#34 前夜
ウィストリア共和国という超大国の参戦は、我々が想像していた以上の影響力を世界中にもたらした。
バハナ王国のカルタエナ港は、今やかつてないほどの活況を呈していた。桟橋にはウィストリアの巨大な輸送船がひしめき合い、降ろされた物資は山のように積み上げられている。弾薬、燃料、食糧、そして見たこともない機械類。これほどの物量を見せつけられれば、いかなる国であろうともその圧倒的な国力の前に驚愕するしかないだろう。
だが、ウィストリア参戦の影響は、目に見える物資だけにとどまらなかった。
「皆、よく聞け。戦局は完全に我々に傾きつつある」
第一砲雷科の詰所で、スザキ大尉が手にした海図を指し示しながら、力強い声で告げた。
「ウィストリア共和国が世界中に我々への支援を表明した結果、これまで中立を決め込んでいた西方列強の国々が、次々と手のひらを返した。彼らは自国の海域、すなわち領海におけるバリャールヤナ連邦艦隊の通行を一切認めないという声明を出したのだ」
「それはつまり、どういうことです?」
僕が尋ねると、スザキ大尉は海図のとある海峡を指示棒で差し示し、続ける。
「簡単なことだ、伍長。バリャールヤナ艦隊は、本国から南方の資源地帯へ向かうための航路通行を、完全に絶たれたということだ。彼らの本拠地であるペトロマンスク港はこの中海を抜けて、西洋列強国、ソランサ王国とバレリアス公国に挟まれたこの狭いカステニョーラ海峡を通過しなくてはならないが、それが両国の我々への支持表明によりできなくなった。通行しようとすれば、海峡の両側から両国の要塞からの攻撃を受けることとなる。となれば事実上、奴らはもう南進することができなくなった。あの広大な海を、我が物顔で荒らし回ることはできない」
それを聞いた詰所に、歓喜の声が上がる。
「ということは、これで奴ら、好き放題できなくなるってことか!」
サイゴウ伍長が叫び、他の乗員たちも肩を叩き合って喜んでいる。無理もない。これまでの圧倒的な劣勢から一転、敵の首根っこを押さえることとなったのだから。
「しかしだ、喜ぶのはまだ早いぞ」
スザキ大尉の声が一段と低くなり、詰所の空気が引き締まった。
「奴らの南進を食い止めただけでは、戦争は終わらない。根源であるバリャールヤナの悪の中枢を物理的に潰さねば、バリャールヤナは再び牙を研ぎ澄まして襲い掛かってくるだろう。そこで、同盟する三か国の司令部は次なる、そしておそらくは最後となるであろう大規模な作戦を立案した」
スザキ大尉の指示棒が、海峡の東方のとある場所を指した。
「バリャールヤナ艦隊の中枢基地、あの敵国最大の巨大要塞港、この『ペトロマンスク港』の攻略作戦だ」
その名を聞いた瞬間、息を呑む音がいくつも聞こえた。ペトロマンスク港といえば、バリャールヤナ海軍の総本山ともいうべき港街。難攻不落の要塞として知られ、幾重にも張り巡らされた砲台、そしておそらくはあの「見えざる壁」を発生させる装置が何重にも設置されていると考えられる場所だ。
「このバハナ王国を起ち、ひたすらに北進する。カステニョーラ海峡を抜けて東進し、寒い海域へと艦隊を進めることとなる。我々第二艦隊、スラヴィア艦隊、そしてウィストリアの航空母艦部隊を含めた一大連合艦隊に加え、我が皇国とスラヴィア共和国、そしてウィストリア共和国の各上陸部隊が、敵の本拠地を直接叩く。これは、この忌まわしい戦争を終わらせるための、最終決戦となるだろう」
スザキ大尉の言葉に、誰もが唾を飲み込んだ。南国のうだるような暑さの中にいながら、背筋に冷たいものが走るのを感じた。
◇◇◇
バリャールヤナの艦隊三十隻が、まさに外洋への唯一の通り道である、カステニョーラ海峡へ到達しつつあった。もちろんその目的は、北上する東方連合皇国、スラヴィア共和国、ウィストリア共和国の同盟艦隊迎撃のためだ。
数は少ない。が、彼らの目的は撃滅ではない。どちらかといえば、時間稼ぎだ。ウィストリアが加わったとなれば、間違いなくペトロマンスクに攻めてくるだろう。だが、バリャールヤナ艦隊がまさに海峡を通過しようとした、その時。
彼らのもとに、一通の電文が入る。
「ソランサ王国、ならびにバレリアス公国政府は、バリャールヤナ連邦国のあらゆる船舶に対し、この海峡通過を許可しない。強行に通過しようとするならば、直ちに攻撃する」
海峡の両岸には、両国の強固な要塞が築かれている。海峡の幅は、わずかに三キロほど。両岸からの多数の砲台からの攻撃が、余裕で届く距離にある。
いくら強大な艦隊と言えども、この狭い海峡の通過に両国の同意なしでは不可能だ。かといって、ペトロマンスク港から外洋に出るには、この海峡を通過せざるを得ない。
「くそっ、なんだってウィストリアの野獣が、スラヴィアの狼や東方のサルなどに加担するんだ!」
バリャールヤナの艦隊指揮官の一人が、吐き捨てるように叫ぶ。が、強行突破となれば、無傷とはいくまい。
「取舵一杯、進路百八十度、転舵反転!」
が、その通信を受け、冷徹にもバリャールヤナ艦隊総司令官は全艦に向けて、反転を命じることになる。
まさに、バリャールヤナは孤立した。が、彼らもただでは済ませない、と考えている。
ペトロマンスク港での決戦に備え、少しでも時間稼ぎを行い、あの「鉄壁」を完成させる。その鉄壁な防御陣の突破に敵が疲弊したところを、陸と海から一斉に攻撃を仕掛ける。
バリャールヤナも、物量という点ではウィストリアに負けず劣らずだ。ならば、徹底抗戦を行い、やつらの戦力を削り取る。その上で、少しでも有利な講和条約にこぎつける。
彼らはそう、考えていた。だが、その野望が思わぬ方向に進むことになろうとは、この時、彼らは想像すらしていなかった。
◇◇◇
「また、寒い海に行くんだね」
第二砲塔に戻った僕に、サヨが不安げな声で呟いた。彼女もまた、伝声管を通じてスザキ大尉の言葉を聞いていたのだ。
「ああ。スレイン海峡やコーカサス湾と同様、北方の海域だ。ペトロマンスクは不凍港とはいえ、この熱帯の海から見ればはるかに寒い場所。特にアーティたちにとっては、厳しい航海になるだろうな」
僕がそう言うと、砲塔の扉が開いて、アーティたちシンドゥの魔女が数人、入ってきた。彼女たちの褐色の肌には、南国の強い日差しがよく似合う。だが、これからはそうはいかない。
「タクヤ、サヨ。聞いた。我ら、キタへ向かうと」
アーティが片言の皇国語で問いかけてくる。
「そうだ。バリャールヤナの本拠地を叩く。だがアーティ、北の海は君たちが想像する以上に過酷だ。ただ冷たいだけじゃない。空から白い雪が降り、凍りつくような寒い場所だ。君たちの今の南国の衣装では、甲板に出ることすら命に関わるかもしれない」
僕が警告すると、アーティは少しだけ目を丸くした。シンドゥ大公国のような常夏の国で育った彼女たちにとって、「海が凍る」という現象は想像の範疇を超えているのだろう。
アーティは背後の仲間たちと現地語で何事か言葉を交わした後、真っ直ぐに僕らを見た。
「ユキ……コオル? 分からない。でも、恐れない」
彼女は自らの胸をドンと叩いた。
「我ら、独立、手に入れた。お前たちの、おかげ。だから、我らも最後まで、共に行く。寒い、関係ない。魔力の炎で、身体、温める」
その心意気は頼もしい。だが、自然の脅威は気合だけで乗り切れるものではない。後でウィストリア軍から、彼女たちの分の防寒具を融通してもらうように手配しなければならないな。
アーティたちが砲塔を出て行った後、サヨは宝玉の前に座り込み、両膝を抱えていた。
「どうした、サヨ。怯えているのか?」
僕が隣に座ると、彼女は小さく首を横に振った。
「怯えているっていうか……心細いのかな」
サヨは俯いたまま、ぽつりとこぼした。
「ここ、バハナ王国だって、私たちの故郷である東方連合皇国からは、ものすごく遠いじゃない? でも、ペトロマンスクはさらに遠い。地球儀で見たら、ちょうど私たちの国の、裏側の果てみたいな場所だよ。そんな見知らぬ、遠い遠い場所で戦うなんて……もし、私たちが負けたら、もう二度と霧隠の山や、あの神社には帰れないんだなって思ったら、急に心細くなっちゃって」
最強の「三連装砲の魔女」と呼ばれ、敵艦隊を何十隻も沈めてきた彼女だが、その本性は山奥の神社で静かに暮らしていた、人見知りな一人の巫女だ。それが、世界を敵に回したかのような巨大な戦争の渦に巻き込まれて、地球の裏側まで連れてこられたのだ。その不安と孤独は、想像に難くない。
僕は、彼女の小さな手を両手で包み込んだ。
「負けないさ。それに、絶対に帰るんだ。僕が、サヨを必ずあの霧隠の町へ連れて帰る。それに……」
サヨは顔を上げ、僕の目を見た。
「タクヤ?」
「それにだ、果たさなきゃいけない約束が、僕らにはあるじゃないか」
「約束って、もしかして」
「そう。霧隠神社で、婚儀の式を挙げる。そう誓っただろう」
途端に、サヨの顔が真っ赤になった。こういう正直な表情が出てしまうのが、いかにもサヨらしい。僕も、しゃべりながら思わず恥ずかしさが込み上げてきた。
それをごまかすように、こう続けた。
「それに、ウィストリアの新兵器もある。加えて、シンドゥの魔女たちの秘術もある。でも一番の頼りはやっぱり、サヨの魔導砲だ。サヨの力があれば、どんな堅牢な要塞だって打ち砕ける。だから信じているよ、勝利を」
僕の言葉に、サヨは少しだけ瞳を潤ませて、そして力強く頷いた。
「うん、そうだね、約束は果たさなきゃね」
「よし。出撃は明日の朝だ。そうと決まれば、少し息抜きをしようか」
「えっ、息抜き?」
「ああ。ずっと艦内にいたんじゃ、気が滅入るだろう。せっかくだから、カルタエナの街を巡ってみようよ。南国の空気を楽しめるのも、今日が最後かもしれないからな」
僕の提案に、サヨの顔がパッと明るくなった。
カルタエナの街は、相変わらず喧騒と熱気に満ちていた。
ただ、以前と違うのは、行き交う兵士たちの顔ぶれだ。スラヴィアの軍服に加え、ウィストリアのカーキ色の軍服が目立つ。そして、我が皇国の白い軍服。三つの異なる大国の兵士たちが、同じ街の酒場やカフェで肩を並べている光景は、どこか奇妙でありながらも、確かな希望を感じさせた。
僕らはまず、大通りに面したオープンカフェに入った。
「いらっしゃい! 英雄二人、ご案内!」
バハナ人の店員が、覚えたての皇国語を叫びつつ、満面の笑みで迎えてくれる。僕とサヨの顔は、この街ではすっかり知られていた。特にサヨは王宮襲撃の阻止に貢献したとして、バハナの民衆から絶大な敬意を払われている。
「それじゃ、いつもので」
僕がその店員に、マンゴージュースと現地の珈琲を頼む。
ところがだ、頼んだのは飲み物だけだったのに、なにやら奇妙なものが出てきた。
それは、パパイヤとココナッツミルク、それを氷で割ったスムージだった。どうやら、ウィストリア軍からもたらされた氷をつかったものらしい。
「あの、これ、頼んでないけど」
ところが店員は笑いながらこう答える。
「おまけ、おまけ!」
それを聞いたサヨは目を輝かせ、その未知の甘味にさじを入れる。
「冷たくて甘い……! これ、すごく美味しいよ、タクヤも食べてみて!」
「僕はいいよ。甘いものは、サヨの魔力の源だからな。たっぷり補給しておいてくれ」
「いいから、一口だけ!」
僕が笑って答えると、サヨは照れながらも、やや強引にそのさじを僕の口に突っ込んできた。
確かに、甘い。それ以上に、サヨの匂いを感じる。口の中に、その両者が広がる。
まさに戦いを忘れるかのような、穏やかな時間が流れる。砲弾の音も、怒号も聞こえない。この瞬間は、一生忘れることはないだろうなと、僕はそう思った。
「美味しかった?」
満面の笑みで尋ねるサヨに、僕はこう答えた。
「そうだな、サヨの味がした」
それを聞いたサヨの顔が、真っ赤になる。あれだけ大胆なことをしておいて、いまさら顔を赤くすることはないだろう。そんなサヨはさじでパパイヤをすくい上げて口に入れ、うっすらと微笑んでこう答える。
「……うん、たしかに、タクヤの味もするね」
どんな味だ。僕は恥ずかしいというより、奇妙に感じる。それってつまり、汗臭いってことか? どうしてもそう考えてしまう。
そんなやり取りをしつつ、カフェを出る。その後、僕らは白い砂浜が広がる海岸へと向かった。
夕暮れが近づき、強烈だった太陽の光も幾分か和らいでいる。オレンジ色に染まる海は、どこまでも穏やかで、この海の向こうで恐ろしい殺し合いが行われたとは到底思えない。そんな静かな海だ。
波打ち際を、靴を脱いで歩く。サヨの白い素足が、寄せては返す波に洗われる。
「綺麗だね……」
サヨが水平線を見つめながら呟いた。
「ああ。霧隠の山もいいが、海も悪くないな」
「うん。でもやっぱり、私は山の木々の匂いの方が好きかな。秋になったら、落ち
葉を踏む音がして、冬には真っ白な雪が積もって……神社から見下ろす町の景色が、一番好き」
「この戦いが終わったら、二人で霧隠の山に帰れるよ」
僕が言うと、サヨは僕の腕にそっと寄り添ってきた。
「でも、帰ったらどうする? タクヤは軍に残るの?」
「いや、分からない。僕の希望は、霧隠の街で普通に働いて過ごしたいな、と思ってるけど……」
そこまで言って、僕は言葉を濁した。サヨが、上目遣いで僕を見つめている。
「普通に働いて……それで?」
「サヨと一緒に暮らすんだ。夕暮れ時に帰ってきた僕に、台所で赤ん坊を背負ったサヨが、僕を迎えてくれるんだ」
などと話していると、僕は顔が熱くなるのを感じる。いや、ちょっと先の話をし過ぎた気がするな。だが、それを聞いたサヨはふふっと笑みを浮かべ、僕の腕をきゅっと抱きしめた。
「小さな幸せだね。でも、約束だよ。絶対に破っちゃダメだからね」
「ああ、わかった。約束だ」
それから海岸から街の中心部へと戻る道すがら、僕らは小さな雑貨店の前を通りかかる。
店先には、バハナ特産の木彫りの細工や、色鮮やかな織物、そして原石を磨いただけの素朴な装飾品が並べられていた。
ふと、僕の目に一つのペンダントが留まった。
銀色の華奢なチェーンに、深い青色をした石が嵌め込まれている。透き通るようなその青は、サヨが魔導砲を放つ時の、あの青白い閃光の色によく似ていた。
「ちょっと待ってて」
僕はサヨを店の外に残し、店内に入ってそのペンダントを手に取った。
「これ、いくらするんですか?」
僕は身振り手振りで、その店員に話す。するとその店員は銅貨を見せながら、片手を開く。つまり、こちらの銅貨で五枚と言いたいらしい。
「分かった。それ下さい」
そう僕は答え、銅貨五枚を渡した。その年老いた店主がにこやかに笑いながら、それを受け取る。
思えばただのガラス製の安物だったが、何となく僕はそれを手に入れたくなった。店の外に出ると、サヨが不思議そうに僕を見ていた。
「何を買ったの?」
「これだよ」
僕はペンダントを取り出し、サヨの目の前に掲げた。夕陽の光を反射して、青水晶が美しく輝いた。
「わぁ……綺麗な石」
「サヨの放つ魔導砲の光のようだと、そう思ってね。僕からの贈り物だ、お守りにしてほしい」
僕はそう言って、サヨの首の後ろに手を回し、ペンダントを着けてやった。
白い軍服の胸元で、青い宝石が静かに存在感を放つ。
サヨは胸元の宝石を両手でそっと包み込み、そして、大粒の涙をポロポロとこぼし始めた。
「ありがとう。すごく、すごく嬉しいよ」
「泣くことないだろ。安物だよ」
「そんなこと、どうでもいいよ。私には、二つとない宝物だよ。これと一緒に、霧隠神社に帰ろうね」
サヨの瞳には、かつてないほどの強い決意が宿っていた。
さて、その夜。
僕とサヨは、宿の一室で穏やかな時間を過ごしていた。
窓の外からは、港で出港準備を進める艦隊の作業音が微かに聞こえてくる。だが、この部屋の中だけは、二人だけの世界だった。
「タクヤ……」
サヨがベッドの上で、僕の胸に顔を埋める。彼女の体温が、薄いシーツ越しに伝わってくる。
「暑くないか?」
僕が彼女の髪を撫でながら聞くと、彼女は小さく首を振った。
「ううん。全然。タクヤのぬくもりが、今は一番ほしい」
サヨは胸元の青水晶を握りしめた。
「それに、宝物まで身に付けちゃったからね」
僕らは、互いの存在を確かめ合うように、肌をふれあい、強く抱きしめ合った。
言葉は必要なかった。明日からの死地へ向かう航海を前に、南国の湿った夜風が部屋を吹き抜ける中、僕らは深く、静かに身体を重ねた。それは生への執着であり、互いの生を確かめ合う無言の営みであった。
そんな夜も明け、ついに出発の朝が訪れた。
カルタエナ港は、猛々しい銅鑼の音と、出港を告げるサイレンの音に包まれていた。
戦艦「震洋」の甲板に立つと、見渡す限りの海を、無数の軍艦が埋め尽くしていた。
先頭を行くのは、ウィストリア共和国の巨大な航空母艦群。その甲板には、あの「飛行機」が所狭しと並べられている。
それに続くのは、スラヴィア共和国の最新鋭戦艦群。そして、我らが東方連合皇国の第二艦隊と第四艦隊。
合計で百隻を超えるであろう、史上最大規模の連合艦隊が、威風堂々と舳先を北へと向けていた。
『総員、配置につけ! これより我が皇国艦隊は、同盟艦隊と共に敵本拠地ペトロマンスクを目指し北進する!』
艦長の檄が、伝声管を通じて艦内に響き渡る。
「行くぞ、サヨ」
第二砲塔の中で、僕は照準器の前に立ち、そうサヨに告げた。
「うん!」
サヨは胸元の青水晶を握りしめると、迷いのない表情で宝玉の前に立った。
『抜錨! 戦艦「震洋」、発進する! 両舷前進、いっぱーい!』
巨大なスクリューが海水を掻き回し、後方の海水を泡立てながら戦艦「震洋」が重々しく動き出す。
南国の暖かい海風を背に受け、艦隊は一路、凍てつく北の海へと進路を取った。
さて、バリャールヤナの悪魔どもは今ごろ、何を企んでいるのやら。
だが、僕らは今、全ての因縁に決着をつけるために、やつらの中枢へと殴り込む。おそらくは、相当な苦難が待っていることだろう。
青い空と海が交わる水平線の彼方へ、人類の命運を賭けた最後の航海が、今まさに、始まった。




