真相はいつも切り立った崖の上でばかり明らかになるわけではない。
なんだか全体的に昭和の匂いがするというか、昭和の匂いしかしないです。
小倉雪奈の実家である『小倉理髪店』は2階建の店舗兼自宅で福山駅前商店街の一画にあった。
ここも例外なくシャッター商店街だが、比較的人通りは多く、平日の夕方のこの時間には仕事帰りのサラリーマンや主婦や学生が歩いている。
閉店してはいるものの、看板はそのまま残してあった。
裏口に回り、インターホンを押す。男性の声で応答があった。
和泉が警察です、と名乗るとややあって高齢の男性が玄関に出てきた。足が悪いらしく杖をついており、分厚い眼鏡をかけ、補聴器もつけていた。
「こんにちは、警察の者です。少しお話してもよろしいでしょうか?」
「……雪奈のことか? わしは何も知らん。雪奈のことなら女房に聞いてくれ」
眼鏡の奥から小さな目が猜疑心いっぱいにこちらを見ている。
「奥さんはご在宅ですか?」
「あいつはカラオケだボーリングだ、買い物だと毎日出歩いとる。来週は海外旅行だときたもんだ」
「……失礼ですが、こちらのお店は経営難で閉店されたと伺いましたが?」
マズいことを言っただろうかという顔で主人は口をつぐんだ。
「とにかくわしは何も知らん。あいつが帰ってきたら聞いてくれ」
そう言って足を引き摺りながら奥へ引っ込んでしまう。
和泉と結衣は顔を見合わせた。
「確実に何か隠してますね」
そうだね、と答えて和泉はすぐ隣のクリーニング屋に眼を向けた。
店番をしていた中年女性は暇そうに欠伸をしていたが、刑事達が入ってきたのを見て客だと思ったらしい。
いらっしゃいませ、と慌てて背筋を伸ばす。客ではないことを詫びてから和泉は警察手帳を示した。すると店番の女性の顔がぱっと綻んだ。
良い意味ではなく、何か底意地の悪い意味深な笑顔である。
「お隣の小倉さん、景気がいいみたいですね?」
和泉が話しかけると店番をしていた女性は、待ってましたと言わんばかりに話し出す。
「そうなんですよ! ご主人が身体を悪くしてお店を閉めた後は、それこそ毎日病院通いでお金がかかってかなわないってぼやいていたのに、急に羽振りが良くなって」
その時、客がやってきたので、話は一旦中断した。しかし店番の女性は接客が終わると同時に急いで刑事達の元へやってきた。
「こないだなんて有馬温泉に行ってきたって、お土産くれたんですよ。有馬温泉て高級な温泉街でしょ? 今度はお友達とグアムですって! 宝くじでも当てたんでしょうかね?」
なるほど、一般市民の感覚とはそういうものか。
刑事達にしてみれば急に金回りがよくなったイコール、誰かの弱みを掴んで強請っている、という図式しか浮かばない。
以前はこの続きをムーンライトノベルスに投稿していたのですが、よくよく考え直してみたら、何の問題もなく通常ページに載せられる内容だと思い至り、4から再投稿しています。
まだ続きます……果てしなく。
かつ段々とBL要素が濃くなります。すみません。