五歳の洗礼
早いもので、この謎の世界に来てから五年が経った。
そう。私も、もう五歳児である。
二回目の人生経験がある者として、読み書き計算はお手のものだ。
もちろん、言葉は違ったけれど、覚えてしまえばなんてことはない。
発音も文法も、最初は苦労したけれど……
日常会話程度なら、もう問題なく理解出来るようになっていた。
流石に、この世界の歴史や地理については完全にゼロスタートだったけれど。
家庭教師の授業で教えられる帝国史は、
戦争と条約の繰り返しで構成されていて、
前世で読んだどの歴史書とも似ているようで、どこか違っている。
国家があり、貴族がいて、領地を治め、税を取り、兵を動かす。
やっていること自体は、地球の中世と大差ない。
――違うのは。
魔法が存在する、という一点だ。
どうやらこの世界では、誰もが生まれながらに“資質”を持っているらしい。
そして五歳になると、教会で洗礼を受けることで、その資質が“スキル”として顕在化するのだという。
神様からの祝福、と呼ばれているらしいが……まぁ、そこは置いておこう。
スキルは、必ず一人に一つ。
数年に一度、稀に二つ持ちが現れることもあるらしいが、それは天才とか英雄候補とか、そういう扱いを受けるレベルの話だそうだ。
……出来れば、欲しいところではある。
何せ、この世界には――
魔物が、存在する。
最初に聞いた時は、「またまたご冗談を」と思ったものだが、どうやら本当に居るらしい。
領内の警備報告書に、定期的に“討伐”という文字が出てくるのだから、冗談では済まされない。
姿形は様々で、狼のようなものや、巨大な昆虫のようなもの、人型に近い存在まで確認されているという。
……ゴキブリか? っての。
いや、流石にそこまで生命力は高くないと信じたいが。
それら魔物への基本対応は、冒険者ギルドに所属する冒険者が担っているらしい。
民間の討伐業者、みたいなものか。
もちろん、規模が大きくなれば、領地軍や王都の正規軍が出動することになる。
小規模な出現は冒険者。
中規模以上は領地軍。
大規模災害級は王都軍。
……警備員、警察、自衛隊、みたいな住み分けなのかしら。
役割分担としては、理にかなっている。
出来ることなら、一度くらいは冒険者ギルドを見てみたいものだが……。
流石に、伯爵家の跡取り娘が「魔物討伐に興味があります」なんて言い出したら、周囲がひっくり返るだろう。
まぁ、それはさておき。
今日は、私の洗礼の日だ。
教会で、神の名のもとにスキルを授かる。
この世界で生きていく以上、避けては通れない通過儀礼。
そして――私の“役割”を決定づけるかもしれない儀式でもある。




