花色
だれか・・・評価を下さい・・・
静かなところはあまり好きではない。だが、紗のいるところは好きだ。基本紗のいる場所は静かだが、絶えず風の音が聞こえるから。紗は紗で、動けば凛と鈴の音が鳴る。
「紗!!おはよう!!」
「ん・・・おはよ」
眠たげな目がオレを捉えた。
「昨日は寝れなかった?」
「ちょっと・・・本、読んでて・・・」
「ああ、夜更かしか」
「ぅん・・・」
いつもの如く、紗を教室まで送って自分の教室に行くと、友達が数人話込んでいた。
「はよ、みんな!!」
「おお、はよ、駿」
「あ、駿。佐田先生結婚するんだってー」
「オレらの天使佐田ちゃんがー!!」
「なんていうことだー!!」
ああ、結構くだらないことでダメージ受けてるんだな、なんて、どことなく冷めた心で思いながら、ショックだなー、と答えてやる。
「・・・駿は栫先輩命だからなー」
「ぬっ!!駿は栫先輩のお気に入りとして傍にいるだけでなくファンでもあるのか!!」
「ああ、紗は本当いいよね!!」
また、栫先輩の話が始まった、と友達はげっそりした顔で溜め息をついた。
まあ、それはオレがさんざん紗のことを友達に延々と話していたからで、まだまだ話せるが、これ以上話したら友達がいなくなってしまう気がしたので、やめる。それとなく話題を逸らした。
「で、昨日の課題やってきた?」
「やったやった」
「本当鬼だわ、あの課題」
「いつものことだけどなー」
「お前は写してるだけだろー」
わいわい、皆と話して変わりない毎日を過ごしていった。
そうして、数年後。
オレは二十歳になった。
これで、紗と同じ、神官になれるかもしれない時期を迎えることが出来た。
もし、紗が神官になったら、必ず御影にでもなんにでもなって傍にいるんだ、といろいろ努力をしてきた。
紗が二十歳になると早速仕事がたくさん舞い込んだ。さすが帝の側近の息子といったところだ。紗が忙しくても、オレは邪魔にならないよういつも傍で見守ってきた。
そんなある日、紗がオレに、別についてこなくてもいいよ、と言った。これには驚いた。邪魔だったのか、いらない存在になってしまったのか、とかいろいろ考えた末、本人に理由を聞くと、駿も忙しいでしょう?と返事をくれた。
そんなの、紗に比べれば全然暇な方なのに、自分のことを考えてくれたことに歓喜してしまった。
大丈夫。紗の心配することにはなっていない。そう告げると紗は、そっか、となんでもないように言って、仕事に戻った。
その後をオレがついていく。
紗が仕事をしている間にオレは勉強をする。紗が困った時に協力できるように。まあ、紗はオレなんかがいなくてもなんでもできてしまうから、必要ないかもしれないけれど。
毎日、毎日、陽が暮れるまで一緒にいる。
けれど、今日はオレのミスだ。まさか、教授に引き止められて、話が終わるまで帰れないなんて。途中で何度か脱出を試みたが、無理だった。
もうとっくに紗は帰っているだろうし、陽が暮れてしまったのでは今から尋ねても迷惑だろう。
今日は諦めて帰るか、と肩を落として廊下に出ようとしたら、教授に、お迎え来てるよ、と言われた。
迎え?聞いていない。
準備室の方に促され、入るとそこにはお茶している紗がいた。
「紗・・・・」
「ん」
「なんで・・・・」
「迎えに来なかったから、探した。駿の友達が教えてくれた」
「先に帰ってても良かったのに・・・」
仕事とか、溜まってしまうだろう。オレなんかより紗の方が仕事がたくさんあるのに。
「仕事は駿を待ってる間に終わらせた。・・・・駿、早く帰ろう。これ以上遅くなれば心配してしまう」
「うん。ごめん、ありがとう」
教授にご馳走様でした、と言って湯呑をテーブルに置いた紗あ立ち上がり、廊下へと続くドアを開く。紗の次にドアを潜り、暗い廊下へと出た。
「暗いな」
けれど、窓から見える外の星空は綺麗だ。
「紗、星が綺麗だ・・・」
いつもなら、ここで、短い相槌が聞こえるのだが、なかったので、紗の方を見た。
「どうした?紗・・・」
「式が・・・・」
紗の手の上にあった式が横に破れかかっていた。
「紗?」
式についてまだ深くを知ったわけではないが、式を召喚するにあたって使われる紙が切れるということは式に何か起きたのだろう。召喚状態が保てないほどのなにかが。
暗がりでよく見えないが、どことなく紗の顔が青くなっているようだ。
「行かなきゃ!!いますぐ!!」
走り出した紗を見て、状況が切迫しているのがよく分かった。
紗はめったに声を荒げないし、ものすごく急いでいる時でなければ走らない。
「紗!!何かあったのか!?」
「お父様が!!!!」
その先の言葉を告げられないほど速く走った紗の後を追った。