34話 おいねさん
幸せで豊かな【月の中】で暮らす、うさぎとかぐや。
ふたりは、MoonTube〈ムーンチューブ〉で見た
現代も大昔も、不便でコンランする場所【地球】の話に興味津々!
地球の子供たちは、タイヘンでカナシイらしい!
ふたりはサンタみたいにプレゼントを届けたらいいのでは?と思いつきました。
月といえばお饅頭!
うさぎとかぐやは、神様に許可をもらって地球旅行へ出発しました。
ルンルンでタスケルするのです!
タスケテを知らない地球の子供、桃太郎と幼い妹の桃子との出会い、地球で過ごす日々のなかで
うさぎとかぐやは、
大切な人を助けるとはどういうことなのか?
自らの過去と向き合い、深みのある存在へと成長していく。
うさぎは、じっと返答を待っています。
「………」
かぐやは、何から話したら良いのか分からなくて
少しの間、黙っていました。
「…かつらめさんっていう人が預かってくれてるのよ
それで…
………あっ!!!
そう!
乳母のところに連れてってくれてるの!
すっごく泣いてたから!
それでーー……
ことちゃんときくちゃんがこれから連れてってくれるのよ!」
うさぎは眉間にシワを寄せて、話を聴いていました。
「いまからいくよぉ~うさぎもいくよね?」
ことちゃんが、おまんじゅうをモギュモギュッと
食べながら言いました。
「……うん、行くよ」
うさぎは女の子たちに視線を移しました。
「いくよぉ~あかちゃんいたよ~」
きくちゃんも、おまんじゅうを少しずつ食べながら
ニコニコして言いました。
「おいしぃ~もういっこたべたいなぁ」
「ねー!
うさぎのおまんじゅうおいしぃーたべたーぃ!」
「うん、良いよ。
はい、どーぞ」
うさぎは、女の子たちの手の平におかわりをそっと置きました。
「わぁぁい!」
「やったねーー!!」
二人は楽しそうに、お話しをしながら
再びおまんじゅうを食べ始めました。
『ねぇ…大丈夫なの?』
うさぎは、ささやき声で訊ねます。
『え?
えぇ!
もちろん!
だいじょぶよ!』
うさぎのそばをササッと離れて、
ことちゃんときくちゃんの隣に移動しました。
「さっ!ふたりとも!
食べたらまた案内してねーおねがい!」
背中に、うさぎの心配そうな視線を感じました。
「うん!いこー!」
「うん!いく!
またあとでおまんじゅーーたべたいよ!」
「もちろん良いよ」
うさぎはすぐに答えました。
「すっごくおいしぃ!
あたいもつくりたいなぁー!
おおきくなったらおまんじゅーやさんになる!」
「いいね!
きくもなりたい!」
「ね!いっしょになろー!」
「でも…
とーちゃん、おまんじゅーたべない…」
きくちゃんが、残念そうに俯いて言いました。
「そっかぁ…」
「うん…」
「だいじょぶだよ!
あたいがきくちゃんのとーちゃんにあげるから!」
「おこられるよぉ」
「だいじょぶだよ!
おまんじゅー
きくちゃんがつくったやつってゆーんだよ」
「えぇー!
もっとおこられるよぉ〜〜
でも……
うれしいかなー?」
「うん!うれしんでくれるよ!」
「ことちゃん、うれしんでってへんだよぉ」
「えー?」
二人の掛け合いを見て、かぐやが笑っていると
うさぎが言いました。
「ねぇねぇ
きくちゃん、ことちゃん。
どっちに行くの?
こっち?」
フカフカの指が差す方向を見て、きくちゃんは
「うん!そっち!」と元気よく答えました。
「うん!そう!」
ことちゃんもすぐに答えています。
「そっか!良かった〜」
うさぎも一緒に微笑んで
「そろそろ行けるかな?」とお願いしました。
「うん!いこー!」
「うん!いく!」
ことちゃんはかぐやの手を握り
きくちゃんは、うさぎのフカフカな手を握りました。
「僕はうさぎだから
走るとき手を繋げないんだ
ごめんねっ」
きくちゃんはニコニコしながら頷いて、かぐやと手を繋ぎました。
元気いっぱいの女の子たちは、すぐに走り出しました。
グイグイッ!と手を引っ張って、かぐやを先導しています。
「この大きな道を真っ直ぐなのよね?」
「そだよー!」
「すぐそこだよぉ!」
二人の女の子は、頭を前に突きだして、前屈みの体勢でキャハハー!と楽しそうに走っています。
足元ばかり見ている状態で、全力疾走するので
かぐやは心配でした。
二人が前傾姿勢になりすぎて転ばないように、しっかりと手を握って、速度と体勢を常に調整しました。
「ひめー!たのしぃねー!」
「うっうん!楽しいわね!」
「あたいもたのしぃー!」
「ふたりとも足速いのねーーー!!」
「キャハハハー!!」
三人はあっという間に十数メートルを進みました。
良い感じのスピードで、流れに乗っているときに
急に止まったりするのです…
「ぬわぁ!!」
何度か、姫らしからぬ野太い声を出してしまいました。
「ひめはおじさんかも!」
煩瑣なときを過ごしているというのに、
とんでもない疑惑をかけられてしまいました。
かぐやたちは、かなり前進しましたが
それでも日本のカップラーメンが出来上がるほど
時間は経過していない気がします。
かぐやとうさぎは、サンタ工場の賄いで必ずカップラーメンを選びます。
トマトとMoonチーズのおつまみ
アボカドのオリーブサラダ
プニプニBIGグミ…
魅力的なメニューが並ぶなか
ふたりは必ずカップラーメンを選ぶのです。
日本の正確精巧なストップウォッチを渡されて
三分間という、神聖な流れに乗らなければいけません。
ピピッ!!ピピッ!!
ピピッ!!ピピッ!!
「よしっ」
あの音が鳴るときは、洗練された姫らしい優美な声が出てくる、単純かつ至福のときでした。
決しておじさんではありません。
背後をチラッと振り返ると、
うさぎは少し後ろを走っていました。
一瞬だったので、目は合いませんでした。
すると、
「そこだよー!」
きくちゃんが言いました。
「え?どこ?」
「そう!そこだよ」
ことちゃんが指差したのは、大きな切り株でした。
「そこらへんあるいてたー」
「うん!あるいてたね!
でもー…いないねぇ」
きくちゃんは、かぐやの手を放して
辺りを走り出しました。
「どこだろねー」
ことちゃんも一緒に、切り株の近くを走り回っています。
「嘘でしょ…」
女の子たちが、かつらめさんと桃子を《見た》のは間違いありません。
《かつらめさんと桃子が、何処かの家に入っていくのを見た》
かぐやは、何故かそう思い込んでいました。
実際は、切り株の近くを歩いていたのを見た…それだけなのです。
「どっちに行ったか分かる?」
「うーん…わかんない」
ことちゃんは言いました。
「ここでぇーとまってー
それからーー…」
きくちゃんは何かを思い出そうとしていました。
目玉を上に…じーーっと空を見ていました。
「あ!あのくもーかわいい!」
「きくちゃん
きくちゃん!
それから?
どっちに行ったか分かる?」
かぐやは、屈んできくちゃんの肩に手を置きました。
「うん!
そこのきりかぶにすわった!」
「そっか…」
かぐやはきくちゃんの返答を聞いて、ガッカリしました。
ズシンと重いものが、身体のなかに置かれたような感覚でした。
それでも、
二人がこの辺にいたことは間違いないのです。
かぐやには、次の一手も自然と降りてきました。
「あっ…
そっか
このへんで乳母をできるような…
……赤ちゃんがいるお母さんっている?」
「うん!いる!」
「うん!いるよ!」
「赤ちゃんがいるお母さんで…
ここから一番近くに住んでいる人ね。
そこに行きたいの、わかるかな?」
「うん!わかる!」
「うん!きくもわかるよ!
《おいねさん》だよね!」
「うん!そうだよ!
あたいももっとわかるよ!
まつねーちゃんもあかちゃんいる!」
「そうなのね…二人ともありがとう…
まずは、おいねさんって人の家に行きたいの。
連れてってもらえる?」
「うん!いいよ!」
「うん!いくよ!」
チラッとうさぎを見ると、足をタンタンタンタンと鳴らして腕組みをしていました。
かぐやと目が合うと、プイッとそっぽを向きました。
「あ!」
「あ!おいねさんだ!」
「え?」
女の子たちが見ている方向へ目をやると、
地味な茶色の小袖を着て、赤ん坊をおんぶしている
若い女の子が歩いていました。
「あの子がおいねさんなの?」
「うん!そうだよ!」
「うん!おいねさんだよ!」
ふたりは全力で彼女のほうへ走っていきました。
かぐやの見た目は、地球の人間でいうと16歳くらいなのですが、
その自分よりも年下らしき女の子が、赤ちゃんを
おんぶして子育てをしているお母さんの出で立ちなのです。
「信じられない…」
女の子二人は、おいねさんに駆け寄ると
今までの経緯を説明しているようでした。
なんとなく聞こえてくる会話は、噛み合っておらず
おいねさんは首を傾げていました。
かぐやと目が合うと、ハッ!とした顔をして
両手を後ろに回し赤ちゃんを押さえながら、頭を深く下げてくれました。
かぐやも三人のところへ向かいます。
「ごきげんよぉ」
「ご…!ごきげんよぉ…おすごしですかぁあ」
おいねさんは、緊張しているのか更に顔を硬直させていました。
変な言葉を話している彼女を見て、女の子たちはゲラゲラと笑います。
「なにそれー!!!」
「へんなのー!!!」
「こら!公家の方の前で、そんな失礼なことしないよ!」
おいねさんは、人が変わったように女の子たちを厳しく注意しました。
「あっいいの。ありがとう
私は高貴な方ではないのよ」
「えぇ!!!高貴な方では無いんですか!!」
「うん、高貴じゃないの、公家でもないわ
まぁ…なんていうか…
なんだろー…
異国の人って思ってもらえればいいかな?」
「そうなのですね!てっきり…
とっても素敵な御召物ですから」
「ありがとう!自分でプロデュースしたのよ」
「ぷろ…?ぷろじゅ?…そんな素敵なものがあるんですか〜なるほどー」
「うん!そうなの!
あのね、それより…
教えてほしいことがあるの」
かぐやは、桂女と赤ちゃんが訪ねてこなかったか
聴きました。
「えぇ家に来ましたよー
わたしは乳の出がよいので!
岩田さんのお陰ですが。」
「…岩田さん?」
「探している桂女のお名前ですよ!
いつも桂女飴や魚をくれるんです。
この村の子供たちが元気なのは
あの人のお陰なんですよ!」
「…………そう
…………そうなのね
それは良かったわ」
「…………
……………大丈夫ですか?」
かぐやの目には
いつの間にか涙がたくさん溜まっていました。
「うん!大丈夫よ!ありがとう」
サッサッと指で涙を拭うと
二人がどこにいるのか聞きました。
「……赤ちゃんの足首…見ましたか?」
「え?」
「桃子ちゃんの足首に痣があるのを、岩田さんと見つけたんです。
あと背中に湿疹もたくさんあって…」
「……?
分からなかったわ…」
かぐやは、MoonTubeや地球の映画を鑑賞するので
アザが怪我の一種だということは認識しています。
桃太郎の顔にも、殴られた後しばらくアザが出来ていました。
シッシンも聞いたことがあります。
しかし、
桃子を着替えさせたことが何度もあったというのに、覚えがありませんでした。
「岩田さんは神社に行ったと思います。
御祓いをしたほうがいいって…」
「神社?え?なんで?」
「…薬はすごく高価ですから。
神社はこの村からそう遠くありません。
だけど、道が途中までしかないんです。
近所の人が看板を立てたと言っていましたから、
辿り着けるとは思いますが」
「わかったわ、ありがとう…おいねさん」
「一緒に行ってあげれたら良かったんですけど…
ごめんなさい」
「ううん!いいの!
大丈夫よ!」
かぐやは、おいねさんから詳しい道順を聴きました。
とりあえず、看板のところまでの道のりは簡単そうでした。
「本当にありがとう!!」
かぐやは、おいねさんの小さい手を握って
お礼を言いました。
「岩田さんは優しい人ですから、大丈夫ですよ!」
かぐやは、同じくらいの力で握り返してくる
手の平に励まされました。




