37話 罰あたりなタヌキ
幸せで豊かな【月の中】で暮らす、うさぎとかぐや。
ふたりは、MoonTube〈ムーンチューブ〉で見た
現代も大昔も、不便でコンランする場所【地球】の話に興味津々!
地球の子供たちは、タイヘンでカナシイらしい!
ふたりはサンタみたいにプレゼントを届けたらいいのでは?と思いつきました。
月といえばお饅頭!
うさぎとかぐやは、神様に許可をもらって地球旅行へ出発しました。
ルンルンでタスケルするのです!
タスケテを知らない地球の子供、桃太郎と幼い妹の桃子との出会い、地球で過ごす日々のなかで
うさぎとかぐやは、
大切な人を助けるとはどういうことなのか?
自らの過去と向き合い、深みのある存在へと成長していく。
「え?」
タヌちゃんは、またあっさり立ち止まって
振り返りました。
少し離れたところから
「ごめんなさい!
タヌちゃんちに ステキなひとがくるなんて…
ひさびさだから!
うれしくなっちゃって!!」
タヌちゃんがワクワクしているのが
伝わってきます。
「そうなのね〜ふふふっ
タヌちゃんの家に行くの、私とっても楽しみだわ!」
かぐやの返事を聞くと
タヌちゃんは二本足でタッチして、お手々を合わせながら「えへへっ」と喜びました。
「タヌちゃん可愛いねぇ〜」
愛らしい姿に目がハートになってしまいそうです。
「そんなわけないですよー
だってタヌキですから…
……
えへへっ
でもうれしいなー!
ほらっ
はやくついてきてぇ〜おひめさまぁ」
今度は、かぐやがついてこれるように
神社に続く一本道を、ゆっくり…ゆっくり進みます。
途中、
何度もチラチラと振り返って確認してくれました。
「スローペース助かるよー…
はぁ〜
疲れたわぁー
足がすっごく痛い
それに寒いし…」
休み休み、何とかタヌちゃんについていくと
おいねさんが言っていた《たぬき池》らしきものが
見えてきました。
神聖な一本道の真ん中に、いろんな大きさの石で囲まれている、濃い青色と透き通るような水色の池がありました。
不思議なことに道のド真ん中にあるので、
先へ進むには池を避けて、近くの草むらを歩かないといけません。
「タヌちゃん!あれがお家なの?」
「そうですー!それと、あっちがタヌちゃんの ねどこですよ」
タヌちゃんが指差した方向を見ると、池の近くの大きな木が目に入りました。
木の根元には、丸い穴が開いていて明らかに動物が好みそうな住処でした。
「素敵なお住まいね」
かぐやが笑いかけると、タヌちゃんも笑顔になって
ウキウキしているようです。
タヌちゃんは木のお家に着くと、近くにあった大きな石を指差して「さぁさぁ!こちらにどうぞ、なんの
おかまいもできませんが…」と言いました。
「ふふふっ
いいのよー
ちょっと座れるだけで嬉しいから〜」
かぐやは、石の上にちょこんと座りました。
タヌちゃんは素敵なお家から、よいしょ!よいしょ!と、何かを引っ張り出しています。
「これ!どうぞ!ひえるといけないですから!」
タヌちゃんは、茶色い繊維で丁寧に編まれた
膝掛けを渡してくれました。
「タヌちゃ〜ん、ありがとー
優しいのねぇ
感激よ!
これーー
………自分で作ったの?」
「はぃ…そうです…
ヘタくそですけどね。」
「えぇ!どこが!
とっても上手!凄いよー!」
「えへへへへ」
タヌちゃんは恥ずかしそうに頭を掻いています。
「ほんとに素敵!暖かいわぁ〜」
「えへへ
ありがとうございます!
ところで…
おひめさまは、じんじゃへおいでですかぁ?」
「あ、うん、そうなの。
年配の女性と赤ちゃんを探しているのよ」
「ひゃあ!!!!
ねっ!!
ねっ!!
ねっ!!!
ねんぱいのじょせー!?」
突然
タヌちゃんは大声で叫びました。
「きゃあ!ちょっとなに!?」
「あっあっ
いえ!すみません!
おひめさまが、きゅうに
ねんぱいのじょせーーーなんて
いうから!!」
タヌちゃんは胸に手を当てて、目を見開いています。
急にどうしたのかしら?と、かぐやはタヌちゃんの様子を見守りました。
「ごっごめんなさい、おひめさま。
むかしのことをおもいだして…」
「昔のこと?」
「えぇ…カチカチヤマのことおもいだしちゃうんです…」
「カチカチヤマ?」
「はい…
ねんぱいのじょせー…ときくと
こうかい が おしよせてきます…
それに
タヌちゃんがおそろしいのは
しろいフカフカの……………
……………………。」
ーーーーー
ーーー
ーー
ー
「?」
かぐやは、しばらく続きの言葉を待ちましたが
タヌちゃんは俯いて黙ってしまいました。
白いフカフカと言えば……
「うさぎ?」
「ひゃあ!!!!」
「大袈裟ねぇ」
「だっ…だって!
このタヌキのすがたを あいつらにみられたら……
なにされるかわかりませんよ!」
「何もしないわよ」
「なっなんでわかるんですかぁ?!
おひめさまには りかいできませんよ!」
「うーーん。
そのカチカチで何があったのか知らないけど。
うさぎは何もしないと思うわよ?」
「………カチカチヤマです。
でも…
タヌちゃんがわるいんです…ぜんぶ。
だからしかたないんです。」
「何があったの?」
「しったらきっとタヌちゃんのこと
キライになります…。」
かぐやはにっこり笑いました。
「大丈夫よ〜
タヌちゃんはとっても優しくていい子だし
嫌いにならないよー」
「…いいコじゃないです」
「えー?タヌちゃん良い子よ」
かぐやはタヌちゃんの頭を優しくナデナデしました。
「それに、ほら!
こうやって、お家に招いてくれてるよね?
暖かくて、素敵な膝掛けも貸してくれてるじゃない!」
タヌちゃんはナデナデされながら、
お目々をキュルルンウルウルさせています。
小さな手で、かぐやの手の甲にそっと触れました。
「ありがとう…
ほんとうにステキなおひめさま…」
タヌちゃんは、カチカチ山のタヌキだったときの
ことを話してくれました。
気に入らないお婆さんに、執拗に意地悪してしまったこと
やり過ぎて、捕まってしまい
タヌキ汁にされそうになったこと
恐ろしくて
嘘をついて
逃げ出したこと
「そのオバアさんに、ぎゃくに にじるをぶっかけて
にげだしました…」
「わぁお」
「なんで、あんなことをしたのか…
いまでは、ほんとうにわかりません
バカでした…」
悲しそうな顔で、カチカチ山のことを話してくれました。
「そうだったのね…
そういうときもあるよね。
タヌちゃんの気持ちすごく分かるわよ」
「……。
そのあと、せいぎのうさぎがあらわれたんです。」
「うん」
「あいつはタヌちゃんにバチをあたえにきたんです…。
せなかに…ひをつけられました…
あっというまに、えんじょうして
すごく
すごくあつかった
すごくこわかった」
「そっか…
それは怖かったね。
大丈夫?」
優しく撫でてあげると、タヌちゃんの目からボロボロと大きな涙が流れました。
「それから、うさぎをみるとおそろしいんです…
ねんぱいのじょせーをみても、じぶんのまちがいを
おもいだしてしまって
つらいのです…」
タヌちゃんは涙を流しながら話しました。
「でも…じぶんのせいです。
だから
しかたないです。」
「…間違えるときもあるよね」
「はなしていて
おもいました…
イジワルなのはタヌちゃんのほうだって
かんばんのこと
ごめんなさい」
「そんなこと良いのよ」
ふたりはしばらく黙って、池を眺めました。
雨の粒が数滴ずつ、
青と水色の水面に届き
規則的に円を描いて消えてゆきます
次第にまぁるい円は増えて
描いては消え
描いては消え
繰り返し
止まることはありません
いつもこうやって
たぬき池に、自然が貯められてきたんだなと思いました。
本当に美しい情景なのです。
タヌちゃんのまんまるお目々からも
涙がポツポツと溢れていました。
涙の粒が、灰色のフカフカした胸元やお腹、小さい手にあたり続けて、ふやけてしまいそうだと思いました。
いつもそうやって
独りきりで泣いてきたんだよね…
それは、本当に哀しい姿なのです。
「はじめて
カチカチヤマのことをはなしました」
「うん。
話してくれてありがとう」
「ばちあたりのタヌちゃんは、ここでしぬまで
すごさないと いけないのです。」
「……え?
なんで?」
「え?」
「タヌちゃんは、そうしたいのー?」
「え…?
いえ。
でもそうするべきですよね」
「そんなことないわよ」
「えぇーーー!!!!!!?」
タヌちゃんは飛び上がって驚きました。
かぐやは両手で耳を押さえています。
「だっ!だって!!
わたしカチカチヤマのタヌキですよ!?
だめですよ!!
しぬまでココで ないていないと!!」
かぐやは耳から手を離して、タヌちゃんの様子を確認しながら言いました。
「タヌちゃんが、そうしたいならいいけどね?
でも、ここで死ぬまで一人で泣いていなきゃいけないって訳じゃないと思うけど」
「えぇーーー!!!?
なっなっなっ
なんで分かるんですか!?」
「えっ
なんでって言われてもねぇ」
「ここにいないとだめですよ」
「なんでー?」
「え…?
だから、カチカチヤマのばちあたりなタヌキだからですよ…」
「うーん」
かぐやは、どう説明したら良いのか分かりませんでした。
「でも、タヌちゃんずっとここで泣いてきたんだよね?もういいんじゃない?」
「えぇ!?
なんでわかるんですか!?」
「えー
なんでって言われても…」
ふたりは
何分もこのやりとりを繰り返しました。
かぐやは、うまく説明できませんでしたが、
タヌちゃんの考え方は間違っていると感じていたのです。
タヌちゃんは何を言っても
だってカチカチ山のタヌキだから…
罰あたりだからココにいないといけない…と繰り返すのです。
そんな生き方はおかしいと思いました。
それは、かぐやから見たら既に地獄にいる存在たちが言う言葉なのです。
当たり前ですが、ここは地獄ではありません。
「だからー…
うーーーん
タヌちゃん、違う生き方したいんじゃないの?」
「え…?
…………というと?」
「例えば
私と一緒に暮らすとか」
「えぇ!!!!?
タヌちゃんとおひめさまが!?」
「例えね」
「えぇ……たしかに…。
それはたのしそうですね!」
「うん、私もタヌちゃんのこと好きだもん」
「えぇ…
わたしもおひめさまはスキですよ!
そんなせいかつステキです!!」
「タヌちゃんは優しくて親切で可愛いもん!
これから素敵な友達ができるよ!」
「えぇ!!!
とっともだち!?
……むりですよぉ」
「カチカチ山のタヌキだから?」
「えぇ!!
えぇ……そうです…。」
タヌちゃんの最初の勢いは少しずつ衰えていました。
「タヌちゃん、またお婆さんに意地悪するの?」
「えぇぇ!?しつれいな!!
そんなことはもうしません!」
「また怖くなったら煮汁ぶっかけるの?」
「なっ!!!そんなことしません!!」
タヌちゃんは鼻息荒く
プンプン怒りながら、そんなことはしない!!と
怒っています。
「じゃあ。もういいじゃん」
「…………そうなんですか?」
「うん」
「………なんで分かるんですか?」
「うるっさいな!!馬鹿!!
しつこいのよ!!!
分かるったら分かるのよ!!」
「ひゃあ!!
おひめさまがおこったぁぁ!!!
おそろしぃぃ!!!!」
タヌちゃんは驚いて、地面に突っ伏して丸くなりました。
ブルブル震えるタヌちゃんを見て
かぐやは言いました。
「ほら
私に煮汁ぶっかけてないじゃないのよ」
タヌちゃんは、ガバッ!!と顔を上げて
ポカンとした顔をしました。
「もう過去は忘れよう
あなたさえ良ければ」
石の上にちょこんと座ったかぐやの姿は
おひめさまというより
神様みたいだと、タヌちゃんは思いました。




