アセッション
裕也、マリ夫婦と出会った時の沙紀は
スピリチュアルとは無縁の世界で生きていた
コミ障で仕事が覚えられない学習障害、
頭の中は常に忙しく動いており
その癖、集中力がなく直ぐに眠くなる
人見知りでいつも音と人の視線に怯えていた
そして幻視幻聴にも悩まされていた
いつも早くあの世に帰りたいと希死念慮じみた事も考えていた
今思えば、あの時の私には多くのものが憑いていた
世の中に対しての怒り、憎悪、運命に対しての絶望感、虚無感
それらが引き寄せたかもしれない
私自身が同じ波長を持つ地縛霊のような暗い闇を引き寄せていた
そんな時にマリと出会った
マリとの会話は殆ど覚えていない
只、マリの発した第一声が記憶に強く残っている
「以前の私と似てますね、今辛くないですか?」
マリの声は慈悲に溢れており沙紀の目から自然と涙が溢れてきた
マリの声を聞き、恰も光が闇を溶かす様に
光が増して魔が消散し部屋全体が白い光で覆われたみたいに、
私が私でなく、身体感覚がなくなり魂となる
私は貴女、貴女は私
頭の中で意識体が沙紀に話しかけてきた
貴女も早く光のステージに来て下さい
景色も占いブースから別空間に変わった
次から次へと白昼夢が現れてきた
全く統合性のない断片
そこはパン屋の店内、
色とりどりのパンが可愛いバスケットに入れられ並んでいる
窓からは柔らかい陽光が差し込んでいた
パンが並んでいた奥には階段があり左右の壁には
絵画が飾ってあるギャラリーになっている
風景画に抽象画、人物画が規則的に飾られている
階段を上がる地面の所々には白と黒の升目がある
先に登って行く人達が見えた
そして黒い升目が穴に変わり声もあげずに落ちていく光景も見える
女の子みたいな色白で華奢な男の子も歩いている
この子はモテるだろうな夢の中の私は感想を言っている
椅子に座ってコンビニ弁当を食べてる小太りの中年女性もいる
男の人もいる、その人の手が顔に見えて怖い
色が白くてのっぺらしている全く個性の無い顔をした中学生ぐらいの女の子もいる
また場面が変わった
こじんまりとしたカフェにて見知らぬ男の人と昼食を食べにきた
先客には赤ちゃんを連れた母親と
その親であろうお婆さんとお爺さんの4人家族がいた。
赤ちゃんはひどく泣いていた
寝むたいのだろうか
お母さんは困り果てた顔をしてあやしていた
私は男の人とその後ろのテーブルが予約席となっており案内された
木目調のテーブルに食前にきたアイスコーヒーを置き
後ほど運ばれる料理をインスタ映えするように私は一口啜り只管待っていた
連れ合いの男性は写真を撮す事に興味がなく
先に来た自分の料理を私の前で徐に何も言わず食べ始めた
エスニック料理
麺料理はビーフンで
私は心の中で残念感でいっぱいとなっていた
また変わった景色
人工的な並木道、平日の昼下がり
空は曇天で今にも雨が降り出しそう
歩く人達も心なし早歩きとなっていた
規則的で人工的な景観を作り出した道路の左上方には
「この先、冠水時は通行できません」と書いた看板が目に入った
私も雨が降る前に急がなきゃ
何これ?
次から次へと夢の中で場面が変わっていく
しかも全く整合性がない
白昼夢の断片が続く
今度は水の中
私は透明な水底でふわふわと漂っている
水と光が交わる無音の世界
そして私は光に包まれ暖かい世界に帰る
ここで現実に引き戻された
マリと出会って数秒の事だと思う
会話しなくても精神感化したのだろう
沙紀にとってマリは自分の分身
唯一無二の信頼できるパートナーとして
沙紀の魂が認識した
そして身体にも変化が起きた
肩凝り腰痛が嘘みたいになくなり楽になった
呼吸も整い柔らかい光に包まれた感じになった
この世のものが全て慈しくなり優しい心持ちで満たされた
大庭マリ
彼女も特異な業を持ち波乱万丈な人生を送ってきた女性
憑依体質で嘗てのマリは二人の地縛霊を心に住まわせていた
小さな女の子と憎悪に満ちた男性の二人
霊能者によってお祓いを受けて一命は取り止めたが
憑依されたマリは
夫の裕也を自ら手にかけようとまでしていた過去を持っていた
マリが指摘した沙紀自身にも気付かなかった体質
沙紀もエンパスと共に浮遊霊の依代となる特異体質である事を、
「沙紀ちゃん大丈夫?また赤いオーラを放ってるよ」
マリは穏やかに言葉をかけてきた
赤いオーラ、この色は怒りを表す
「自らの怒りに身を焼かないでね」
沙紀はマリと同じく霊を引き寄せ、依代にしてしまう
引き寄せの法則
事象として昨日、痴漢被害にあった
痴漢を引き寄せた理由なんか知らない
でも今、沙紀を苦しめているこの怒りの感情が
負のオーラが大好物であるその世界の闇の住人
地縛霊、それらを無意識のまま引き寄せ
沙紀の身体に纏わりつかせていた
沙紀は深呼吸をして怒りの感情から平常心を取り戻そうと努めた
痴漢にあった事は単なる事象
過ぎ去った事象
沙紀の今には何も関係ない
私は守られている
誰も私の心を傷つける事はできない
徐々に沙紀の心は穏やかに回復してきた
呼吸も静かになってきた
「オーラがピンク色に変わったね、もう大丈夫みたいよ」
マリの言ったとおり身体がすっと楽になった