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分からないことは分からないままに受け止めたい

作者: ムクダム
掲載日:2025/11/12

 世の中分からないことだらけだ。毎年四苦八苦しているが年末調整の仕組みはいまだに分からないし、向こうから近づいてくる癖に手で触れようとするとさっと逃げてしまう近所の猫の気持ちは未来永劫分かる気がしない。

 知識や経験を積むことで分かるようになる可能性があるものと、どうあっても分からないものがある。年末調整の仕組みは前者で、猫の気持ちは後者である。努力をすれば年末調整ともっと分かり合える気がするが、積極的にお友達になりたくない仕組みであることが問題だ。逆に猫の本当の気持ちが分かるならどんなに良いかと思うが、猫のことをどれだけ学んでもそれは不可能だろう。仮に猫が言葉を喋ったとしても、本心をそのまま言葉にするとは限らない。言葉が通じるからといって分かり合えるとは限らないということを、私たち人間という生物は骨身に沁みて理解しているはずだ。

 どうあっても分からないものについては、最終的に自分なりの受け止め方をするしかない。近所の猫が私の手から逃れようとするのは、遠くからは感じられなかった私の威光に勘付き、恐れ多い気持ちになったからかもしれない。私にそんな威光が備わっているとは知らなかったが、人間相手には全く影響力がなくても、大きな体格差のある動物相手なら何かしらの威厳が発揮される可能性は0ではないのだ。なお、餌になりそうなものを持っていないと気が付き身を翻した可能性もあるが、悲しくなるのでその解釈からは目を逸らすこととする。物事をどのように受け止めるかは個人の自由なのである。

 自分が体験したこと、見たもの、触れたものをどのように受け止めるかは最大の権利であり、誰にも侵されない自由ではないだろうか。突き詰めれば、人間に完全に許されている権利、自由はそれだけであるとも言える。どんな法律も個人の気持ちに強制力を働かせることは不可能である。表向きは服従しても、内心ではべろを出して反抗するという態度は誰もが実行可能なものであり、それが人間の尊厳を支えているのだと思う。

 しかし、自分はこの自由を蔑ろにしてはいないかと思うことがある。読んだ本や、鑑賞した映画について、すぐに他人の意見や感想を調べてしまうことが多いのだ。自分なりに咀嚼する猶予を設けず、手軽に他人の受け取り方を見渡し、気に入ったものをそのまま自分なりの受け止め方とみなしたことはないだろうか。

 映画館を出てすぐにSNSでその映画タイトルを検索し、SNSで感想を読み漁るということをついやってしまうのだが、振り返ってみると、内容に満足した作品よりも不満や理解できないところがある作品の場合にそのような行動に出ることが多いことに気がつく。どうも、自分で受け止めきれない作品に出会うとそれを分からないままにしておくことができず、落とし所を見つけるために他人の意見を求める傾向にあるようだ。

 これは実は勿体ないことをしているのではないだろうか。物事を受け止めるということを、手近な方法であっさりと終えてしまうのは、広がっていた可能性を自ら閉じてしまうことのように思えるのだ。分からないということは人生の余白と言えないだろうか。今わからないことでも、いつかは分かるかもしれないという可能性は人生を有意義にするものだと思える。それは知識や経験を積んで分かることかもしれないし、何か思い込みによって理解が妨げられている場合もある。その原因が分かるまでに時間がかかる場合もある。だから、分からないことがあったら、ひとまずそのままにしておくということが肝要であると思うのだ。

 今まで分からなかったことが、ある時分かるようになる瞬間というのは、素敵でかけがえのない一瞬ではないか。その一瞬は自分なりに進み方で見つけた時に本当の意味で輝くように感じる。他人の言葉を頼った方が効率的かもしれないが、少なからず色褪せたものとして映るだろう。別に競争しているわけではないのだから、自分なりの速さで分からないものと向き合えば良いと思う。

 また、分からないものに出会った時、分からないことを悪いことや嫌なことと捉え、それを排除してしまうのはもっと大きな人生の損失になる。すぐに受け止められなくとも、分からないものは分からないものとして保留する態度が人生を豊かにする秘訣なのではないだろうか。終わり


 

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