伯爵家の跡取り娘
数ヶ月、赤ちゃんをやっている訳だが……。
徐々に、状況を把握してきたぞ。
最初は音にしか聞こえなかった周囲の会話も、最近では、ところどころ意味が理解出来るようになってきている。
……人間の適応力って、すごいな。
いや、これは私がすごいのか?
ともかく、聞き取れた単語を頭の中で繋ぎ合わせた結果、どうやら私は――
伯爵家の跡取り娘として、生まれたらしい。
伯爵
つまり貴族。しかも、結構上の方だったけ?
どうりで部屋が豪華な訳だよ。
それに加えて、この世界では女性でも家を継ぐことが出来るらしい。
それは、素直にありがたい。
変に政略結婚なんてされたら、たまったもんじゃないからな。
いや、まぁ……伯爵家の人間なら、
結婚そのものが外交手段として扱われる可能性は高いんだろうけど。
少なくとも、
「女だから嫁に出すしかない」
みたいな強制イベントは、回避出来る可能性がある。
それだけでも、大分マシだ。
――そして。
この世界には、魔法がある。どうやら、だが。侍女たちの会話の中に、「魔術」だとか「属性」だとか、前世では絶対に出てこなかった単語が混じっている。
非科学的な話は、正直あまり信じたくないが……。
試してみる価値はある。
心の中で、ステータス。と、唱えてみる。
…………。
何も起きない。
もう一度。ステータス。
………………。
うん。何も起きないな。
これはアレか?私、魔法が使えない系で家から追い出されるパターンか?
それは困る。非常に困る。
となると、さっさと自立出来る準備をしておく必要があるな……。
いや、赤ん坊のうちから考えることじゃない気もするが。
あの時――一緒に居た、まきちゃん。
同期で、数少ない気の合う相手だった。
お互いにミリオタって共通点もあったし、銃の話とか、兵站の重要性とか、普通の人にはあまり通じない話題でも盛り上がれた。
帰りの方向が同じで、電車にも一緒に乗って。
……あの事故に、巻き込まれたはずだ。
大丈夫だったのかな。無事だったのかな。
私みたいに、訳の分からない事になってなければいいけど。
「お嬢様?」
不意に声を掛けられて、思考が引き戻される。
覗き込んできた侍女と、目が合った。
……しまった。
考え事をしていたせいで、赤ん坊らしく“ぼーっとしている”を通り越して、
“何かを理解している目”をしてしまっていたかもしれない。
慌てて、口を開く。
「だぁ〜」
……よし。まだ、誤魔化せる。




