50話 新事実
幸せで豊かな【月の中】で暮らしている
うさぎとかぐやは、MoonTube〈ムーンチューブ〉で見た、現代も大昔も不便でコンランする場所【地球】の話に興味津々!
地球の子供たちは、タイヘンでカナシイらしい!
ふたりは、サンタみたいにプレゼントを届けたらいいのでは?と思いつきました。
月といえばお饅頭!
神様に許可をもらって、地球旅行へ出発しました。
ルンルンでタスケルするのです!
タスケテを知らない地球の子供、桃太郎と幼い妹の桃子との出会い、地球で過ごす日々のなかで、大切な人を助けるとはどういうことなのか?
かぐやとうさぎは、自らの過去と向き合い、地球で磨かれ、深みのある存在へと成長していく。
「……どっどっどーする…かぐや」
「やっぱり、バレてたのね」
通常、旅行から帰ってきた住人を神様が出迎えることはありません。
帰宅後、自らの足で神殿へ向かいます。
神様を待って申請、面接を行うことがルールなのです。
怖い顔で待っているということは……
かぐやのルール違反がバレたか、はたまた神の力で地球の生き物が近付いているのが分かったのか。
そのどちらかしかありません。
「どーしよう!!!?」
觔斗雲を止める訳にもいかず、
怖い顔は、ジワジワ…ジワジワ……とふたりに近付いてきています。
「なるようにしか、ならないわよ」
「なんでそんなに落ち着いてんの!?」
「落ち着いてないわよ
でも、もうここまで来たらしょうがないわ」
「しょうがなくないよ!諦めちゃ駄目だ!
僕が神様を引きつけて、その間にかぐやがタヌちゃんを連れてコッソリ逃げるとか?!」
どうやってこのピンチを切り抜けるか
うさぎは、落ち着かない様子で必死に考えているようでした。
「うさぎ、大丈夫よ」
「そーなの?!」
「うん」
「……でも、月の神様
タヌちゃんのこと追い返しそうだって
かぐやも心配してたじゃん」
「うん。
だけどさ、今度はルール違反しないで助けたいと
思ったのよ。
タヌちゃんと、ずっと一緒にいたいもん…」
「うん、そうだよね」
「今度は違う方法でね
……なんとかなるわよ」
ふと、斜め下を見ると毒で苦しんでいた狸が目を開けて、かぐやを見ていました。
「タヌちゃん!?大丈夫なの?」
かぐやが声を掛けると、ニコッと笑って軽く頷きました。
「月に来たから完治したんだ、ほら足見て」
タヌちゃんの膨れ上がっていた足は、元のサイズに戻っています。
何故か怪我をした足だけ、綺麗な灰色の毛並みに変化し、ツヤツヤキラキラと光っていました。
「なにこれ、どういうことなの?」
「きっと神様の力だよ」
月の神様は、少し離れたところから片時も目を離さず
ふたりを凝視しています。
何から話せば良いのか…かぐやも考えを巡らせました。
相手は神様です。
小細工など通用しないのです。
どうやったら最善の結果になるのか…
タヌちゃんを助けてもらえるのか…
友達なので助けて貰えませんか!?と直球でいく?
それとも何か、もっと考えたほうがいいのか…
答えが出ないまま
觔斗雲は、神様にどんどん近付いていきます。
少しでも時間を稼ぎたい一心で、かぐやは進行方向へ込める力を緩めました。
それでも、出入口に立っている神様のところへ行かない訳にはいきません。
ゆっくりと近付いています。
うさぎを見ると、同じように答えが分からなくて
困った顔をしていました。
目が合うと、フカフカの手を伸ばしてかぐやの肩に
置きました。
「ねぇ、かぐや
僕ら成長したよね…」
「うん、もちろんよ」
「でも…怖いよね」
「うん…もちろん…」
かぐやは、ハァと一度息を吐きながら言いました。
「うさぎ。ルール違反したのは私よ。
うさぎは関係ないし、何も悪いことしてないじゃない?怖がることないわよ」
親友は、でも…と言いながら俯きました。
「大丈夫よ
あなたは沢山いい事したわ」
「かぐや
ルール違反のことは言われるまで黙っておきなよ
気付かれていないかもしれない
大した問題じゃないよ」
「ふふっ
月の神様にとっては、きっと大きい問題なのよ」
「君はヒーローなんだから」
「うさぎもね」
「桃太郎と桃子を救ったヒーローだよ
それに、僕にとってもね
君がいなきゃ僕は月で初めての死人になってたかも」
「ふふっそんなことないって」
「僕は君の味方だよ」
「うん、分かってる」
觔斗雲の上で、手をガッチリ繋ぎました。
目を合わせ頷くと、ふたりは覚悟を決めたのです。
月の出入り口にたどり着き、
フワフワと優しい光に包まれました。
月の街並みを背景にして、偉大な月の神様が君臨しています。
温かい、明るい雰囲気とは対照的に
厳しい表情でかぐやとうさぎのことを見つめています。
神様は觔斗雲を操作する為、腕を前に伸ばし
指一本をクイッと動かすと、雲は勝手に動き出しました。
ハイスピードかつ安全に…神様の目の前まで動いていきます。
「おかえり」
「ただいま戻りました」
うさぎはすぐに返答しました。
かぐやも続けて「ただいま戻りました」と答えます。
月の地面に着地した觔斗雲から降りる間、
神様の視線は、かぐやの腕の中にいる狸に注がれています。
この状況で逃げ出すなんて絶対無理でした。
「そいつは?」
「地球で出来た友達です。
それから…怪我をして死にかけていました。
助けたかったので月へ連れてきました。」
かぐやは淡々と事実を告げます。
「毒に侵され苦しんでいました!
地球へ帰れば死んでしまいます!
どうか助けて下さい」
うさぎも、ふたりの願いを簡潔に伝えました。
「ルールを忘れたか?」
神様の表情は変わりません。
「忘れていません…けど!」
「地球の者をここに入れる訳にはいかない」
「でも!!」「でも!!」
ふたりは同時に声を荒げました。
「一度死ねば別だがな」
「だが、完璧な魂しかここには入れない」
「そいつはカチカチ山の狸だろう
天国と同等の月に値する命ではない」
神様は無表情でした。
とりつく島もないのです。
かぐやは、一番恐れていた展開を目の当たりにして
頭の中が真っ白になりました。
「でも…
でも…
タヌちゃんはいい子よ
ちょっと間違えただけなのよ
優しくて
可愛くて
私のこと助けてくれたのに」
「そのお陰で地獄に行かなくて済むだろうな」
「お前に免じて手続きをしておこう」
「でも!!」
「地球に置いてこい」
「そんな!!!神様!!!
聞いてください!!」
かぐやは涙目になりながら叫びました。
「置いてきたら死んじゃいます!!」
「いいだろう
今死ねば地獄行きは免れる」
「はぁ!?!?」 「かぐや!!!」
後に続く『てめぇ』は言えませんでした。
うさぎに口を押さえられたのです。
モゴモゴしていると、抱っこされていた狸が起き上がりました。
「全く………
あんたみたいなのが仏様なんて笑っちゃいますよ」
狸はかぐやの腕からひょいと飛び降りて、初対面の神様に本音をぶつけ始めました。
辛辣かつ冷徹に。
背中を向けて、立ち去ろうとしていた神様の肩が
ピクッと震えました。
「閻魔様の間違いじゃないですかぁ?」
かぐやとうさぎは、青くなりました。
神様にそんなことを言う住人は、勿論どこにもいません。
驚愕、絶句しているふたりはタヌちゃんを止めることが出来ません。
タヌちゃんは背筋をピンッと伸ばして、自信に満ちていました。
ズイズイと歩き、神様との距離は縮まります。
実に堂々とした立ち振る舞いなのです!
「なんだと貴様
もう一回言ってみろ」
「そのまんまの意味ですよぉ?
あんたは閻魔様みたいだ」
神様は振り返ると、口を歪め、眉毛をつり上げて眉間に縦線をくっきり入れて、閻魔様のような…鬼のような形相でタヌちゃんを睨みつけています。
「大体、仏様っていうのは優しいお顔で皆を
見守るものですよぉ?
狸のお地蔵様は、いつも優しいお顔で見守ってくれました。あんたみたいな恐い顔じゃない」
「なっ……
なんだと?
地蔵菩薩と比べ、我を侮辱するのか貴様」
「事実を言ってるまでですよぉ
あんたの顔は怖すぎる
ふたりは逆らえずに怯えていますし
ほら」
タヌちゃんは、こちらを指さしました。
すると、
神様も首を回してかぐやとうさぎを見ています。
「あれが仏様を見る目ですか?
あんたは閻魔様だよ」
「………
………………ハハハッ
まったく
さすが醜い狸
口ばかり達者だな」
「そりゃどーも
そんな狸すら信じてくれたのが、あのふたりですから
ほんと凄いですよねー?」
「……」
「死に際に噛みついて道連れに出来ないかと思案している狸をおぶって、助けてくれたうさぎです。
そんなうさぎは初めてです。
……悔しいけれどね
うさぎにも良い奴はいるのだと思い知らされたんですよ」
「タヌちゃん…」
「うさぎは、どいつもこいつも一緒だ
恐ろしい存在だと決めつけていた自分を恥じました。
狸は、うさぎに助けられたんです
それに………
………かぐや姫」
タヌちゃんはかぐやを見つめると、表情をガラリと変えて、ニコ〜ッと可愛く微笑みました。
「狸すら信じてくれるお地蔵様みたいな人だ
ありがとう
かぐや姫
狸はもういいんです
地球へ戻ります」
タヌちゃん…
そんな…
タヌちゃんはとても清々しい表情でした。
走って戻ってくると、かぐやに抱きつきました。
「最後にまた会えて幸せでした」
「タヌちゃん…タヌちゃん
いやだよ…」
「いつかまた…
いつかまた狸が精進して
どこかで会えたら
そのときは一緒にお茶しましょう?
かぐや姫」
「うぅ…う…」
かぐやは我慢していた涙が一気に溢れてきました。
ギュッと抱き締めながら、ごめんね…と繰り返しました。
「なんでかぐや姫が謝るんですか?
タヌちゃんは幸せな狸でしたよ
かぐや姫のお陰です」
世界で一番可愛い狸は、スリスリ…と優しく
頬をくっつけて言いました。
「ありがとうございました
かぐや姫
あなたは狸の救世主だ」
最後にもう一度、ギュッと抱き着くと
視線を隣にいたうさぎに向けました。
「次は……
うさぎと仲良くできる狸に生まれ変わりたいです」
細くて小さい手を差し出します。
うさぎは涙と鼻水を流しながら、タヌちゃんと固い握手をしました。
「それでは…」
タヌちゃんは、かぐやの腕の中からそっと抜け出すと
急に冷めた口調で神様に話し掛けました。
「さー
地球へ連れてって下さい」
「それは良かった
お前みたいな罪深い魂は、
この完璧な月には似合わない」
タヌちゃんの言う通り、神様は本当に閻魔かもしれないと思いました。
人の気分を害するような意地悪な言い方で、あれのどこらへんが神様なのか…分からなくなってきました。
ただ強大なパワーを持っていることは間違いありません。
自分たちとの差は歴然です。
拳をギリギリッと握りすぎて手の平が痛くなってきました。
「………狸の仏様は罪をお許しになったんだ」
「そうか、そうか
都合のいい神だな」
「狸の仏様は、ニッコリ笑って
過去はもう忘れようと言ったんだ
狸の為になることをしてもいいと許してくれたんだ
お前は仏様なんかじゃないよ
閻魔様だ
許さないのは閻魔様だ
いつまでも苦しめと言うのは閻魔様だ
お前にピッタリの名前だ」
辛辣な言葉たちに、月の神様は一瞬戸惑った顔をしました。
かぐやはそれを見逃さず、
『そーだ図星だろう、この馬鹿たれ』と心の中で呟きました。
すると、親友は固く握っている拳の上に、そっとフカフカの手の平を重ねました。
チラッと横目で確認すると、目を瞑っていました。
きっとタヌちゃんの無事を祈っているのでしょう。
かぐやも、どうしたらいいのか分かりませんでした。
タヌちゃんが地球に落とされるかもしれない…?
消されてしまうかも…?
そんなことを想像してしまうのです。
さすがに…一応神様だから、そんなことはしないはず?
じっと見守ることしか出来ませんでした。
「なぜ狸が閻魔を知っている」
「学んでいたからですよ」
「ハハハハハッ!!!!
狸が学ぶだと?
狸の寺子屋でもあるのか?
まったく……
狸の口は嘘ばかりつく」
「学びなんて何処ででも出来ますけど、
そんなことも知らないんですかぁ?
嫌な奴といえば…
村人を苦しめる高利貸しを思い出しますねー
あんたにそっくりですよ!!アハハッ!」
「減らず口め
舌を抜くぞ」
「あ!!!!
ほら!!!!
今このひと舌抜くぞって言いましたよ?!!!」
「ぬッ!!?」
「わーーーー!!
ここって、もしかして地獄ですかぁ?」
「なっ!!!
なんだと!貴様!!もう黙れ!」
「えぇ!!!黙らないと舌を抜く気ですかぁ!?
うわぁーー
怖い怖い」
「ぐぬぬぬぬぬぬ………」
かぐやとうさぎは顔を見合わせました。
あんな神様は初めて見たのです。
明らかに狼狽えていて、タヌちゃんに一本取られたとばかりに悔しそうに顔を歪めています。
タヌちゃんは神様を小馬鹿にした様子で、もし舌を抜かれたとしても、文字の書ける狸には伝える術がある、狸は学んだからだ!と饒舌に語っていました。
「お馬鹿な仏様は、教養不足みたいだから
この賢い狸がいろいろと教えてあげますよぉ?」
「貴様なんぞに教えられることなどない!!
我は完璧な神だぞ!」
「どこが完璧なんだか」
「なんだと!!!我の月の姿を知らぬのか
まん丸の美しい形の月だ、非の打ちどころがない!
お前のようにゴワゴワでブヨブヨの汚い狸など
足元にも及ばぬ」
「えー……
けど月だって欠けていて変な形のとき
あるじゃないですか」
「馬鹿なことを言うな
寸分の狂いもなくまん丸だ」
「はぁ?」
狸と神様の間に、しばらく沈黙が流れます…
ふたりは腹を探り合っているのか
どちらも黙っています。
タヌちゃんは、顎に手をあてて上を向いたり…
下を向いたり…
そのあと、腕を組んで大きなため息をついてから
言いました。
「あんたホントに馬鹿なんだ?」
かぐやはブハァ!!と吹き出してしまいました。
「ちょ!!かぐや!」うさぎは目を見開いて、
かぐやのニヤけた顔をフカフカの手で隠しました。
「笑っちゃ駄目だって!」
「だって!!!
ヤバいのよ……ぷくくっ…
たったっ…タヌちゃん凄すぎる…ぅ
ウハハッ……ヘヘッ…ゃばぃ…」
神様は、かぐやがコソコソ笑っていることにも気付いているようで、今にも噴火しそうです。
しかし…タヌちゃんが面白すぎてニヤニヤを止められませんでした。
「貴様…」
神様はブルブル震え、狸を凝視しています。
「灯台下暗しってやつですね
自分のことはよく分からないもんですから
仕方ないですよーアハハッ」
「何を意味の分からない事を言っている」
「あんた
月って、三日月とか半月とか色んな種類があること
知らないんでしょ?」
「なに…?」
「やっぱり!!!!」
「何を言っている」
「あんたの月は、まん丸だけじゃない
右半分だけが見えたり、逆に左半分が見えたり
いろんな形になるんですよ。
常識です。
仏という立場で知らないとは…………
狸も驚きですよ。
まぁ仕方ないです!
自分のことはよく分からない…これも皆が言う常識ですから」
かぐやとうさぎは眉を寄せています。
タヌちゃんが言っていることは、月ペディアにも載っていない新事実です。
そんなことがあるの…?
かぐやは驚きました。
そういえば地球にいる間は、空を見上げていなかった…それどころでは無かったのです。
着替えや果物を取りに戻ったときも、月の形に違和感などは感じませんでした。
……けれど、ちゃんと見ていなかっただけかもしれません。
月は丸いものだ、完璧だ、そう思い込んでいたのだから。
丸くない訳がない
少しくらい欠けていても、神様のいるお月様は完璧だからと先入観が働いていたのかもしれない。
かぐやはそう思いました。
タヌちゃんはあのとき、確かに言っていました。
木々の隙間から月を眺めるのが好きだったと…
たぬき池から、色々な形の月を見て生きてきた。それは真実だろうと感じました。
神様は、口をポカンと開けたまま黙り込んでしまいました。
「他の住人たちが、みーんなそれを知らないわけは
無さそうですけどねぇ?
なんで仏様は知らないんですかねぇ?
どう思いますー?」
確かに…
タヌちゃんの言う通りです。
他にも、地球旅行へ行っている住人は沢山いるというのに…
もしかして…。
「…狸の嘘にはウンザリだ
さっさと地球へ帰れ」
「ふんっ
嘘じゃないですよぉ
住人たちは知っていても言えないだけだ
独裁者め」
「なにぃ!!?」
神様は、怒って声を荒げていましたが、どこか引っかかるのでしょう。
ブルブルと震えるほど怒りに支配されながらも
かぐやとうさぎの方を見て意見を求めました。
「お前たち、月の形のことを知っていたのか?」
どうしよう…
どうしよう…
かぐやは必死で考えました。
欠けた月は見たことがありません。
半分の月を見たことがあると言った方が、タヌちゃんを助けられる気がしたのです。
友達の為に嘘をつく?どーする?
やるしかないわよ
意を決して口を開こうとしたとき、
『今度は違う方法で助けるんでしょ?』
うさぎの声が頭の中で聞こえました。
え?
うさぎの方を見ると会話をしているのをバレないようにする為か、目は合いませんでした。
うさぎの声が聞こえる、地球にいた時と同じ現象でした。
そうだった
そうだった
嘘ついても、たぶんバレてしまう
神様がタヌちゃんの話を、怒りながらも聞いているのは、嘘をついていないからです。
『そうだった…ありがとう。
どうしたらいい?』
『僕にいい考えがあるから、任せて』
うさぎは、神さまの問いに答えました。




