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「うう…」
体を起こすと自宅のベッドの上にいた。なぜだか酷く頭が痛い。それにふらふらする。近くの机の上には数本空き瓶が置いてある。
どれも度数が高い酒の瓶だ。あれは夢だったのだろうか。窓の外を見ると日が沈み掛かっている。どうやらずいぶん長い時間寝ていたようだ。
「水…」
家を出てすぐにある井戸に向かう。そこから水を汲み上げて桶に入ったまま口に流し込む。
「ふう…本当に夢なんか?それにしては鮮明に覚えとる。確か部屋を出たら獣がいて頭を殴られて…」
酔い潰れた脳みそで今までのことを振り返ってみる。
「…ん?…そういうことなんか?」
俺は今まで疑問に思っていたことがある。それは、なぜ獣は教会の周りにしかいないのかということである。
俺は数年この仕事を続けてきたが街の中心、教会から離れたところにあるスラム街などでは一度も獣を見たことがないのだ。
外から入ってくるのだとしたらそのスラム街が最も多いはずだがなぜ違うのか。昨晩、教会で獣を見た。本来は居ないはずのところに何故いるのか。
教会が獣を生み出す、もしくは教会が獣の巣になっているのだとしたら全てが繋がる。
そう思った途端鳥肌が立ち始めた。
「今晩試すか」
とりあえず教会に向かう。いつも通り裏口から地下へと向かう。
「シュラウド、こんな早くに来るなんて珍しいな。てか今日オフだろ」
廊下ですれ違った狩人に声をかけられる。
「報告書書かないといけへんからな。そっちはどうなん?レオン」
「俺もそんなとこ、で今終わって一旦帰宅ってとこ。夜まで暇じゃん」
「なるほどな。でそれは何なん?」
俺は彼が抱えていた紙袋を指差す。
「ああそこのパン屋で買ってきたんだけどこれ結構うまいぞ?なんか肉が入ったパンでな。ほら一個どう?」
「ありがとな。じゃお疲れ」
「おう」
そういってレオンは外へと出ていった。すぐにパンを食べる。貰ったパンはなかなか美味かった。そのまま突き当たりのドアへと向かう。
「ねえねえ。この奥って何があるん?」
門番に声をかける。
「言えないんですよ。すみませんね」
「そうですか」
やっぱ普通には入らないか。ま、そりゃそうか。そのまま事務室に向かい仮眠して夜まで待つ。
———
夜、耳を澄ませ誰か来ないか確認する。門番は死体を受け取ると中に入る。その時一緒に入るという算法だ。
コッ、コッ
足音が廊下から響く誰か来たようだ。ドアから廊下を覗く。レオンが死体を担いでいる。一発目にチャンスが来るなんて我ながら運がいい。
そのときレオンはどこかへ消えてしまった。まあいい目的は扉の奥だ。扉が閉まる前に急いで中へ入る。
すんなり入れてしまった。扉の向こうは螺旋階段になっていて下までずっと続いていた。それはかなり長く一番下に着くまで数分掛かった。
門番は扉を開けて部屋へ入る。俺もそれに続く。中はとても広く無機質な部屋だった。中の光景を見た時俺は言葉を失った。
部屋には金属製の台がたくさん並べられている。その周りに一人ずつ人が立っている。その台の上には人の死体が載っていた。そこまではまあいい。だがその死体を解剖していたのだ。
「なんや…これ…おい!何をしてんや!」
門番が声に気付き振り返る。
「やっぱり。来たんですね。見ての通りですよ」
「相手は獣やない。人間や!こんなの許されるはずがない!」
「でもバレなきゃ何も言われない」
何者かに耳元で囁かれる。よく聞き慣れた声。レオンだ。
「こんな苦しいマスクもいらないかなぁ?」
そういうとレオンは皮膚、いやマスクを剥がし始めた。中からは別人の顔が現れる。
「は、は?レオンは…レオンはどうした!」
「どうしたもこうしたも初めから俺は俺だよ!」
「クリフさん。彼はどうします?」
「んあぁ…牢屋に入れといて。ゴミムシもゴミムシなりに役立つでしょ」
ぼとっ
足の力が抜ける。どくどくと何か熱いものが膝のあたりが溢れ出るのを感じた。
「なんやこれ…は?」
首を捻り足を見るも足がない。切り落とされている。ワンテンポ遅れて痛みが襲いかかってくる。耐え難い激痛に手足がぴくぴくと痙攣を始めた。
「は、あ…あっ…」
恐怖と痛みで悲鳴を出す余裕すらなかった。
「少しは運びやすくなったんじゃない?じゃ、牢屋運んどいてね」
そういってクリフは部屋から出て行った。
「まったく、人扱いが荒いお方だ」
ささっと包帯を巻き簡単な止血をすると門番は俺を担ぎ上げた。
「君は神っていると思うかい?」
門番は俺にそう尋ねた。
「そんな余裕ないか。神ってね実は居るんだよ。御伽話とかじゃない。僕もこの目で見たしね。ま、死んでたけどね。元からそれは死んでたらしい。でね、それを見て昔の人はどう思ったのか知らないけどそれになろうとしたらしいんだよね。神の肉、皮、骨、臓物、それを食べることで力を得ようとしたんだ。でもやっぱり人間とは合わないんだろうね。みんな何故か自我を失い化け物なったんだ。何千人もの人が犠牲になった。でもその中にも居たんだよ。神に適合した者がね。僕たちはそれを探すためにこうやって色々やってるのさ」
門番は牢屋の前で立ち止まりその中に俺を下ろして鍵を閉めた。
「…狂ってる…」
「見方によってはそうかもしれないね。でも適合したら莫大な力を得る。一人で何千人分もの戦力になる。君に神の血肉を食べさせるためにこうやって誘ったのさ。クリフさんの勘はよく当たるから君は助かるかもね」
「お前ら…お前ら人間じゃねぇ!俺は食わねぇぞ!絶対に!」
「何いってんだ。食べたろ」
そのときレオンに渡されたパン。その中の肉が思い浮かんだ。
全身に鳥肌が立つ。絶望して何も言えなかった。
「文字通り神に祈ることだ」
そういって門番は去っていった。
包帯から血が滴る。




