*はじまりの七不思議
──朝、ブレザーを着こなした匠は学び舎に向かう。彼は近くの実家から学園に通っているのだ。因みに実家は居酒屋を経営している。
「おーい。匠!」
呼ばれた匠は振り返る事もなく、隣に並んだクラスメイトを一瞥した。彼の名は城島 健。
硬めの髪を短く整え、やや童顔ではあるけれど体つきは良く快活な性格で匠とは仲の良い友人だ。
「おはよ」
「おはよう」
サイダーアイスを片手に挨拶する友人に落ち着いた口調で応える。健は学園の寮から通っている。
「ねえ、知ってる? 昨日の夜も出たんだってさ」
「出た?」
「もちろん幽霊だよ。音楽室に出たんだって」
語りながら、健は落ち着いた草色のブレザーの紺のネクタイをゆるめる。
「さすが夏だよね。確かこないだは、体育ドームだったよ」
どこの学校にも必ずある七不思議は当然、この学園にも存在している。特徴的な建物なだけに、そういうものには特に敏感になっている親御さんもいるようだ。
しかし相手は心霊現象。対策などたてようがない。実質的な被害もなくお祓いしても七不思議系は消えることがない。現状、放置するしかないのである。
とはいえ、さほど騒動や話題にもなっていないことから、気にしていない生徒がほとんどというところだ。
「へえ」
匠は思案してふと、健に目を向けた。
「七不思議というからには、七つある訳だよね」
「そうなんじゃないかな? 全部は知らないけど」
「調べてくれないかい?」
「え~?」
嫌そうな健に、匠は右の人差し指を立て、
「今日の学食は私のおごりだ」
「交渉成立!」
健は勢いよく駆け出し、校内に消えていった。話し合いに際し、決まったときの健の口癖なのである。
彼は大食いなので、これで釣るのがもっとも効果的であったりする。