表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/123

0-1. 地下牢で、推しと出会う

気づけば牢屋の中にいた。


(えっと、どういうこと?)


とりあえずこの牢屋、見覚えがある。

見覚えがあるどころか、ついさっきまでプレイしていた乙女ゲームの背景イラストそのもの。

悪役令嬢「ルクレリア」の悪事が大勢の前で暴かれ、断罪されたあと国外追放となるルートで出てくるシーンだ。


と、いうことは。


恐る恐る自分の服装を確かめると、予想したとおり――無駄に豪華絢爛な黒曜のドレスを着ていた。

彼女のお気に入りの一着だ。

……まあ、ドレスのまま牢屋に入れられるのはどうなの、って思わなくもない。

でも、ドレスじゃなかったら「断罪された悪役令嬢」感が出ないしね。


髪ももちろん、ご自慢の艶やかな黒髪ロングストレート。

ふわふわ金髪ブロンドのヒロインとは全く正反対の容姿。

……ちなみに私も天然パーマの癖っ毛で、この髪は密かな憧れだったのだ。

なので今、ちょっぴり嬉しかったり……って!


(ち、が、うっ!)


ルクレリアが牢屋に入っているってことは、今は国外追放の前夜。

なら私は……自分がプレイしていた乙女ゲームの中に、ルクレリアとして入ってしまったってこと!?


落ち着け、落ち着け私。

乙女ゲームの中に入るなんてあり得ない。だからこれはきっと夢。

たぶん寝落ちしちゃったんだ、全然眠くなかったけど。


……でも、夢のはずなのに。

凍えるような冷たさは、やけにリアルだ。

というか……屋敷の地下牢って、こんなに寒かったんだ。

ちょっとだけ、ほーんのちょっとだけ。

「ルクレリア」に同情してしまった。


そんなことを思っていると、牢屋の外の奥の暗がりから、コツコツと足音が聞こえてきた。

この足音は……まさか!


実はこの乙女ゲーム、もうとっくにクリアしている。

登場人物の中でも特に() () () ()キャラクターが出るこのシーン目当てで、何度もプレイしているのだ。

つまり、今から登場するのは――。


予想どおり、暗い廊下の向こうからひとりの青年が姿を見せた。

短く切り揃えられた髪は濃い茶色で、騎士の装いに身を包み、食器を乗せた盆を手に持っている。


「ルクレリア様……お食事をお持ちしました」


き……来た! 私の推し!

幼少からルクレリアの家に仕える側近騎士のモブキャラ!

その名も「トマ」! 名前も実にモブっぽい!


しかしこのトマ、見た目も設定も実に私好みなのである。


金髪や銀髪、青や黒まで揃った華やかなメインキャラクターたちとは違い、トマ含むモブたちは――艶も描かれず目立たない暗い茶髪に短髪や坊主、あとはどこか野暮ったい髪型など。

それもほぼ使い回し。だってモブだから。


そんなトマの短髪、私的にはクリティカルヒット。

表情パターンの少ないモブだけど、トマには憂いの表情が用意されている。


たとえルクレリアが極悪非道のクソ令嬢、おっと口が過ぎましたわ。

皆に恨まれる悪役令嬢だとしても、たったひとり国外追放されてしまうお嬢様の未来を心配するのは、側近として当然のこと。

それに……立場以上の「何か」があることも、知ってるしね。


そしてその、憂いを帯びた表情のときの眉が。

出番なんてほとんどないモブキャラなのに、メインキャラクターたちに対抗できるほど無駄に端正な眉が、その短髪によく映えるのである。


(やばい……間近で見る本物の「推し」の憂いの顔、思ったより良い……)


その顔をじっと眺めていたら、いつの間にか頭のほうにも視線が吸い寄せられてしまった。

あの短髪……撫で心地、絶対いい。

……いやいやいや、ダメ! オタクの願望が出てる! 一旦冷静になるんだ、私。


はあ……私がルクレリアだったら、絶対トマを選んでるのに。

だってトマは、ルクレリアのことが――


あ。

もしかしてこれ、私の「トマを推したい気持ち」が限界を超えて――妙に感覚だけリアルな、不思議な夢を見てる……とか?


(……うん、きっとそうだ。だって、それ以外に考えられないもの)


半ば納得したように頷く私を見て、トマの表情が今度は憂いから怪訝へと変わった。

わっ、すごい……こんな顔、見たことない。

表情パターンにも無いはず……なんだか、新鮮。


トマは、食事を乗せた盆をいったん壁際の小さな台に置くと、ゆっくりと言葉を選び始めた。


「ルクレリア様。お気は……確かでしょうか? その、国外追放とは……あまりの仕打ちではありますが」


おお、表情に加えて新台詞まで聞けるなんて。

これはもはや、推したい気持ちというより――トマというキャラをもっと供給してほしい願望が、強くなりすぎた結果……のような気もしてきた。


前に、単独グッズなんてほとんどないモブキャラなりに、トマだけを集めた推し祭壇を作ろうとしたことがある。

集合グッズとそれっぽい小物をかき集めて飾ったら……ちょっとした呪物みたいになってしまったのだ。


……まさか、そのせい?

いやいや、そんなわけ……ない、はず。たぶん。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ