士団長のクレス・オリシオンだ」
団長、見るのは初めてだ。まだ30歳弱くらいだろう。金色の短髪で目鼻立ちがしっかりしてる。
「今回の討伐目標は強敵だ。皆、全力で頼むぞ!」
おぉ!と士気はかなり高い。人数も結構多い。聞いた話だと聖騎士団40名と私兵(わたし達のこと)は40名弱だそうで、わたし達のように賞金稼ぎの者も居れば警備兵から参加したもの、腕自慢の用心棒も何人か来てるとのことだ。
作戦は魔術師主体で、浮いてるクロセルを下に下ろす。それを戦士達が叩く。というものだ。
クロセルはどういう訳か、氷の槍、仮に『アイスランス』と名付けた。これを使うとき、使う対象に近づいてくるそうだ。そいつを使わせる。あと雨の様に氷の針を降らす『アイススコール』も使うそうだ。数は多いが威力は大したことないという。
隊列は数を大きく三つに分けて、三方から攻撃する。
魔術師を正面に、その前に防御を固める、そして左右から攻める。正面から追い立て、左右でとどめを刺すという感じだ。
わたし達三人は右側だ。マーくんは魔術師隊に行ってて今回は別行動になる。 ソフィは左のリーダーになっている。
偵察隊からの報告。奴は近くにいるそうだ。そちらへ向かいつつ少しずつ三方へ別れていく。
森に入ってしばらく進んだあたりで右側のリーダーから待機命令が出た。
少し休んでいると後ろから声をかけられる。 「あれ、お前らもいたのか」
「あ、筋肉さん! あなたも来ていたんですね!」 アイナ村で出会った用心棒の鬼さん、ロイさんだ。
「たまたま立ち寄ったら面白い話聞いてな、来ちまった訳よ」
装備を見るとザ・戦士という感じで盾に剣に鎧を着込んでる。あの鍛えられた体はこの装備をいつも着てるからなのだろうか、見るからに重そうだ。
「何か来る気を付けろ!」
という誰かの声で一気に緊張感に包まれる。
進行方向の先から黒い生き物がこちらに向かってきている。
あれは、狼?
黒いもやもやが漏れ出してる。目も赤く普通じゃない。
「恐らく使い魔だ! 先手を打たれた! 数は5! 数人で当たれ!」
こちらは二十人程、一体につき四人と言ったところだ。
一体と向きあう。相手は1m半くらいの大きさだろうか、もう少し大きいかもしれない。
「グルルル……」と威嚇してるようだ。
こちらはわたし、レア、タク、ロイさんで四人。ロイさんの動きが分からないので好きに動いてもらう。
様子を見ながら動く、目がこちらを見ている。下手に動けないでいると、ロイさんが動いた、盾と剣のリーチがあるからか様子見といった感じで正面から突っ込む。剣の振り下ろし、鋭いが躱されてしまう。フットワークが軽そうだ。動きを止める必要がありそう。
連続で切り付けるが当たらない、少し大降りになった隙を見て狼が前に出る。すれ違いざまに爪で切り付ける。何とか盾で防いだ。だが後ろの木を踏み台にしてさらに後ろから切り付ける。これ何とか防ぐ。全方位からの猛攻だ。と感心してる場合じゃない。助けに入ろうとした時、狼の進行方向をよんで盾でバッシュ。良い当たり。うめき声をあげて飛ばされるが宙で体勢を立て直して綺麗に着地をする。
そして最初の形へ戻る。
「なかなかに大変だ、これはお二人さんが鍵だな」 うん、とレアと頷く。
狼を挟むようにして飛びかかる。あの脚で動き回られると面倒だ、脚を狙う。正面にはロイさん。後ろにはタクが控える。レアが先に切りかかり、狼の回避行動の先を読む。時間差攻撃だ。
予測は当たり。何とか前足を切り落とすことに成功する。一つ無くなれば大分やり易くなる。もう一度飛びかかると、後ろから気配を感じだ。狼がいる。傷だらけだ。反応は何とか出来て変な体制のままナイフを首元へ突き刺せた。だが、爪は躱せなく太ももに大きな切り傷を負ってしまう。
そのまま勢いも殺せずゴロゴロ転がって足を投げ出す形になる。
「いっ……つ……っ!」 傷を見る。結構深い。血も結構出ている。まずい。やばい。やばい。 『ハイヒール』といつの間にか近くに居たタクが回復してくれた。「大丈夫か! ちょっと休んでろ!」 とすぐに狼へ向かっていく。こちらが優勢だ。前足一本無いのはかなり大きいようだ。
辺りを見る。傷ついた人が多い。ヒールも使う余裕がない人が殆どのようだ。
近くに腕を押さえて蹲ってる人がいる。動けないのだろうか? さっきの狼はこの人たちと戦ってたのだろう。
さっき首に一撃入れた狼は横に倒れて動かないでいる。そして少しして、霧のように辺りへ散っていった。
使い魔、だからなのかな。
レア達が狼を倒した。ロイさんの一突きが首に入り、それがとどめとなった。案の定、霧のようにして消えてゆく。
他の狼も倒されたみたい。みんな満身創痍だ。
わたしは、足の調子は大丈夫。体調も悪くない。
「動けるものは先に進む! 怪我人は休んでろ! まだ戦いは終わってないんだ!」
そうだ、まだ終わりじゃない。クロセルが、まだ居るのだ。
狼との戦闘で気付かなかったが、近くで戦闘音が聞こえる。恐らく本命がそこに居る。早足で近づくと空に黒い人影が飛んでいる。
クロセルだ。
魔法が飛び回るクロセルを追尾してる。あれが上位魔法だろうか。
氷で撃ち落としたり、落ち落とせずに喰らってしまうしてる。狙い通りに『アイスランス』を使わせているが、最初に会ったときより、キレがないというか。
ワザと外してる……?
なんで、わたしとの話を、聞いてくれてる……?
また飛び上がる。
そこでこちらを見た。目が合った。苦しそうな顔をしていた。
「キィィィィィィィィ!!!!!!!!」 と金切声をあげ、空に無数の氷の棘が浮かび上がる『アイススコール』だ
「こっちへ!!」 とロイさんが盾を掲げてわたし達三人を守ってくれる。
ガガガガガガガガガッ!!!
と一帯を針だらけにしてしまう。数が多い、威力が無いと言っても当たり所が悪ければ命に係るだろう。
そこでまた魔法の反撃だ。大きい火の玉が直撃する。爆発音とともにクロセルが下へ落ちていく。
落ちた衝撃で雪が舞って視界が悪くなるが、クロセルの持ってる物の一振りで吹き飛ばす。
あれは剣だろうか?
「キィィィィィィ!!」と凄い速さで魔術師方面へ突っ込んでいく。
「我らも行くぞ!!」とリーダーに促されて走り出す。
クロセルは巧みな剣裁きで打ちあっている。
少し遅れて左方面の人も辿り着いたようだ、同じように向かって行ってる。
クロセルに目線を戻した瞬間に姿が消えた。
気付くと遅れてきた左方面の隊に居た。なぎ倒してる。また消えた。今度は正面へ行く。誰かと剣戟を交わしている。
あれは団長だ。
クロセルと互角以上に渡りあっている。
すごい……。
いつの間にかクロセルを中心に3つの隊が集結している。
また消えた。左の方だ。
また消える。今度とは空に居る。
ゆらゆら浮いている。また消える。
すると左のリーダーと思わしき人の居たところへ『アイスランス』が突き刺さる。
雪が舞う。だが私には見えていた。ソフィが剣を弾かれ飛ばされたのを。
自然と体が動いてしまった、距離は近いすぐに追いつく。
クロセルが片腕を押さえてるソフィに剣を振り下ろそうとしている。
だめ、だめ! それは、だめっ!!
気付いたらクロセルとソフィの間に割って入っていた。
クロセルは驚いていた。剣の動きも止まる。けど、苦しそうな、悲しい表情をしていた。
「ク……」
声をかけようとした直後、クロセルの首が宙を舞った。後ろからの一閃。団長だ。
宙を舞ってる中、何故か微笑んでいた気がした。そして口が動いた。何かを言ってる……?
それにあれは涙……?
重力に従い、首は地に落ちる。
そして、地面に溶けるようにして消えた。
辺りが静寂に包まれる。
「……やった……?」 と疑問混じりの喜びが火種となり、一気に歓声が上がった。
辺りは怪我人こそいるが死人はいない。
……。
みんなが歓喜している中、わたし一人だけ、悲しみに暮れていた。
「なんでわたしは、中途半端に、関わっちゃうのかな……」 涙だ、溢れてくる。
嫌なら嫌と、断って、殺して周ればいいのに、笑いながら殺せばいいのに。好きなように残虐をすればいい。
なのに、わたしなんかの戯言を、聞き入れて、自分は傷ついて居なくなってしまって……。
死んじゃう時だって、笑って、なんで、わたしにそんな笑顔を向けられるの……?
ごめん、なさい。クロセル。ごめんなさい。わたしが、わたしと関わったせいだよね。
涙が、止まらない。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
この戦場で一人、ただ一人だけ、泣いていた。




