2.中華からあげ
いつも人気のなくて、やっているかどうかもわからない喫茶店。ここ数日は人の気配がし始めたからなのか、素朴とはいえ、メニューが1品増えたからなのか朝ご飯を食べにくる人がちらちらと見受けられるようになった。
とはいえど、お日様が頭に来る頃には閑古鳥が鳴く始末であり、相も変わらずお店が何故つぶれないのか町の七不思議となっていることもつゆ知らず、お店の少女は早くもお店の手入れを始め、お店には心地よい鼻歌がお店の中を包み込んでいった。
お日様がほんの少し、西へ傾いた頃、鼻歌を遮るように入口のドアベルが待ち焦がれた人の到着を合図していた。
「あっ!美夜さんいらっしゃいませこんにちは!えへへ、いつも甘えちゃってごめんなさい。今日のご飯はなんですかっ!」
あの日以来、結局毎日ご飯を作るために通うというどっぷりとしたはまり様で、子供はおろか、交渉すらしたことのない女性は本日も母性にかられ、娘に食事の用意をするのである。
ここ二日前から厨房には以前まではなかった、本格的な調理器具がキッチンを飾り付けていた。美夜自身、ありえないことをしているとわかっていながらも、今まで肌身離さず持ち続けていた料理人の商売道具をお店に飾りっぱなしのまま。毎日通っては作っての日々だが、不思議と飽きは感じなかった。
手入れの行き届いたまな板の上にはふっくらとした桜色の綺麗な鶏もも肉がずっしりと座らさせられると、包丁を受け入れるかのようにプリプリとした身は一口では難しそうな少し大きめのサイズで転がっていく。
そんなお肉のために、フライパンにはとくとくと、少し黄金がかった透明な液体を注いでいく。ガスに火を点けるとそれは、少し湯気を出し始め、少量の小麦粉をかけると炭酸のような泡がふつふつとお肉を待ち焦がれている。
それを皮切りに、皮の付いたままの鶏もも肉をフライパンの中へ投入していく。するとみるみる間に、桜色だったお肉は白身を帯び始め、フライパンの腰まで注いだ油のパチパチという音共に香ばしさが充満し、早くも厨房の外から微かにお腹の音が聞こえてくる。
自前のエプロンを着た料理人はその香りを堪能しながら、小さめのボールにザクザクと微塵にしたネギを醤油、お酢、砂糖、さらに少し隠し味にはちみつで和えていく。それを少し小指で一口舐めると、自然と顔がほころんでいく。まだ、寒い季節ではあるものの、厨房の中はぽかぽかである。女は最後に香りづけにごま油を少し垂らしてあとはメインのお肉待ちである。
お肉の様子を伺うと、あれだけ桜色のでっぷりしたのが姿を変え、きつね色にきゅっと引き締まったスタイルをしていた。ぷよぷよしていた皮も菜箸でつつくと、硬めの反応を示すとアツアツの油温泉は店じまい。
大きめの平皿には朝の残りのサラダが敷かれており、その上にきつね色のこんがりお肉が5切れ大胆に乗せられていく。そのうえから片手間に用意した黒味のかかった艶のあるネギ入りソースが香ばしいお肉を伝ってサラダに味をつけていけば、油淋鶏のよい香りが厨房から外へ漏れていった。
少女は彼女が来ると必ず、お店を<close>の札に変えてしまう。もちろん今日も彼女の料理を独り占めするために変えてしまうと椅子で子供のようにお箸を構えて胸をときめかせている。
厨房からの匂いだけで、我慢するのが大変だったのに目の前に置かれれば興奮は最高潮に入ると通常営業の少女の可憐さはなく、食いしん坊な娘に代わった少女は噛みしめたときのかりっとした音と共に中から引きしまったプリプリの身と肉汁があふれ出していく。そんなお肉の甘味に追い打ちをかけるようにネギソースの甘酸っぱくて香ばしい風味が口と鼻から胃へと伝わる。
今度は、下に敷いてあるサラダと一緒に口へ運ぶと、お肉のジューシーさとサラダのさっぱりがよく調和して最後までしつこくなく、ついつい1つ、また1つとお皿からお肉たちが少女のお腹に姿を消す。
ここ数日毎日毎日見ているような光景だが、女にとってはそんな、少女が笑顔で食べ続ける毎日が続いていることをいつも夢心地に感じていて、いる影にまた、いつ崩れるかわからないそんな焦燥感にかられるのだった。
寒い季節となってまいりました。
喉にはおミカンだけでなく、レンコンもいいそうです。ムチンとかいう成分がいい?とやらで
レンコンいっぱい入れた煮しめとかもいいですね。唐辛子とかもいれて温まりたいものです。