28話 きっと出来るよ 大丈夫
幸せで豊かな【月の中】で暮らす、うさぎとかぐや。
ふたりは、MoonTube〈ムーンチューブ〉で見た
現代も大昔も、不便でコンランする場所【地球】の話に興味津々!
地球の子供たちは、タイヘンでカナシイらしい!
ふたりはサンタみたいにプレゼントを届けたらいいのでは?と思いつきました。
月といえばお饅頭!
うさぎとかぐやは、神様に許可をもらって地球旅行へ出発しました。
ルンルンでタスケルするのです!
タスケテを知らない地球の子供、桃太郎と幼い妹の桃子との出会い、地球で過ごす日々のなかで
うさぎとかぐやは、
大切な人を助けるとはどういうことなのか?
自らの過去と向き合い、深みのある存在へと成長していく。
真っ暗闇に包まれたその空間に
小さい、やさしい声もうさぎも消えていきました。
そのうち
うさぎ!
うさぎ!
うさぎを呼ぶ声が聴こえてきました。
うさぎ!
うさぎ!………と。
サンタみたいにフワフワ〜っと、ライトな感じではありません。
もっと重くて鈍い……若々しい音でした。
その声の主は、暗闇をグラグラ揺さぶって
うさぎ!としつこく、しつこく更に揺さぶって何度も名前を呼びました。
…うさぎ!起きて!!!!
より一層、肩をうるさく揺らされて、うさぎは今さらビクッ!となりました。
「!!!」
「やっと起きた!!」
桃太郎が心配そうに覗き込んでいます。
「なかなか起きないから……心配したよ。
びっくりさせてごめん」
目をこすって、ボケ~っとしているうさぎに
桃太郎は謝りました。
「ねぇ、うさぎ
俺たちどれくらい眠っちゃってたんだろ?
姫と桃子がいないんだ。
散歩に行ったにしては遅くないかな…?
ちょっと心配になってきたところなんだ」
桃太郎は辺りを見回しています。
うさぎは、サンタの言っていたことをココでもすぐに思い出しました。
『かぐやのところにいそぐんじゃ』
うさぎは、うさぎなので耳が良いのです!
フカフカの胸に手を当てて
目を閉じました。
これから起こることは、良いことではない
サンタの様子からなんとなく感じ取っていました。
薄っぺらいうさぎの勘違いならいいのだけれど…
「ふたりを探しにいこう!」
うさぎは、大きな目で桃太郎をまっすぐ見つめました。
「桃太郎!
僕が一緒にいるから大丈夫だからね!!」
「……………うん!!!」
桃太郎は、うさぎの表情を少し見つめてから、
珍しく元気よく返事しました。
ふたりはリアル森のカフェを出発しました。
走っては止まり
走っては止まり
うさぎは桃太郎が付いてこれるように、速度を調整して駆け足で進みます。
繰り返し
走っては止まり
走っては止まります。
耳をピン!!と立てて
小さく聴こえるかぐやの音を探しました。
桃子を連れて、かなり離れたところに行ってしまったようです。
それでも、かぐやの音は聞き慣れているので
どんなに小さくても聴き取れます。
うさぎの大好きな音です!
必ず探し出せるし、大丈夫なのです!
かぐやの音の近くには、透き通るような美しい音も微弱ながら聴こえました。
桃子の音色です!
大丈夫なのです!
うさぎは、静まり返っている森の中をメロスみたいに走りました。
考えながら
たまに振り返り、
桃太郎が付いてきているか
しっかりと確認をして…
また走りました。
メロスもきっと誰かと走っていたのかもしれない。
だから遅れてギリギリになってしまったのかもしれない。
きっとそうだ
そういうことにしておこう
うさぎは、かぐやと桃太郎のことを気にしながら
先を急ぎました。
あのときサンタは、もし駄目だと思っても『大丈夫。』
深みのあるかぐやになる為の挑戦じゃから。と言いました。
この地球は、どうなってしまうのか予測不能なところ
地獄にもなってしまう場所なのです。
『大丈夫。』の言葉は、
ほんとうに不確定なものだ…うさぎの心を締め付けました。
深みのあるうさぎになる為に通った道を知っている
その道は険しい
通らなくてもいいなら、そのほうがいい。
死ぬほどの苦しい思いをしなければ、深みのある存在にはなれないのか?
軸を奪うような苦しさが
腹から喉にかけて湧き上がり
うさぎの心と頭の中をギュッと締め付けました。
かぐやのことが心配でたまらない
この想いは、全然素敵じゃありません。
全然美しくないと感じました。
「僕…助けたいんだよ
だいじょうぶ
だいじょうぶ
だいじょうぶだよ
きっとうまくいくよ」
安心できない大丈夫を呪文のように唱えました。
そして、
うさぎは再び振り返り、桃太郎を見つめました。
足をタンタンタンタンと鳴らし
桃太郎を待ちました。
足の速いうさぎは、
立ち止まり足を鳴らし
走っては振り返り
立ち止まって
足をタンタンタンタン
タンタンタンタン…と鳴らしました。
何度か「先に行ってるね」と、声を掛けようか迷いました。
けれど
不安そうな顔をして、一生懸命走っている桃太郎を見ると、置いて行くことができませんでした。
サンタならどうするだろう…?と考えながら
うさぎは全速力で走りました。
そのあと
やっぱり立ち止まりました。
「僕も觔斗雲を持っていればな……」
かぐやの觔斗雲を羨ましく思いました。
2人で乗っても速さは変わらず
あっという間です!
うさぎの小さい身体では、桃太郎をおぶって全速力で走ることは出来ません。
『見て!うさぎ!觔斗雲も高速なのよ!
うさぎほどじゃないけどね!
ジャンプもぎこちないし。
でもいいの!私遅いからコレがないと困るのよ』
ニコニコしながら言っていた、かぐやの顔が
ホワホワと浮かんできました。
かぐやは、ただの無邪気な月の女の子です。
深みなんて、かぐやにはいらないんじゃない?
「かぐやには深みのある体験は耐えられないよ!」
うさぎはつい大声を出してしまいました。
「かぐや!待ってて!
僕みたいな辛い想いはさせないよ!!」
ジャンプして
大きな切り株を飛び越えました。
華麗に着地して
一瞬、かぐやとの距離が縮まった気がしました。
しかし、
振り返り
必死に走っている桃太郎の姿を見ると
やっぱり置いていけませんでした。
ひとりにすることは間違っている
こんなところに1人で置いていってしまうのは可哀想だと思ったのです。
ただでさえ可哀想な子なんだから…
けどサンタならどうするだろう?
うさぎは考えましたが、まだ答えはわかりませんでした。
なるべく速く!
急がなきゃ!
うさぎの急ぐ気持ちと反対に、桃太郎のペースはどんどん落ちていきました。
ゆっくり
ゆっくり
ゆっくり
桃太郎は、うさぎと比べると
まるでスローモーションのように見えました。
そのとき
うさぎは月の運動会のことを思い出しました。
かぐやと觔斗雲に乗ってスイスイ〜ッと移動したり、ときには華麗なバク転をして、自由に跳び回りました。
かぐやとふたりで楽しみながら、マラソンコースをゴールしたのです。
月の素敵な椅子に腰掛けて、ジュースを飲んでいると
ゴールを目指して、前進する亀さんの姿が目に入りました。
彼は一生懸命走って(?)いました。
しかし、
今の桃太郎と同様、全然前に進んでいないように見えたのです。
あまりにもゆっくりで、ひとりきりでした。
それでも、觔斗雲に乗ることはありません。
かぐやは彼に「がんばれーー!」と手を振りました。
亀さんはこちらに気付くとニコッと笑って、手を振り返してくれました。
そのときのうさぎは、不思議な気持ちで亀さんを見つめていました。
ゆっくりですが、着実にゴールに向かい
遂にゴールすることができた、汗だくの亀さんに話しかけました。
「どうして觔斗雲に乗らなかったの?」
「え?
ボクは亀だけど
自分にも出来るって思ったから
試してみたかったんだよー!」
彼の顔は汗だらけで、ゼーゼーと肩で息をしているような状態でした。
しかし、
とても生き生きとしていました。
キラキラ光る月の中でも、ひと一倍輝いて見えたのです。
そのときのうさぎには、すべてを理解することはできませんでした。
しかし
今のうさぎの目には、
本質の異なるふたり、桃太郎と亀さんが重なって見えたのです。
亀さんは、自分のことを亀だから遅いと自覚はしていても【自分なんかには出来ない】とは思っていなかったのです。
自分にもゴール出来ると信じて、進んでいったのです。
遠くにいる桃太郎は、ほとんど歩いているような速度でした。
こちらを見てくる目は、
『なんとかしてほしい』と、うさぎに訴えかけているように感じました。
そして
やっぱりサンタは凄いと思ったのです。
サンタは、面白くてフワフワで
一緒にいると気分がライトになるひとです。
何でも知っているし
何でも出来るし
たくさんのひとにプレゼントを渡すことのできる存在です。
彼がケチなひとじゃ無いのは、皆が知っています。
なのに
彼は言わないのです。
なにをどうしたらいいのか
詳しく言わないのです。
桃太郎のことも助ける気は無さそうでした。
あんなに可哀想だというのに。
サンタならどうにかして助けられると
うさぎは思っていました。
しかし
困っているうさぎのことも、今ここで助けてくれることはありません。
サンタは平気でそういうことをするのです。
何故なのか
うさぎには解りました。
やっぱりサンタは凄いのです。
「桃太郎!!!
先にいくよ!!!!」
うさぎは大声で叫びました。
桃太郎は立ち止まり、肩で大きく息をしながら
驚いたような
困ったような表情をしています。
眉を最大限下げて、うさぎのことを少しの間
見つめていました。
そして
「わかったよ」と桃太郎の口は動きました。
うさぎは、うさぎなので耳は良いのですが
その声は聴こえませんでした。
「ここを真っすぐ走って!
君なら出来るよ!!!!!!!!
必ずまた会えるよ!」
うさぎは大声で叫びました。
今度は返事を待ちませんでした。
ひとりでも辿り着けると信じて
走り出しました。
うさぎも凄いかもしれません。
ひとに『可哀想』のレッテルを貼るのをやめたのだから。




