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0-0. まだ知らなかった日々
これは、悪役令嬢に転移した『私』と、その側近騎士だった青年が、いくつもの場所を巡る中で――
『ふたりで生きる未来』を選ぶまでの物語。
町の喧騒から離れた、静かな丘の上。
夕暮れの光が差し込む小さな家で、扉の開く音がした。
彼が帰ってきたのだ。
「おかえりなさい」
歩み寄ってきた彼が、ごく自然に私の頬へ軽い口づけを落とす。
挨拶みたいなその仕草が、もうずっとこの家の当たり前になっている。
――まさか、こんな日々が続くなんて、あの頃の私は思っていなかった。




