桜井明美
〈目的地に到着しました。ナビゲーションを終了します。〉
ナビの案内で到着したマンションは立派な外観の高級マンションだった。
自動車を業者用の駐車スペースに止めた。
「いやー、着いた着いた。結構近かったね。10分くらいかな?」
「ええ、そうですね。運転ご苦労様です。それより、今の時点で何か感じますか所長?」
「いんや、何にも。おかしいよね。この程度の範囲なら俺が霊の存在を感じ取れない訳がないのに⋯、まぁ何はともあれ行こうか。」
「はい。被害者とはエントランスで待ち合わせることになっています。」
そう言って俺たちは車を降り、エントランスに向かった。
エントランスの前には30歳位の茶髪の美女がいた。
それを見た麗は女性に歩み寄り、声をかけた。
「失礼ですが、桜井明美様ですか?」
その問いに対して彼女は俺達を探るように見た後、疲れたように答えた。
「ええ、そうよ。あなた達が不動産会社が言っていた霊能者?」
「はい、南不動産から依頼を受けました湊調査所の者です。私はアシスタントの藤宮麗、あちらに居るのが所長であり霊能者の湊総司と言います。」
「どうも、湊総司です。よろしくどうぞ。」
「挨拶ぐらいちゃんとしてください。すもません桜井様。ですが、所長の霊能者としての腕は確かですのでご安心下さい。」
そう言って謝る麗とへらへら笑っている俺をいぶかしげに桜井さんは見つめて、小さく呟いた。
「二人とも若いのね。」
「うちの業界は年齢なんてかんけいありませんから。歳を取ってるからといっても実力はほとんどないとか、パチモンだったりとかしますしね。ま、ご安心ください。俺、若いですけどこういう事のキャリアはそこそこ長いですから。」
「あ、ごめんなさい。そういう事じゃないいのよ。君のことは南社長からの推薦だから心配はしてないの。ただの純粋な感想よ。」
俺がそう答えると桜井さんは慌てて謝罪した。
「いえ、気にしてませんよ。じゃあ、早速お部屋のほうに上がらせてもらっていいですか?」
「ええ、案内するわ。」
そう言って俺達は先導する桜井さんについてエントランスのオートロックドアをくぐり、エレベーターで7階まで上がった。案内された彼女の部屋は角部屋だだった。
「ここです。どうぞ上がってください。」
「おじゃましまーす。」
「お邪魔します。」
部屋の間取りは2LDKで、通されたリビングは広く品の良いインテリアで飾られていた。
「座っていてください。飲み物は何がいいかしら?」
「いえ、お構いなく。」
「あ、ジュースってあります。」
「所長⋯」
そう答えると麗が俺を諦めのこもった目で見てきた。
それに対して桜井さんは小さく笑いながら俺達を見ていた。
「オレンジジュースでいいかしら?私はコーヒーにしようと思うのだけど。」
「それでは私も同じものを。」
「わかったわ。」
そう言って桜井さんは台所へ向かった。
彼女の姿が台所に消えると麗が俺に小さな声で話しかけてきた。
「部屋のほうはどうですか?何か感じますか?」
「いや、部屋は大丈夫だよ。」
「部屋はということは他の物に何か痕跡が?」
「うん。彼女に霊の痕跡がある。怪奇現象の要因は彼女だろうね。ただ、今は痕跡だけで霊自体は居ないんだよねぇ~。」
「痕跡を辿れますか?」
「うん、まーね。それと、たぶん今回の原因は生霊だよ。そうでなければ彼女が目的のようだから憑りつけばいいのに憑りついていないからね。こういう場合はだいたいそうだったし。」
「そうですね。ですがそうすると少し面倒ですよ。どうしますか?」
「ま、何とかなるよ。桜井さんも来たみたいだしね。」
そう言って俺は麗との会話を一時中断した。