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*第三の不思議

「今度は体育ドームに行くの? 校舎をいっぺんに終らせた方がよくない?」

 西の体育ドームに向かおうと言った匠に健は首をかしげた。

「楽しみは最後にとっておきたい」

「人助けじゃなかったのか」

 というか。こいつは何に気付いて、何を知っているのだろうか。何かを知っていなければ、そんな言葉は出てこない。

 体育ドームは校舎の一階と屋根でつながっている。雨の日でも濡れずに行けるようにとの心憎いはからいだ。

「どうして、ここのカギも持っているのかな」

 なんだそのカギの束は──耕平は匠の手にある沢山のカギの束に眉を寄せた。

「まさか、マスターキーなんて事は無いよな」

「大丈夫。コピーキーだよ」

「へえ……コピーしてたんだ」

「うん。入学してからコツコツとね」

「平然と言ってるんじゃないぞ」

 皮肉が通じないのか。夏休みの宿題のように爽やかに言ったところで、やってる事はコソ泥なみだろうが。なんで、こいつがいつまでも学園のトップにいるんだ。

 これが終わったら先生に報告してやる。

 重たい扉がきしみを上げて開かれていく──靴を脱ぎ、足を乗せた板張りの床はひんやりとしていた。

 真っ暗な空間は独特の音を寒々しく響かせる。匠は持っている懐中電灯をランタンモードにして床に置いた。

 小さなランタン程度では体育ドームの全てを照らすことは出来ないが、三人の周囲数メートルくらいはぼんやりと明るい。

「俺には見えないんだけど、あやとりしてるの?」

 健は、体育ドームの真ん中に見える青白い光を視界に捉えながら匠に訊ねた。

「うん。いるね」

 質問に答えつつ、その薄明かりにゆっくりと近づく。

 ふいに、ぴたりと止まった匠に二人も同じく止まる。彼が見下ろしている場所に、きっとその少女の幽霊がいるのだろう。

 目を細め、しばらく青白い光を見下ろしていた匠は、おもむろにしゃがみ込む。

「何を作っているんだい?」

 片膝をつき、誰もいない空間に問いかける。

「本当に見えてるのか。こいつ」

 誰もいない空間に話しかけている匠を見下ろし耕平は顔をしかめた。

「見えてるんじゃないかな」

 それに対して、のほほんと答える健に、脳みそまで筋肉で出来ているこいつに聞いても無駄かと肩をすくめる。

「手伝ってあげよう」

 匠はにこりと笑って何やら一人で手指を動かし始めた。

「何してるのかな」

「あやとりしてる少女の霊なんだろ。だったら、あやとりに決まっている」

「おお。なるほど!」

 ポンと手を打つ健に、むしろどうして解らないんだと眉間のしわを深く刻んだ。

「で? この子は、なんでここにいるんだ?」

「この子はあやとりが好きで、自由時間にここであやとりをしていたんだ」

 もちろん体育ドームの真ん中ではなく隅っこで一人、あやとりをしていた。

 彼女がいた時期は、体育ドームでの遊びが流行っていて、あやとりをみんなに勧める勇気が無かったのだ。

「誰にも声をかけられなくて、戸惑っていた時に真上からライトが落ちてきたそうだ」

「うへ」

「そんな事が──」

 そのときの痛みはどれほどだったのか。二人はあまりの事にふさぎこんだ。

「もちろん。別の学校の話だけどね」

「ここじゃないのかよ!」

 咄嗟に耕平が突っ込む。

 哀しみに明け暮れ、浮遊していたらこの学園の体育ドームを見つけた。

「彷徨っていたときは記憶が混乱していたようでね。ふと見えた体育館に、そのときの感情が呼び起こされたんだろう」

「だったら、自分の体育館に戻れよ!」

 耕平が張り上げた声は体育ドームに響き、健は「まあまあ」となだめた。

「居心地が良かったんだろう」

「学園に関係ない奴が多すぎる」

「まだ二人じゃん」

「三人のうち二人もだぞ」

 確率が高すぎる。しかし、よくよく考えると七不思議とはそういうものかもしれない。事象については噂されても、その真相は誰も知らないのだ。

「完成」

 匠は何もない両手を二人に見せる。

「……。何を作ったの?」

「東京タワー」

 健の問いかけに、匠はそう答えた。

「一人では作ることが出来なくて、友達を誘いたかったんだそうだ」

「東京タワーって一人で作れなかったか?」

 耕平は怪訝な表情を浮かべる。

「東京タワーには、一人で作るタイプと、二人で作るタイプがあるんだよ」

 言いもって立ち上がり、視線を徐々に上げていく。

「成仏したの?」と健。

「そうらしい」

「次はどこだ?」

 問いかけた耕平に健が目を見張る。

「あれ。乗り気じゃん」

「違う。こんな馬鹿馬鹿しい事は早く終らせたいだけだ」

 幽霊なんか信じられるか。耕平は言い放ち体育ドームの扉に向かった。

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