49話 月へ
幸せで豊かな【月の中】で暮らしている
うさぎとかぐやは、MoonTube〈ムーンチューブ〉で見た、現代も大昔も不便でコンランする場所【地球】の話に興味津々!
地球の子供たちは、タイヘンでカナシイらしい!
ふたりは、サンタみたいにプレゼントを届けたらいいのでは?と思いつきました。
月といえばお饅頭!
神様に許可をもらって、地球旅行へ出発しました。
ルンルンでタスケルするのです!
タスケテを知らない地球の子供、桃太郎と幼い妹の桃子との出会い、地球で過ごす日々のなかで、
大切な人を助けるとはどういうことなのか?
かぐやとうさぎは、自らの過去と向き合い、地球で磨かれ、深みのある存在へと成長していく。
「タヌちゃん!あと少しよ!頑張って!」
「がんばれ!がんばれ!」
かぐやとうさぎは、觔斗雲に揺られながら毒に侵され苦しんでいる狸を応援し続けています。
「う"ぅ〜ん……」
ゆっくりと首を振りながら、呻いている狸を抱き締め、かぐやは月へ向かって力を込めました。
なかなかスピードが上がらないことに、イライラしてしまいます。
「もぉ……はやく…はやく…
タヌちゃんが死んじゃうわよ」
「あれ?
でも脈は安定してる
タヌちゃんは大丈夫だよ、かぐや
……月に近付いているからかな」
フカフカの手で、狸の細い手首の脈を取っています。
「そーなの!?大丈夫だと思う?」
「うん!大丈夫だよ!」
うさぎが言うなら間違いありません。
かぐやはホッとして肩の力が抜けました。
「ありがとう、きっと大丈夫よね」
「うん!」
ふたりの間にしばらく沈黙が流れた後、
うさぎがボソッと口を開きました。
「ねぇ…結局さ
桃太郎を助けたのは、僕たちじゃなかったよね」
「……え??」
「ほら、岩田さんは地球の人だしさ。
まぁ良いんだけどね!結果オーライだしっ」
うさぎは、言葉とは裏腹にスッキリしなさそうな微妙な表情で言いました。
「…桃太郎幸せそうだったわね
なんか子供っぽくなってた。
いつも困った顔で笑ってたのに」
「うんうん、わかる」
「ねぇ、うさぎ。
私たちが桃太郎の心を開いたのよ
だから岩田さんの助けも受け入れられたと
思うの」
「え、そうなのかな?」
「そうよ。
でも、桃太郎にはひとときの安らぎじゃなくて、
《続いていく安心》が必要だったのよ。
それは、月へ帰る私達にはあげられないもん」
桃太郎に必要な《タスケル》は、
この先もずっと大丈夫!と信じさせてくれる
《助ける》なのだろうと感じていました。
もちろん、これから大きくなっていく桃子にとっても
欠かせない《助ける》になるはずです。
「うーーん…」
うさぎは俯いて、雲を指でフニフニつついています。
「地球にも岩田さんっていう神様はいたのよ
うさぎ!
これは凄い発見なの!!
だって正真正銘の人間が、神様みたいなことを
していたんだから!
私たちは、その神様のサポートをしたのよ!
月の歴史に残るような事だわ!」
「…………そっそんな。
それって、うん…
凄いね!!かぐや!!」
「そうよ!
もっと言えば、地球の神様を目覚めさせた…とも言うのかしら?
岩田さんは本当に裏表のない人よ
分かるの
初めて会った感じがしなかったの。
私たち凄くない?
神様のサポーターなのよ!」
「確かに………言われてみたらそーだよね…
ほんっとに凄い!!!!」
「そうよ!凄いわよ!」
ふたりはいつも通り笑い合いました。
うさぎはスッキリしたのか、雲の上でひっくり返って
います。
「ねぇかぐや…
君は、元々サンタみたいに深みのある魂なんだね」
「そんなこと無いわよ」
「ううん、君は深みのある存在だよ。
岩田さんを信じたのは君だもん
それに…………思い出したんだ」
「どーしちゃったのよ、うさぎ」
「へへへっ
たぬき池を見てからさ
ボヤ〜ッと少しずつ思い出したんだ
小さい身体のときのこと」
「うさぎが溺れたときね」
「そう!
君さ、僕のこと助けてくれたよね」
「うん。
けど、そんなの当たり前のことよ」
「当たり前じゃないって!
みんな見てるだけだったじゃん。
すぐに飛び込んで、僕を助けてくれたのは君だけだったよ」
「……そうね。でも当たり前のことよ
私たち親友でしょ」
「かぐや、当たり前じゃないんだよ。
怖くなかったの?
みんな恐怖で動けなくなってたのに。
月で怖いことが起こるなんてあり得ない!って、
あのあと噂になってたし
絶対、当たり前なんかじゃないよ」
「うーーーん…
なんか分かんないけど…
助けなきゃ!でも怖い!って思ってたら
大丈夫!って声がしたのよ。
…もちろん、私にしか聞こえない声なのよ?」
うさぎは、ポーッとこちらを見つめていました。
「君は凄いや
ずーーっと前にタスケルしてたんだから」
「そんなに褒めても何も出ないわよ」
「誰よりも素晴らしい貢献をしてたんだ!
小さい身体の頃からね!かぐや
分かってる?」
「……素晴らしい貢献?」
「そう!
君は、元々そういうひとなんだよ!!かぐや」
「……そぉかな?ありがと」
「それと……
桃ちゃんがいなくなったとき
突き放してごめん」
「いいのよ」
「僕が、桃太郎がいないって言ったとき
君はすぐ一緒に探すって、そばにいてくれたよね
僕は酷いことしたのに」
「ううん、いいの」
桃ちゃんを探して歩いた
孤独な一本道を思い出しました。
確かにうさぎがいなくなったときは悲しかったのです。
怒っていましたが、その前に悲しかったのです。
一緒にいて欲しいときに、いてくれなかったこと、
助けてくれなかったことは寂しかった…
かぐやにとって、大切な人を《助ける》なんて
当たり前のことだから。
『同じように、うさぎも私を《助けるべき》』と思っていたのかもしれません。
うさぎは、助けてくれるはず
だから別に大丈夫。
そう信じる心は、甘ったれていて、どこか投げやりで
今のかぐやが思い出すと、本当におかしいと思うのです。
だから、
あのときのうさぎの判断は、あれで良かったと感じています。
間違ってなんかいないのです。
一生懸命頑張って、たくさん探し回り、困り果て、遂に助けを求めたうさぎとは雲泥の差だったのだから。
それに、あのときうさぎがいたらタヌちゃんとは
絶対に仲良くならなかったはずです。
黙って考え込んでいると、うさぎが大きな溜め息をつきました。
悪いことをしたと思っているのか、フワフワの耳は垂れて、細いヒゲまで「へにょん」と情けなく下がっています。
「僕……
なんかダメダメだったなぁ」
「うさぎはダメダメじゃないわ。
私ね、あれで気付いたのよ
うさぎに依存してたって」
「え?
そーかなぁ
そんなことないよ
依存ってアレでしょ?お菓子食べ過ぎちゃうひと?
だからーーー
えっと
君は、うさぎすぎるひと?」
「なによそれ。
でも、そうね、絶対にお菓子が無いと駄目なひとって感じかしら?
私は、うさぎがいないと駄目なひとだったかな」
「へー………
へーーー…
そうなんだ
それは僕、嬉しいけどね!」
「なんなのよ、それ〜」
「だって、かぐやは僕のことが大好きってことでしょ!」
「そうね!
うさぎのこと大好きよ!
でもね、聞いて。
桃ちゃんがいなくなっても、うさぎが聞こえるから大丈夫って、あのとき本当に思っていたの。
そんなの…やっぱり駄目よ
だから謝らないで。
私、自分のしたことの責任を取っただけだから」
「そうなんだ…」
「うん」
かぐやは、清々しい表情でうさぎを見つめました。
「まぁ〜でもっ!
やっぱ悲しかったしぃ……
BIGポテチを三袋くらいで許してあげるわよ」
「えっ!
あれは僕の大好物………………。
………………………………二袋でいい?」
「ダメよ、四袋持ってるの知ってるんだからね」
「くっ………バレてたか」
「ふふふ」
「わかったよぉ」
うさぎからBIGポテチを貰う約束を取り付けて、
更にポテチのどこが好きか話し合いました。
かぐやが厚切りなところが良いと言うと
うさぎはギザギザなところも良いよね!と、すかさず
言いました。
「無事に帰ったら食べよう」
「そうね、タヌちゃんと三人で食べたいな」
眉間にシワを寄せて、具合いの悪そうな狸を抱っこしながら神様の待つ月へ向かいます…。
「あ!!!!!!!!!!
思い出して良かった!」
「え!?
なに!?…ビックリするわね」
「僕ね!
前世を思い出したんだ!
それが月の兎っていうんだよね」
「は?…………普通にあんたじゃん」
かぐやは、胡散臭いと疑いの目を向けています。
「だから!違うの!月の兎って物語があってね!」
「……岩田さんが言ってたやつね」
「そうそう!!
それで、登場するうさぎが僕なんだよ!」
「………はぁ?
ちょっと…………黙ってくれる?寝るわ」
「ねぇ!!ちょっと!かぐや!
酷いじゃん!ホントなんだって!」
「わーかったわよ!うるさいなぁ…もぅ」
「とにかく!
地球から月に戻るとき、色々と忘れちゃうんだよ!
だからノートに書いておかないと」
「……………んなわけないでしょ」
「そーなんだって!
僕は前世で地球から月へ転生したの!
そのとき、ぜーんぶ忘れちゃったんだよ
詳しくは分からないけど、たぶん月の神様の力
かな?」
「………。」
「ノートに書いておこう!
今のうちにさ
そろそろ着いちゃうよ
タヌちゃんの事とか
岩田さんのこともね!!」
「うさぎ、そんなことないと思うわ」
「かぐや!!忘れちゃったら、忘れたことすら
忘れるよ!
地球旅行に行った住人、たぶんみんなそうなんだよ」
「私、忘れてないじゃん」
「君には分からないよ!転生してないんでしょ?」
「ごめん、うさぎ
私、何回も地球と月を行き来してるけど
覚えてるわ」
「え…………?」
かぐやは地球旅行に来てから、何度もルール違反を繰り返して、月へ戻っていたことを告白しました。
「着替えを取りに戻った時も、実は申請してないの」
「そっか…そうだよね
随分、早いとは思ってたけど」
「ごめんね
私のせいで神様怒ってるかも…
着替え取りに戻ったけど
やっぱ忘れてることなんて無いわよ?
絶対大丈夫よ」
「え…
そっか…
たしかに…
えっじゃあ…なんで僕は…忘れたんだろ…」
「うーーーん
忘れたかったんじゃない?」
「…そんなことないよ…たぶん。
でも、そうなのかな
分からないや」
「覚えていなくても良いことだってあるわよ」
うさぎは、不安そうに自分のノートをめくっていました。
チラッと覗き込むと、
「おじいさんはサイコウ」と沢山書かれていました。
はぁ?と声に出しそうになり、チラッとうさぎの顔を見ると、ホワァと優しい顔になっていました。
どこのお爺さんかは知りませんが、うさぎは沢山配達をしていたので、色々な村や町で多くの人たちに出会い、感謝されたのでしょう。
きっと、そのサイコウなおじいさんも優しくて親切なうさぎのことを思い出して《サイコウなうさぎ》と、感謝しているはずだと思いました。
食べ物を手渡すと、素敵な笑顔で微笑むお爺さん。
それを見て喜ぶ、可愛いうさぎがホワァと想像できました。
「それは忘れないよ、うさぎ」
「え?
………うん
僕…そうだね、忘れないよ」
觔斗雲は期待に応えるように、
安全かつハイスピードで、遂に月の目の前まで帰ってきました。
タヌちゃんが助かるであろう安心感と、家に戻ってきてホッとする気持ちを味わう前に、ふたりはゾワッとしました。
少し先には、
怖い顔で仁王立ちしている
月の神様が待ち構えていたからです…




