12話 あいつは嘘つきでサイコだった
幸せで豊かな【月の中】で暮らす、うさぎとかぐや。
ふたりは、MoonTube〈ムーンチューブ〉で見た
現代も大昔も、不便でコンランする場所【地球】の話に興味津々!
地球の子供たちは、タイヘンでカナシイらしい!
ふたりはサンタみたいにプレゼントを届けたらいいのでは?と思いつきました。
月といえばお饅頭!
うさぎとかぐやは、神様に許可をもらって地球旅行へ出発しました。
ルンルンでタスケルするのです。
タスケテを知らない地球の子供、桃太郎と幼い妹の桃子との出会いで、
うさぎとかぐやは
大切な人を助けるとはどういうことなのか?
自らの過去と向き合い、成長していく。
今のうさぎは独りきりで
リアル森のカフェにある切り株の上に腰掛けていました。
石のテーブルの上には、
月から持ってきた素敵なハートのマグカップが置いて
あります。
カフェラテを淹れてから、かなり時間が経ちました……。
うさぎは、月の住人らしくない眉間にシワを寄せた
ヘンテコな顔でマグカップを眺めています…。
一向に大好きな飲み物を味わう気配はありませんでした。
うさぎの心は、リアル森のカフェへ戻ってきても落ち
着かないままだったのです。
理由はもちろん…自分の前世を知ったからでした。
違ううさぎだったときのストーリーは、
間違いなく自分自身のことだと感じています。
『あっ僕のことは食べないでね!』
再び、自分の口癖を思い出してブルッと震えました。
『あっ!!!おまんじゅうは良いけど、
僕のことは食べないでね!!』
最近、桃太郎に言ったジョークを思い出して
更に嫌な気分になりました。
思わず、月のカフェラテをガブッと流し込みます。
うさぎ用のかなりぬるいコーヒーですが、
いつもならそれを飲めば、ホワァとフカフカの腹から全身がポカポカになるのです…
しかし、
今のうさぎは燃えたときの絶叫する恐ろしい感覚を思い出してしまい、
ブルブルッ!!!!!!!と逆に背筋が凍りました。
うさぎは今まで前世について、深く考えたことはありませんでした。
これまで、自分のことを【どっかから転生してきた何者でもない、ちょっとおどけた可愛い月の兎】と思っていたのです。
月では、かぐやのように月で生まれて月で過ごす住人と、うさぎのように何処かから転生してくる住人がいますが、
どちらの住人も豊かな月の中で幸せに過ごしています。
そんなのほほんした自分が、実は【地球で燃えてしまった可哀想なうさぎ】だったのです。
今のうさぎは大きなため息をつきました。
「あんな熱い炎の中に飛び込むなんて…」
「今の僕ならこのカフェラテの中にだって飛び込みやしない!!
うさぎは凄く猫舌なんだ!!!」
「………前世のうさぎは猫舌じゃなかったんだ
…………だからあんな事ができたんだよ」
うさぎは切り株に腰掛けながら
ブツブツと独り言を繰り返していました。
「サンタと同じ地球での前世……。
でもそれって………
……凄いよね?」
サンタのように、地球での前世があることは
とても喜ばしいことです。
それは、月では深い魂であることを意味すると伝えられているからです。
うさぎは少しだけ自分を誇らしく感じました。
少し気分が良くなったのです。
すると
違ううさぎだったときのことをもっと知りたくなりました。
目を閉じれば、すぐにでも思い出せる気がします。
うさぎは誰も見ていないのに、背筋を伸ばし
エッヘン!!と胸を張りました。
思い出すなら、
サンタの前世 聖ニコラウスみたいに
素晴らしい話がいい!
自分を凄いと思えるストーリーが良い!
さっそく、うさぎは前回と同じように
目を閉じて…
深い呼吸を始めました。
すると…
すぐにお爺さんの泣き声が聞こえてきました。
(え……)
うさぎは、お爺さんの哀しそうな泣き声に
少し迷いました。
しかし
自分のことを知りたい欲求に勝てませんでした。
深い呼吸を繰り返します。
スーー
ハーーー
と繰り返し
違ううさぎだったときの、
感情のストーリーに入っていきました。
ーーーーー
ーーー
ーー
ー
間違った……
間違った……
間違った……
間違った……
その時のうさぎは頭の中で唱えていました。
おじいさんは、丸焦げになったうさぎに手を伸ばし
可哀想だ……
可哀想だ……
可哀想だ……
可哀想だ……
と繰り返していました。
泣いているおじいさんは、丸焦げのうさぎを抱きしめて言いました。
うさぎや……
なんてことを…
なんてことを……
お爺さんは、ほんとうに哀しそうに
苦しそうに
うさぎを大切に抱きかかえて呟いていました。
同じ言葉を何度も
何度も繰り返したのです。
うさぎや…
悪かった…
悪かった…
うさぎや…
なんてことだ…
なんてことだ…
しばらくすると
お爺さんは涙を手で拭い、
声を絞り出したのです。
褒め称えられるべきだ…
なんて素晴らしい行いなんだ……
ワシは感動したぞ…
自己を犠牲にしてまで、愛する者を助ける
なんて素晴らしい行いだ
うさぎや…
実はワシは神様…いや
仏様なのだ!!!
お前を月の住人にしてやろう!!
自己犠牲の善行は褒め称えられるべきだ!!!
素晴らしいことだ!!!!!!!
素晴らしい行いだ!!!!!!!!!!!
お爺さんは泣き叫びました。
涙で顔をグチャグチャにして
顔をくしゃくしゃにして
哀しい声で叫びました。
その声は
炎のように地を這い
激しく地面を突き破り
深く地面の下まで届きました。
空を越え、
炎風のように
月にまで届いたのです。
そして
お爺さんは大きい木の杖を両手で持ち、
大きく一度ブンッッッ!!!と振りました。
丸まっていたはずの背中を伸ばして
杖を振る勇ましい姿は、魔法使い………
いやそれ以上…
やはり神様のそれだったのです。
丸焦げのうさぎは
宙に浮かび
キラキラとした星やフワフワと浮かぶ雲に包まれました。
そして、更に高く
空高く浮かび
月へ向かったのです。
そのときのうさぎは、美しいキラキラとフワフワに包まれながら、それとは逆の感覚を持っていました。
腹の底から湧いてくるのです。
グルグル
グルグルと。
ドス黒いグルグルは止められないのです。
炎に飛び込み、苦しむことが善行なのか
褒められることなのか。
悶え苦しむと神様は讃えてくれるのか。
そもそもなぜこんなことになったのか。
そのときのうさぎが愛したお爺さんは、
人間ではなく神様でした。
ということは
病気のふりをしていたということだ
きっとお腹も空いていなかったはずだ
カブはいらなかったはずだ!!!!
あのデカい杖で、一振りすれば何でも出来るのが神様でしょう?
そのときのうさぎが、炎に飛び込む必要は無かったのだ!
お爺さんを最後に見たとき
背筋をピンッ!と伸ばして、真っすぐ立っていました。
なんというか…
生き生きしているように見えたのです。
そもそも神様は病気にはならないはずだ。
「あいつは嘘つきだよ」
今のうさぎはパッと目を開けました。
フカフカの腹の底から
グルグル
グルグルしたものが湧き上がり続けました。
喉の辺りで止まり
吐き出さずにはいられませんでした。
「爺さん
サイコじゃん」
違ううさぎだったときの自分を憐れみました。
嘘つきな神様のために
炎に飛び込み
焼け爛れ
苦しみ
絶叫したのです。
落ち着くためにカフェラテを飲もうと
マグカップを持ち上げると
空だったことを思い出しました。
すると、
ツヤツヤしたハートのマグカップの側面に
今のうさぎの顔が映っていました。
(どこかで見たことある………)
「あ…
桃太郎を殴ってたおばあさんだ」
あの人間と同じ表情をしていたのです。
今のうさぎは、腹の底から湧いてくるドス黒いグルグルと滞在するモヤモヤを取り戻しました。
とても気分が悪いのです。
「でも
まだ…
このままでいいや…」
うさぎは小さな声で言いました。
今のうさぎは、聖ニコラウスがサンタクロースになった理由が解った気がしました。
「地球は酷くて大変だもんね」
切り株の椅子から立ち上がりました。
今は誰にも会わないほうがいい
うさぎはしばらく独りでいる為に歩き出しました。




