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19話:目を覚ますと馬車の中にいた

「……はっ! あ、あれっ?」


 唐突に俺は目を覚ました。するとそこは馬車の中だった。


「あら、お目覚めですか、兄さま。おはようございます」

「あ、あぁ、おはよう、エレノア。それで何で俺は馬車の中にいるんだ? 確か村での宴会中だったはずじゃ……」

「兄さまは宴会の途中に寝落ちしてしまったのですよ? ふふ、忘れてしまったのですか?」

「……へ? 俺寝落ちしてたの?」

「はい。とても気持ち良く眠られていました。おそらく賊と戦っていた時の疲労が溜まっていて、それで宴会の途中で寝落ちしてしまったのだと思います」

「そ、そうだったのか? だけど俺賊退治に苦戦なんて全然してなかったはずなんだけどなぁ……って、いやちょっと待ってくれよ! そ、それじゃあ村の女性達とのアレは!? ほ、ほら、夜伽的な事をして欲しいって言われなかったか……??」

「えぇ、もちろん兄さまがお疲れの状態なのですから、そのような行為は即座に中止となりました」

「そ、そんなっ!?」


 せ、せっかくの俺の童貞卒業のチャンスが!! 村の女性達と一日中楽しむはずだったのに……!!


「兄さま? どうしたのですか? そのように頭を下げてしまっているなんて……あれ? もしかして兄さま……村の女性達との夜伽をしたかったのですか? ふふ、そんな……訳ありませんよねぇ……??」

「え……え?」


 俺はすぐに頭を上げると、エレノアはじっと俺の事を見つめていた。でも顔は一切笑っていなかった。それに目が黒々と濁った感じになっていて何だか怖いんだけど……。


「い、いや、別にそんな事はないぞ? ほ、ほら、やっぱり何というかその、夜伽は愛し合った者同士が行う行為だしな。だ、だから、そんな初対面の女性たちと夜伽をしたいという気持ちにはなれないに決まってるよ。あ、あははー」

「……ふふ。そうですよね。やはり兄さまは当たり前の倫理観を持っているようで安心しました。でも兄さま? それならどうしてそんな目に見えてガッカリとした態度をしているのでしょうか??」

「え゛っ!? あ、い、いや、それは単純にアレだよ! 村長と別れの挨拶が出来なかったのは申し訳ないなって思っただけだよ」

「あぁ、なるほど。そういう事ですか。兄さまは昔から礼儀を重んじる方ですものね。私はそういう礼儀正しい兄さまの事が大好きですよ。ですが村長さまはそんなの気になさらなくて大丈夫ですと言ってましたから安心してください。そして私達の王都への旅の安全も祈祷してくださりました。ふふ、本当に優しい村長さまでしたよ」


 そう言ってエレノアは優しく笑みを浮かべていってくれた。どす黒く濁った目も通常に戻った。とりあえず俺はその表情を見れてほっと安堵した。


「そ、そっか。それなら良かった。そういえば今の時間はどれくらいなんだ? 俺ってどれくらい寝てたんだろう?」

「今はだいたいお昼前の11時くらいですね。兄さまはおよそ12時間くらい眠っておられましたよ」

「うわ、そんなに眠ってたのか。そんなに疲れてたって事かな。まぁ別にいいか。それで? 王都まではあとどれくらいで到着するんだ?」

「夕方には到着する予定ですので、あと6時間といった所でしょうか」

「ふぅん。まだまだそれなりに時間がかかるって事だな。それじゃあ後6時間も何をして過ごそうかな。こんなに寝ちゃったら流石に眠気はゼロだしな……」

「それでしたら兄さま。せっかくですしノンビリとお話でもしながら過ごしませんか?」

「エレノアと話を? あぁ、もちろん良いぞ。せっかくだし兄妹水入らずでノンビリと楽しく雑談でもしていこうか」

「ふふ、良かったです。兄さまとお話が出来るのは嬉しいですわ」

「そっか。そう言ってくれると俺も嬉しいよ。あ、そういえば昨日エレノアに伝えようと思ってたんだけど忘れてたわ。賊退治の時にエレノアがくれた麻痺薬が塗られた短剣が役に立ったよ。あんな凄い短剣をくれてありがとな」

「あら、本当ですか? ふふ、それなら嬉しいです」


 俺は昨日の宴会の時にエレノアに伝えそびれてた事を思い出したので、それをエレノアに伝えていった。するとエレノアはとても嬉しそうに喜んでいった。


「あぁ、あの痺れ薬のおかげで賊退治が簡単に出来たからな。というかあんな痺れ薬を簡単に作れるなんてエレノアは凄すぎるよ。エレノアは薬師としての才能をどんどんと開花させていってるようだし、将来は薬学の道を究めてみても面白いんじゃないかな? 世界中の多くの人の役に立てるだろうし、きっと父上も母上も喜んでくれると思うぞ?」

「いえ、残念ながらその道には進むつもりは全くありません。私は兄さまが怪我した時にいつでも治せるように薬の勉強をしてるだけですからね。ふふ、ですからこれからもこの力は兄さまのためだけに使うつもりです」

「そうなのか。なんかそれは勿体ない気もするけど……ま、でもエレノアがそう言うのなら俺に決める権限はないしな。という事で改めてあの短剣ありがとな。そして今回のお礼にエレノアには何か欲しいモノとかプレゼントしてやるよ。それか俺へのお願いとかでもいいぞ」

「えっ? ほ、本当ですか?」


 俺がそう言うとエレノアは身体を乗り出してきた。何だか目もキラキラと輝いているように見える。


「あ、あぁ。本当だよ。もしかして何か欲しいモノかお願い事でもある感じか?」

「はい、もちろんです。それじゃあ私、馬車に乗っている間……兄さまに頭をなでなでして頂けませんか?」

「え? なでなで? そんな事でいいのか?」

「はい、そんな事が良いのです。兄さまに頭を撫でて貰えると、何だか凄くぽかぽかとした気分になるんです。ですからお願いできませんか?」

「まぁそれくらいならお安い御用だよ。それじゃあ撫でてやるから、こっちに頭を近づけてくれよ」

「はい、わかりました。ふふ、それでは……よいしょっと」

「え……って、わわ!?」


―― ぽすんッ……


 そう言うとエレノアは胡坐をかいてる俺の方にゆっくりと近づいてきて、そして俺の太ももの上にちょこんと座ってきた。俺の太ももの上にエレノアの柔らかいお尻が当たっているんだけど……。


「お、おいおい。兄妹と言えども流石にこれはくっつき過ぎじゃないか?」

「いえ、そんな事はありません。兄妹なら当然の距離感ですよ。それとも兄さま……もしかして私が重いからさっさとどいてくれと……そうおっしゃりたいのですか……? ぐすっ……」

「えっ? あ、い、いや、違う違う! そんな事は一切思ってないって! 物凄く軽いよ! だ、だから俺の太ももの上にもうずっと座ってくれて良いよ!!」

「……ふふ、それなら良かったです」


 俺は涙を流しそうになっていたエレノアに向かって全力でそう弁明した。するとすぐにエレノアは涙を引っ込めてふふっと微笑みかけてきてくれた。


(あ、危ない危ない……義妹を泣かせるなんて最低だからな。泣かせなくて本当に良かったよ……)


「ふふ、さてと……それでは早速良いですか? 兄さま?」

「あ、あぁ、わかったよ。エレノアを傷つけそうになって申し訳ない事をしちゃったし、謝罪の意味も込めて王都までしっかりとなでなでしてやるよ。それじゃあほら……」

「ん、あ……ふふ……」


―― なでなで……


「こんな感じで大丈夫かエレノア?」

「はい。すごく気持ち良いです。それにポカポカとした気分になって……すっごく幸せな気分です」

「そっか。それなら良かった。それにしてもなでなでして貰いたいなんて……はは、エレノアは昔からずっと甘えん坊さんだよな」

「ふふ、そんなの当たり前ですよ。だって私は兄さまの事が幼少の頃からずっと大好きなのですから、幾つになっても兄さまに甘えん坊なのは当たり前の事ですよ。ですから……ふふ、これからもずっと……ずぅっと……私の事をなでなでしてくださいね……兄さま……」

「あぁ、わかったよ」


 エレノアは嬉しそうに笑みを浮かべながらそう言ってきた。何だか幸せないっぱいって感じの表情をしているな。


(はは、いつまでたってもエレノアは甘えん坊で可愛い義妹だよな)


 ゲーム本編だとエレノアは世界崩壊に導こうとする最凶の裏ボスとして君臨するけど、でもこの世界ではそんなヤバイ感じになる事もなくとても優しくて可愛い女の子に成長していってくれて嬉しい限りだよ。


 そしてこのままエレノアには最凶の裏ボスになんてなる事なく、幸せにずっと過ごしていって貰えるように祈りながら……それからも俺はエレノアの頭を優しく撫でながら他愛無い話をして馬車の中を過ごしていった。

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