42話 やっぱり出来ない奴だったってこと?
幸せで豊かな【月の中】で暮らしている
うさぎとかぐやは、MoonTube〈ムーンチューブ〉で見た、現代も大昔も不便でコンランする場所【地球】の話に興味津々!
地球の子供たちは、タイヘンでカナシイらしい!
ふたりは、サンタみたいにプレゼントを届けたらいいのでは?と思いつきました。
月といえばお饅頭!
神様に許可をもらって、地球旅行へ出発しました。
ルンルンでタスケルするのです!
タスケテを知らない地球の子供、桃太郎と幼い妹の桃子との出会い、地球で過ごす日々のなかで、
大切な人を助けるとはどういうことなのか?
かぐやとうさぎは、自らの過去と向き合い、地球で磨かれ深みのある存在へと成長していく。
タヌちゃんとふたりで歩いたときは、あっという間に感じた一本道。
誰も口を開かずに前へ進む沈黙のときは、とても長く感じました。
振り返ると、うさぎは項垂れていて、耳も手も力なくだらんとして道についてしまいそうです。
うさぎが最後尾を歩くなんてよっぽどね…と、かぐやは心配になりました。
先頭はタヌちゃん、その後ろに桃子を抱っこしている岩田さんが続いています。
かぐやは立ち止まり、うさぎが追い付いてくるのを
少し待ちました。
「うさぎ、大丈夫?」
小声で話し掛けると、うさぎは頷いて、またトボトボ歩き出しました。
横に並んだ親友に「大丈夫って信じてるでしょ?」と声を掛けました。
「正直わからないよ…
もしかしたらって…やっぱり考えちゃう。
だってココは地球だもん」
「うさぎ、どーしちゃったのよ?」
「心配なんだ
かぐやはココにいても信じてるんだね」
「うん」
「桃太郎がもし…」
「?」
「しっしっ……
死んでたら…
…………………どーしたらいぃぃ!?」
うさぎは立ち止まり、大きな声で言いました。
タヌちゃんと岩田さんも何事かと、こちらを振り返ります。
「うっうっ…
僕が馬鹿だったんだ
君なら出来るよって決めつけて
置いて行ったんだもん
間違ってた
うっ…うっ…」
うさぎは後悔を口にしながら、遂に泣き始めました。
フカフカの手で顔を覆って、とても悲しそうに涙を流しています。
「うさぎ…
…人間の生死には関われないんじゃなかった?」
かぐやは、岩田さんとタヌちゃんに聞こえないように
小さい声で言いました。
「…月ではそう教わったよね
でも…そんなの本当か分からないよ。
だってさ
僕らのお饅頭は現に人間を助けてる訳だし
……桃太郎はやっぱり出来なかったのかも。
僕が間違ったせいだよ
でもその時は大丈夫って思ったんだ
でも…でも…追いついてこなかった」
うさぎは涙と鼻水を流して言いました。
「大袈裟ねぇ…
追いかけなくても良いって思ったのかもしれないじゃない。大丈夫よ」
「もし死んじゃってたら?
僕のせいだ…
音が消えちゃってるんだよ…?」
うさぎは、だらんと脱力して道の上に座り込んでしまいました。
「うさぎ、桃太郎は大丈夫よ」
「うっうっ…」
うさぎは相変わらずしくしくと泣いていました。
「ねぇ
結局、桃太郎は出来ない奴だったって言いたいわけ〜?」
「…………そういう事じゃないけど…」
うさぎは目をゴシゴシ擦ってから、かぐやを見つめました。
「まずは探し出すのが先よ、うさぎ」
「…………うん」
「どうして桃太郎を一人にしたのか思い出して」
「どういうこと?
……その時の僕は、そうしたほうがいいと
思ったんだもん」
「うん」
「……なに?
どういうこと?」
「信じたんでしょ?
桃太郎なら出来るって。
じゃあ見つけるまで信じてあげてよ。
その時のうさぎのことも信じてあげよ?」
うさぎは、ハッとした顔をしました。
「……うん
かぐや、ありがとう」
話が一段落して、間ができるとタヌちゃんと岩田さんは、再び前を向いて歩き始めました。
うさぎの手をガシッと強く握ると
親友は立ち上がり、二本足でゆっくりと歩き出しました。
前を歩いている岩田さんとの距離が縮まってくると、
彼女は一度振り返り、静かに口を開きます。
「うさぎさんのせいじゃありませんよ」
「………。」
「わたしは、人が亡くなる日は決められていると信じています。桃太郎くんは大丈夫です」
「どうして……分かるの?」
「証拠はないけれど
何故か分かるんですよ。
月の兎さん」
「え!?」
かぐやは驚いて、つい声をあげてしまいます。
岩田さんに月の住人だということがバレている!!
異国としか伝えていないはずなのに!
「え……えーーーっと
なんで…それを…」
うさぎは目を見開いて、後退りしています。
驚愕するふたりを尻目に
岩田さんは前を向いて、歩き出しました。
「お坊さんの説法で、月の兎という物語を聞いた
ことがあります。
自己犠牲の美しいお話で、聞いている人たち皆感動していました。
うさぎといえば…人を慈しむ心優しい月の兎です」
「あはは〜」
うさぎは引きつった顔で笑っています。
かぐやはホッとしました。
どうやら、月から来た…とは思っていないようです。
物語のキャラクターと重ねているのでしょうか。
「あなたのせいで桃太郎くんが死んでしまうなんて、
もうそんな酷いことは起きません。」
岩田さんの言葉は、
本当のことを語っている力強さがありました。
証拠はありませんが。
「ありがとう」
うさぎは柔らかく微笑みます。
かぐやは、並んで歩く親友が少しずつ落ち着いていくのを感じました。
「一緒にいるからね」
声を掛けると、
うさぎの手は同じくらい強い力で握り返してきました。
神社から池へ続いてゆく道、
先頭を歩く狸が、苦虫を噛みつぶしたような顔をしているのは、誰も気が付きませんでした。
「まだここなのね…ちょっと疲れちゃったわ…」
「やっと、たぬき池ですね」
少しのあいだ立ち止まっていると、うさぎは心配そうに尋ねます。
「かぐや、足大丈夫??」
「うん…けど、すごく痛いの」
「少し休憩しましょうか…
わたしも腕が疲れました」
タヌちゃんのお家だった場所に到着すると、
かぐやは、先ほど座っていた石の上に腰を下ろしました。
そして、膝掛けを隣の石の上に敷いて「どうぞ」と
声を掛けます。
「まぁ…ご親切に。ありがとうございます」
岩田さんは薄い小袖を着ているだけで、かぐやよりも
ずっと寒そうでした。
そのまま腰掛けると、お尻が冷たいかもしれない…と思っての行動でした。
「助かります…気が利く優しい人ですね」
「え?
……当たり前のことよ」
うさぎは、二人の前までぴょんぴょんと近寄ってきて
「良かったら、僕が抱っこをかわるよー」
と、フカフカの手を差し出しました。
「助かります、ありがとう」
岩田さんはにっこり微笑むと、丁寧に頭を下げて
ふたりの気遣いをとても喜んでくれました。
赤ちゃんの抱っこをバトンタッチして
うさぎは小さく優しいジャンプを始めると、
赤ちゃんの楽しそうな声が、たぬき池をつつみ込みました。
ぼうっと眺めていると
池のキラキラも目に入ってきます。
「綺麗な池…」
「本当に。
美しいですね
たぬき池は立ち寄ってはいけない…なんて言われていますから。じっくり見るのは初めてかもしれません」
タヌちゃんは池の近くに座っていましたが、
そのうち、池の中に枯れ葉を見つけて、木の棒を使ってお掃除を始めました。
「ねぇ!気をつけて!」
うさぎはいつの間にかジャンプを止めて、タヌちゃんを心配そうに見つめています。
「だいじょぶです!いつもそうじしていましたんで」
タヌちゃんは木の棒を上手に動かして、枯れ葉を掻き集めながら答えます。
「大丈夫よ、うさぎ」
「でも…
……あんなに池に近付いたら駄目だよ
危ないよ」
「小さい身体の頃、落っこちたから
怖いのね。
たぬき池はあの池より全然浅いし
大丈夫よ」
「え…?」
「ほら、うさぎの落ちた池のことよ」
「えっ僕池に落ちたことあるの?」
「えー!!忘れちゃったの?!」
「うっうん…全然覚えてないや」
「怖すぎたことって忘れようとするんですよね」
うさぎは本当に覚えていないらしく、
岩田さんの言う通り、怖くて忘れてしまったのかもしれないと思いました。
それなら、わざわざ思い出す必要はない。
気にしなくていいわよ、と声を掛けました。
うさぎは首を傾げて
うーーーん…そんなことあったかなぁ、と眉を寄せて思い出そうとしています。
「うーーん…分からないや」
「今は思い出さなくてもいいってことよ」
フカフカの腕に抱っこされた桃子は、うさぎのヒゲを掴もうと手を伸ばして、キャッキャッと楽しそうにしています。
うーん…うーん…思い出せない…と、首を右へ左へ動かしていた、その瞬間。
うさぎの白くて細いヒゲを小さな手が捉えました。
そして、やはり容赦なく引っ張ります。
「ぎゃーーーー!!!痛い!!!
桃ちゃん離してよ!!」
「あらあら大変」
岩田さんは腰を上げて、ふたりに駆け寄りました。
握った小さな小指の隙間から、
すっと自分の指を通して開かせていくと
うさぎのヒゲは、すぐに解放されました。
「いたたぁ〜」
「大丈夫?」
「うん〜」
うさぎはかぐやの横にバタンッと座り、
土の上で手を伸ばして伏せの状態になりました。
かぐやはいつも通り、フカフカの背中に手を伸ばします。
気持ちの良い手触りで、よく撫でさせてもらっているのです。
今は疲れているので、枕にしたいくらいです
きっとすぐに眠ってしまうはずです。
でも眠るわけにはいきません。
そろそろ桃太郎を探さないといけない…
「もー…
赤ちゃんってなんであんなに力強いんだよぉ」
「たしかに、地球の赤ちゃんって不思議よね」
「はぁ……
そろそろ桃太郎探しに行かなきゃね」
「そうね…」
「………疲れたぁ」
「……………そう、ね」
手の平にうさぎのフカフカを感じて、
少しぼうっとしていると、うさぎのスースーという
呼吸音が深くなりました。
ほんとにもぅ…
うさぎったらすぐ寝るんだから。
つられちゃうじゃない
まったくもぅ…
目を閉じると心地よく
コクリ…コクリ…と、少しずつ眠りに落ちていきました。
ーーーー
ーーー
ーー
ー
あれ、みんな眠っちゃったんですね?
人間って座ったまま寝れるんですね…。
ちょうど良かったですよ
ひとりで狸の頭、整理したかったし。
………はぁ
なんというか…
うさぎといえば月の兎かぁ…ってね
うさぎといえば…
カチカチ山のうさぎもいるんですけどね。
ひとの背中に火を着けて、笑っているようなサイコな奴らですよ
そりゃあカチカチ山のたぬきも悪かったと思っていますよ?
なんであんなに間違えてしまったのか
今の狸でも分からないんですから。
でも…狸だって良いところありますよ?
みんな狸は邪悪だって決めつけて…
うさぎだけ素敵だって一括りにして
狸は人を化かすから駄目って…
酷いじゃないですか。
そりゃカチカチ山のたぬきは間違えましたよ?
でも!反省する狸もいるんですよ。
…………誰も分かってくれないと思っていたけど
かぐやひめは、分かってくれた。
狸のこと、信じてくれてる
初めて出来た友達……。
狸、かぐやひめとずっと一緒にいたいです。
でも…親友はうさぎさんだったんですね。
たしかに!親友のうさぎさんは狸を嫌がっていません
伝わります
嫌われてないって。
信用されてる気さえします。
カチカチ山のうさぎとは違いますよね。
かぐやひめが一緒なら…うさぎとも仲良く出来そうかも…?
まだ分かりませんけど。
狸も仲間に入れるでしょうか?
いつか三人で…
楽しくお茶でも出来ますかね?
……はぁ
なんか…
一括りにしていたのは、狸のほうかも…
うさぎのこと、狸の敵って一括りに見てた…
だって、親友のうさぎさんは明らかに良いうさぎですもん。
人間は狸のこと嫌ってるって思ってたけど
かぐやひめは神様みたいな人です…。
うさぎとたぬきも
友達になれるんでしょうか?
そんなこと起きるんでしょうか?
でも…
まだ…
正直、うさぎっていう存在に怒りがあるんです…
少しですけど。
てか
なんであの方うさぎなんですかね…?
なんで、わざわざうさぎなんです?
キツネとかなら簡単だったのに
人生…
いや、タヌ生ってラクじゃないですよね。
はぁ…
そろそろ狸も寝ますか。
あれ?かぐやひめの膝掛けは??
あっ
うさぎ好きのおばさんが使ってる…
もー…
かぐやひめにあげたのに。
大体この人なんなんでしょうね?
勝手に赤ちゃん連れ回して…
かぐやひめが困ってたの、この人のせいって事ですよね
変な人…。
かぐやひめは、
なんでこんな人に優しくしてるんでしょうか…?
ほんとに分からない。
まぁ…いいですけど。
赤ちゃんも…ぐっすりですね
うるさい赤ん坊は苦手です
……笑ったり泣いたりやかましいんだから。
将来どんな子になるんでしょうか?
やっぱり噂に忙しい人間ですかね?
まぁ…狸には関係ないですけど。
はーーー
かぐやひめの隣で寝ようっと
よいしょっと
桃太郎くんは大丈夫ですからね、かぐやひめ
タヌちゃんが頑張って探しますから。
絶対にタヌちゃんが一番に見つけますから。
かぐやひめ
おやすみなさい
また明日




