プロローグ
「ユッキーナイスクリア!」
味方ゴール前で、俺の目の前にボールが転がってきた。それを前方に向け、思いっ切り蹴り飛ばした。やる気もなく、ほとんど立ちつくしていただけにしては良い判断だと、自分を褒め称えたくなる。ボールは勢いを増し、優にセンターラインを割り、相手側のフィールドに落ちた。俺の出番はここで終わりか、と校舎に目を向ける。
「あと十分か……」
校舎の真ん中に掛けられている大きな時計が時を刻んでいる。それにしても、珍しく暑い。風も吹いていないのでここにいるだけで暑いと感じてしまう。通り過ぎたはずの季節に、太陽はまだすがっているのだろう。そうでなければ、ここまで暑くはない。だから一刻も早く、俺は校庭から開放されたかった。
つい、視線が三年生の教室にいってしまう。校舎に掛かっている時計から、少し横に視線を移動させただけなのだ。ここからでは見えないが、きっと彼女はあの教室で静かに授業を受けている。そう、何事もなかったかのように、あの鋭い視線を黒板に突き刺している。
「ユッキーあぶない!」
身構えることもできぬまま、突然の衝撃に脳を揺さぶられた。身体が重力にひかれるのを感じながら、もっと早く言って欲しかったと、心の中で呟いた。