13話 そのときの桃太郎にはそれしか思いつきませんでした。
幸せで豊かな【月の中】で暮らす、うさぎとかぐや。
ふたりは、MoonTube〈ムーンチューブ〉で見た
現代も大昔も、不便でコンランする場所【地球】の話に興味津々!
地球の子供たちは、タイヘンでカナシイらしい!
ふたりはサンタみたいにプレゼントを届けたらいいのでは?と思いつきました。
月といえばお饅頭!
うさぎとかぐやは、神様に許可をもらって地球旅行へ出発しました。
ルンルンでタスケルするのです。
タスケテを知らない地球の子供、桃太郎と幼い妹の桃子との出会いで、
うさぎとかぐやは
大切な人を助けるとはどういうことなのか?
自らの過去と向き合い、成長していく。
第13話です。
秋の夜、
静まりかえったレトロな家がひとつ。
深い森の前に、ぽつんと建っていた
あの家です。
桃太郎は、ウトウトしておとなしい桃子を
藁の上にそっと寝かせました。
いつもは灯りがなく、
墨のように沈む板の間ですが
今夜は月明かりではっきりと見渡せます。
「ずいぶん明るいね」
桃太郎は、妹の眠そうな顔を眺めながら
小さい声で呟きました。
古ぼけた板戸の合わせ目から、月の光と隙間風が入り込んできます。
月の光は、とても明るく
キラキラと綺麗で美しく
風が入ってこようが、
桃太郎は温かいなぁと感じました。
心穏やかでいられるのは、意地悪な爺さんと婆さんが留守の日だから…
それだけではありません。
美しいものを見ると
心がポカポカになる気がするのです。
かぐやとうさぎを思い出すからでしょうか。
ふたりは、いつも桃太郎の心を温かく満たしてくれます。
となり村のほとんどの人が、この兄妹を冷たい目で見ていました。
物乞いをしている事を不憫に思うよりも、
見下す人間の方が多い現実は、桃太郎の心を苦しめました。
村の道端で座り込み
藁で編んだ入れ物を持って
日課のように、いつも同じ言葉を繰り返しました。
『食べ物を恵んで下さい。お願いします。』
ほとんどの人が見て見ぬふりをして通り過ぎて行きました。
『少しくらい分けてくれたって良いじゃないか』
いつもそう思っていました。
人間の心の冷たさを幼い頃から感じていたのです。
それでも、
桃太郎は座って物乞いすることを続けました。
そのときの桃太郎には、それしか思いつかなかったからです。
かぐやとうさぎは、食べ物だけじゃなく
優しい言葉も今の桃太郎に渡してくれています。
たまに
珍しい者を見るように、ジーーッと見つめられることがあるなぁと感じていますが、
それでもその視線は
「あの村人達とは違う
絶対に」
そう確信していました。
妹から少し離れた藁の上で、身体を横にして
そっと目を閉じました。
すると
唯一、
そのとなり村で食べ物を譲ってくれていた
おばちゃんの顔が思い浮かびました。
コソコソと隠れ、人がいないのを見計らって
そのときの桃太郎に話し掛けてきました。
冷ややかな視線を送る村人たちに隠れて、
少しの穀粉を桃太郎に分けてくれたのです。
おばちゃんも裕福というわけではありません。
それでも、
ふたりを可哀想だと思ったのか
度々、食糧を少しだけ譲ってくれたのです。
おばちゃんは、色々な助言もしてくれました。
「眠る時は気を付けるんだよ」
桃太郎が一番覚えている言葉です。
それは桃子がもっと小さかった頃に
言われた言葉でした。
『妹を踏み潰しちゃいけないよ』
『母親でさえ赤子を踏みつぶすことがあるのよ』
桃太郎は
そんな事あるのかな…?
いつも桃子と眠っているけれど、踏んだことなんて
一度もないよ…。と心のなかで思っていました。
けれど、
赤ちゃんを育てる決まり事を教えて頂いたのです。
守るべきだと思いました。
家に戻ると
寝床に使っていた、長い藁をほどいて
編みなおし半分ずつにしました。
その日から、1人ずつ分かれて眠るようにしたのです。
半分になった藁は、桃太郎には短かったけれど仕方ありません。
冬が近づくと、
更に足元が寒くてしょうがないのですが、
その方法しか思いつかなかったのです。
これまで、
ふたりで眠ればまだ少しは暖かかったのですが、
仕方ありません。
そのときの桃太郎には、それしか思いつきませんでした。
そして、
おまんじゅうを食べるようになってからは、おばちゃんには会わなくなりました。
今の桃太郎は、使い込まれた短い藁の上で
丸くなっています。
「また早く明日になってほしいなぁ
ふたりに早く会いたいなぁ」
冬は確実に近付いてきていましたが、今の桃太郎は平気でした。
ふたりに会えるのがいつも楽しみだからです。
『良いお兄ちゃんだね!』
今度は、うさぎの顔が思い浮かびました。
『桃太郎は良いお兄ちゃんだね!よく頑張っているよね!』
うさぎはぴょんぴょん跳ねながら、楽しそうに言ったのです。
誰かに褒められたのは初めてだったので
桃太郎はいつもより大きな声で
「そんなことないよ!」と、
跳ね上がるような
元気な声で答えたのです。
すると、
うさぎは首を横に傾けて
不思議そうな顔で桃太郎をじっと見つめました。
(そうでしょ?いいお兄ちゃんなんだよ。
しっかり離れて眠っているし。
いつも妹を守っているんだよ?
いつも
いつも
…………俺ばっかりね)
桃太郎は心のなかで思っていたのです。
褒められて嬉しい気持ちと
妹に感じる鬱陶しさどちらも強く感じていたのです。
今の桃太郎は、藁の上で横になりながら
そのときの気持ちを思い出し
モヤモヤした気持ちになりました。
それでも
うさぎのフワフワした長い耳が、地面に付きそうなくらい首を傾けていた姿を思い出すと
とっても可愛くて
不満でモヤモヤした心は、すぐにスッと軽くなりました。
ニコッと独りで微笑むくらい気分が良くなったのです。
そのときでした。
突然
ガンッッッ!!!!!!!!!!!!!!!と
大きい音を立てて
勢いよく、戸口が開きました。
今の桃太郎は驚いて飛び上がりました。
一気に現実に引き戻されてしまったのです。
全身に緊張が走り
心臓が潰れるような恐ろしさを感じました。
それでも、今の桃太郎は素早く土下座のような体勢をとって、手で頭を守りながら縮こまります。
今日は帰ってこないはずなのに!!!!
心の中で叫びました。
すると……
婆さんの足音が、まだ動かないことに気付きました。
顔を上げるのを待っているのかもしれない
と桃太郎は分析していました。
ダン!!!!ダン!!!!と
遂に
こちらに向かってくる足音が
少しだけ
自分から逸れていることに気付きました。
顔を上げたときには
もう
桃子が足首を掴まれて
宙吊りになるのが見えました。
油断したことを、後悔する暇もありませんでした。
桃太郎は
逆さまになって泣き叫ぶ桃子を
見ていることしか出来なかったのです。




