#33 増援
「敵艦隊、進路そのまま! 距離、五万を切りました!」
バハナ王国のカルタエナ港に、見張り員の悲痛な叫びが響き渡る。
僕ら第二艦隊とスラヴィア艦隊、そして急ごしらえの第四艦隊を合わせても五十隻に満たない我々の前に、バリャールヤナ連邦国の主力艦隊七十隻が迫っていた。
しかも、我々の切り札となるはずだった新型魔導砲は、技術的な問題を解決できぬまま沈黙している。サヨの魔力を受け止めきれず、発射できないのだ。
頼みの綱であるウィストリア共和国からの援助船団も、予定ならば到着まであと六日かかる。
「六日間か……耐え難い日数だな」
第一砲雷科の詰所で、スザキ大尉が珍しく苦虫を噛み潰したような顔で海図を睨んでいた。
七十隻の猛攻を、補給もままならない状態で六日間も耐え凌ぐなど、物理的に不可能だ。あの「見えざる壁」を持つ敵に対し、厳しい戦いを強いられることは目に見えている。
「砲雷長、何か他に、打つ手はないのですか」
僕の問いに、スザキ大尉は無言で首を振る。この切れ者の士官でさえ、策がないと見える。
重苦しい空気が詰所を支配した、その時だった。
『報告! 西の水平線上に、多数の艦影!』
「何だと!? おい、敵さんは北から来るはずだぞ! なんだってそっちからきやがるんだ!?」
サイゴウ伍長が叫ぶ。西から? まさか、バリャールヤナの別働隊が、我々の哨戒網をかいくぐり、迂回して側面から現れたというのか。
僕とサヨは顔を見合わせ、絶望的な気持ちで第二砲塔へと走ろうとした。
しかし、次に伝声管から響いた声は、恐怖ではなく、驚愕に満ちていた。
『軍艦旗を視認! 星と鷲の紋章、ウィストリア共和国の軍艦旗です!』
「なんだと、ウィストリアだって!?」
スザキ大尉が双眼鏡を掴んで甲板へ飛び出した。僕らもそれに続く。
西の水平線を見る。そこには、信じがたい光景が広がっていた。
巨大な、あまりにも巨大な船団が、黒煙を上げてこちらへ向かってきている。その数は百隻を下らないだろう。だが、驚くべきはその数ではない。一隻一隻の大きさが、我々の常識を遥かに超えていた。
「なんという巨大な船団だ……あれが輸送船団だというのか?」
通常の輸送船の三倍はあるだろう巨大な船体。それがまるで、壁のように押し寄せてくる。
しかしあと六日かかると言われていた船団が、なぜ今ここに?
「まさか、予定を早めたというのか? いや、もしかすると我々すらも欺き、敵に先手を取ったということか。しかし、あの巨体で巡洋艦並みの速度を出しているぞ。どういう仕組みの船なんだ」
スザキ大尉が唖然として呟く。ウィストリア共和国とは、わが皇国とは大洋を挟んだ東方の向こうにある工業大国と資源国で知られる。
彼らは我々の予想を遥かに超える速度で、この絶望的な戦場に駆けつけたのだ。
「すげえ……あんなデカい船、見たことねえぞ。まるで、島が動いてるみてえだ」
港中がどよめきに包まれる中、先頭を行く巨大な船が、ゆっくりと、しかし圧倒的な威圧感を持ってカルタエナ港の桟橋へと接岸した。
誰かの言葉通り、まさに動く島だ。
タラップが降ろされ、そこから降りてきたのは、カーキ色の軍服に身を包んだ大柄な男たちだった。
彼らは陽気な声で何やら叫びながら、次々と物資を降ろし始めた。
「待たせたな、東方の友軍たちよ、と言っております!」
通訳を介して伝えられたその言葉と共に、桟橋には山のような木箱が積み上げられていく。
それは弾薬に燃料、小銃、そして見たこともないパッケージに包まれた食料品が置かれている。
「これはパン、なのか?」
配給された物資の一つを手に取り、僕は目を丸くした。
それは、我々が知っている堅いパンではない。白く、ふわふわとしていて、焼きたてのような香ばしい匂いがする。
その横には「ベーコン」と呼ばれる加工肉があった。焼くとカリカリになり、滴る脂が食欲をそそる。
「柔らかい。なにこれ、すごく美味しい」
サヨがパンを一口かじり、目を輝かせた。
長引く航海と戦闘で、粗食に耐えてきた僕らにとって、それは王侯貴族の食事のように思えた。
「それにしても、こっちはなんだ? 真っ黒な水……醤油か?」
サイゴウ伍長が、ガラス瓶に入った黒い液体を透かして見ている。よくみれば、ラベルには横文字で『COLA』と書かれていた。
ウィストリア兵が、栓抜きで王冠をポンと開ける。シュワッという音と共に、白い泡が吹きこぼれた。
「炭酸……もしかして、メロンソーダやラムネと同じ飲み物?」
ソーダやラムネには目がないサヨのことだ、その黒い水に真っ先に目がいく。
そんなサヨを見たウィストリア兵が親指を立てて、「コーラ!」と言ってサヨに渡してくれた。
恐る恐る、その黒い炭酸水に口をつけるサヨ。次の瞬間、彼女は目を白黒させた。
「うっ! すごく刺激的! でも……なんだか甘くて、シュワシュワがきついかな」
「コーラ、と言うものらしい。ウィストリアじゃよく飲まれる飲料、と言ったところか」
スザキ大尉が、どこから仕入れた知識なのか、サヨにそう語る。
僕も一口、飲んでみた。口中に広がる炭酸。こんな刺激的なものを、よく思いついたものだと感心する。
僕とサヨは顔を見合わせた。パンの柔らかさ、美味い加工肉、そしてこの奇妙な黒い飲み物。
物資の量と質だけで、ウィストリアという国の底知れない国力を見せつけられた気がした。かつて我が国が、こんな国を仮想敵だなどとよく言えたものだ、と考えさせられる。
しかも、彼らが持ち込んだものは、食料ではなかった。
「おい、あれを見ろ!」
誰かが沖合を指差して叫んだ。
輸送船団の後方に、異様な形をした軍艦が数隻、停泊していた。それは明らかに軍艦であり、戦艦のような巨大な船体を持ちながら、あるべきはずのものがなかった。
「砲塔が……一つもない?」
僕が双眼鏡で確認する。主砲どころか、副砲も魚雷発射管もない。あるのは、艦首から艦尾まで続く、平らな甲板だけ。その端に、申し訳程度の艦橋が見え、さらに小銃がいくつか並んでいる。煙突すらも、端に追いやられていた。とても戦う船に見えないが、その上には確かに軍艦旗が旗めいている。あれが軍船であることは間違いなさそうだ。
その広大な甲板には、何やら小さく平たい機械のようなものがびっしりと並んでいる。一見すると、式神のような形をしている
「なんだあれは? あんな平らな船、あれが軍艦だというのか? まさか、大砲を積むのを忘れたんじゃないだろうな」
第一砲雷科の面々がざわつく中、ウィストリア軍の士官らしき男が、スザキ大尉と艦長のもとへきてこう告げた。
「イッツ、キャリア!」
「き、キャリア……?」
聞き慣れない言葉だ。さらに話を聞くと、あれは空を飛ぶ兵器を運ぶための艦だという。いや、何を言っているんだ。
その時、不意に唸り声が上がった。平らな艦の上から、爆音のような轟音が響き渡り始めたのだ。バラララッという音と共に、あの式神のような形の機械の先端の風車のようなものが、一斉に回り始めたのだ。
空気を切り裂くような、激しい回転音。甲板に並んでいたその「機械」の先端の風車が回りつつ、滑走を始めた。
「ちょっと待て、海に落ちるぞ!」
スザキ大尉が目を見開く。が、次の瞬間、僕とサヨは、自分の目を疑う光景を目撃した。
平らな甲板の上を滑走し始めたその機械は、その甲板の端に到達すると、飛び立ち始めた。
さらに、その後方からも猛烈な速度で走り抜け、次々と飛び立っていく。
ウォーンという音と共に、布製の羽のようなものを持つ鉄の塊が、我が戦艦「震洋」の真上を次々と通り過ぎていく。
「と、飛んだ! 鉄の機械が、どうして!?」
サヨが驚きの声を上げる。
一隻だけではない。次々とその「機械」――ウィストリア軍が「飛行機」と呼ぶもの――が、数隻の平らな甲板を持つ艦から空へと飛び立っていく。それはまるで、巨大な鉄のトンボの大群のようだった。
「あれはもしや、飛行機か?」
そういえば、雑誌で読んだことがある。羽を持ち、自ら風を起こして空を舞う機械が、海の向こうで発明された、と。その雑誌には「飛行機」と書かれていた。が、その雑誌では、わずかに五百メートルを飛翔しただけだと書かれていた。
が、今、真上にいるのは五百メートルどころではない。全長が二百メートルを超える震洋を飛び越えて、整然と並んでバリャールヤナ艦隊のいる方角へと飛び去って行った。僕はただ、呆然と空を見上げた。
空を飛ぶと言えば、偵察用の気球くらいしか知らなかった。巨体のわりには少人数しか乗れず、とても戦闘を行える代物ではない。
が、あれは違う。自らの力で空気を切り裂き、自由自在に空を翔けている。
「報告! バリャールヤナ艦隊、距離三万まで接近! まもなく停船する模様!」
観測員の報告が現実に引き戻す。そうだ、敵は目の前にいるのだ。まさしくいつものように、あの見えない壁を作ろうとしているところなのだろう。
我々も出撃しなければ……そう思って動こうとした時、ウィストリアの艦から光が放たれた。すると、あの無数の飛行機がバリャールヤナ艦隊に殺到する。
「信じられない光景だが、おそらくあれが電文にあった『新兵器』なのだろう」
「新兵器?」
「見ているといい。もしかすると、この先の戦争のやり方を変えるほどの威力を持つ新たな兵器かもしれないからな」
「いや、いくらなんでも、あの飛行機械が艦艇に勝てるわけが……」
僕のこの言葉は、空からの轟音にかき消された。
空を埋め尽くすほどの飛行機の編隊が、バリャールヤナ艦隊の方角へ向かって一直線に進んでいく。その数は、およそ二百と伝えられた。
まるでハチの大群のような羽音を響かせ、彼らは敵艦隊の上空へと殺到した。
「しかしあの高度から、どうやって攻撃するというのだ?」
バリャールヤナ艦隊も、未知の物体の接近に混乱しているようだった。
接近する「飛行機」に多数の小銃が放たれるが、当たる気配がない。我々同様、彼らもまた、空からの脅威など想定していないのだ。
そして、あの忌まわしい「見えざる壁」を展開しようとしているその時。
まさに艦隊が停止し、防御陣形を組み始めているその時に、あの無数の飛行機が雲霞のごとく群がった。
「ファイヤ!」
ウィストリアの指揮官が叫んだ。その言葉と同時に、上空の飛行機群が、急降下を開始する。
まるで獲物を狙う鷹のように、垂直に近い角度で敵艦へと突っ込んでいく。
「まさか、ぶつかる気か!?」
僕が叫んだ直後、飛行機の腹から黒い物体が切り離された。
なんだあれ、砲弾か? それとも、機雷か?
重力に引かれたその鉄の塊が、吸い込まれるように敵艦の甲板へと落下する。
ドォーンッという、海面が揺れるほどの爆発音が響き渡る。バリャールヤナの戦艦の甲板中央に命中した爆弾は、木製甲板を突き破り、艦内部で炸裂した。
何本もの巨大な火柱が上がり、黒煙が空を覆う。
「えっ、まさか、あんな小さな機械が戦艦を貫いたの?」
サヨが叫ぶ。だがそれは、一隻だけの話ではない。
次々と急降下する飛行機から放たれる爆弾が、動かない敵艦隊を蹂躙していく。
「見えざる壁」が展開されていれば防げたかもしれない。だが、それが展開されるよりも早く、真上からの奇襲で、バリャールヤナの艦艇が次々と炎上する。
さらに、別の飛行機が海面すれすれを飛び、今度は魚雷を投下する。
空からの爆撃と、海面からの雷撃。
それまで、戦闘艦が担ってきた攻撃と比べて、より接近して攻撃することで、はるかに高精度な攻撃を加えていくのが見える。
「これが……新しい戦争、なのか?」
僕は思わず呟いた。
これまで僕らが必死に、命を削って撃ち合ってきた砲撃戦が、まるで子供の喧嘩に見えるほどの、圧倒的な蹂躙劇。
射程距離も、陣形も、魔導砲の威力さえも関係ない。
空という一種の盲点を突き、それもかなりの高速で接近して一方的に海上の敵を叩きのめす。
バリャールヤナ艦隊七十隻は、もはやパニックに陥っている。
反撃の術もなく、ただ撃たれるがままで、逃げ惑う鉄の棺桶といった様相だ。
自慢の防御陣形を組む暇もなく、ただやられるだけの敵艦隊は、やがて蜘蛛の子を散らすように撤退を開始した。
すでに十隻以上が炎上し、航行不能になっている。
「信じられん。あの大艦隊が、わずか三十分で潰走状態だと?」
スザキ大尉が、驚愕した言葉を漏らす。それは、味方の勝利を喜ぶというよりは、自分たちの存在意義を問うような、虚無的な響きをも含んでいた。
戦艦の持つ巨砲が、海の王者だった時代が終わったことを、この頭の切れる士官はいち早く実感していた。
『追撃戦だ、一隻でも多く叩くぞ!』
伝声管越しに、艦長が叫ぶ。その号令を受けて、我が震洋は発進する。
呆けている場合ではない。敵は我々に背を向け、敗走している。とどめを刺すのは、やはり我々の役目だ。
「震洋」が全速で敵を追いかけ、大海原を進む。攻撃を終えたウィストリアの新兵器らが、まさに我々と逆向きに引き返してくる。
「サヨ、行けるか?」
第二砲塔の中で、僕はサヨに声をかけた。
「うん、大丈夫。今度はこっちの番だよね」
あの飛行機による攻撃を見て、サヨの心に火がついたようだ。
自分の魔導砲こそが最強だと信じて戦ってきた誇りもある。意表をつかれた敵ならば、あの壁を懸念する必要はない。
ところで、あの飛行機とやらは一体、どうやってあの艦に戻るのだろう? かなり速度が出ている。そのまま降り立てば、滑って海に落ちるのではないか?
と思ったが、どういうわけか甲板の上で、まるで何かに引っかかったかのように止まり、次々と回収されていく。何やら、仕掛けがあるようだ。
と思っていると、我々は敵を間近に捉えていた。
「距離、一万! 前方に、敵艦隊多数!」
「魔導砲、用意!」
サヨが、祝詞を唱える。砲塔上面では、舞姫たちが舞を舞っている。
「八百万の神々、手負いの船たちに、畏怖の念を植え付けたまえ! 清めたまえ!」
ドーンと音を立てて、三連装の魔導砲が光を放つ。申し訳ないが、あの飛行機ではこの暴虐的な力を引き出すことはできない。それはまさに逃げる敵の艦艇数隻を貫く。
派手な爆発音と共に、猛烈な炎を上げて数隻の敵艦があっという間に航行不能に陥る。
第二射を用意する。と、その前にラムネを飲まなくてはならない。下がった血糖値を無理やり跳ね上げるあの飲み物を探すサヨは、ふと気づく。
「あ、あれ? ラムネがない!?」
そうだ、しまった。前回の戦闘で飲み尽くしてしまったのを、すっかり忘れていた。
補給物資の中にラムネがあったが、それを取りに行っている暇はない。
が、そこにはさっき、ウィストリア兵から貰った例の黒い飲み物があった。
「サヨ、これじゃダメか?」
僕は、栓が開いたままの「コーラ」の瓶を差し出した。
「ええっ!? どうかな、でも、これしかないよね」
「ラムネと同様、甘いんだろ? なら同じ効果はあるはずだ!」
「そ、そうだよね」
贅沢は言ってられない。サヨは、その黒い液体を一気に飲み干した。
「んんっ……!」
喉をごくりと鳴らす。その瞬間、サヨの目がカッと見開かれる。
「な、なにこれ……」
「どうした、まずいか?」
「ううん、違うの……なんだか、いつもより力が湧いてくるというか、そんな感じなの」
「はぁ? なんで」
「そんなこと言われても……」
サヨは全身から、かつてないほどの濃密な魔力が噴き出すのを感じるらしい。あの黒いコーラとかいう飲み物、ただの炭酸飲料ではないな。
そのコーラのおかげか、宝玉がいつもより激しく光り始める。
「すごい……魔力が、無理やり引きずり出される感じがする」
コーラに含まれる大量の糖分と未知の成分、未知の香料が、魔女の代謝を一気に活性化させたようだ。
サヨの肌が紅潮し、瞳が妖しく輝く。そして、第二射目がまさに放たれようとしていた。サヨの祝詞が高らかに響く。
「八百万の神々よ! 迷走する敵を討ち払いたまえ! 清めたまえ!」
いつもの祝詞とは違う、どこか荒々しさを感じる叫びと共に、サヨが宝玉を握り潰さんばかりに力を込めた。
三連装砲から、光が放たれる。心なしか、いつもの光よりも強く感じる。
「サヨ、力、強すぎる!」
気のせい、というわけではなさそうだ。それを操るアーティすらも、いつもと違う魔力を感じており、その制御に四苦八苦しているようだ。
その光は空気を焦がし、海面を割りながら、逃走するバリャールヤナ艦隊後方へと突き刺さった。
一隻、二隻、いや十隻ほどか。
射線上に並んでいたネヴィルィーム級戦艦と巡洋艦、駆逐艦数隻が、一瞬にして爆発炎上した。先程までとは、明らかに異なる力だ。
「……すごい」
放った本人であるサヨが、呆然と呟く。その威力は、これまでの魔導砲をはるかに凌駕していたのは間違いない。
「十隻抜きか……コーラの威力、恐るべしだな」
僕は冷や汗を拭った。敵艦隊は、空からの爆撃と、背後からの悪魔的な砲撃に挟まれ、完全に戦意を喪失していた。
もはや戦闘ではない。一方的な掃討戦の様相だ。
こうして、戦いはあっけなく終わった。無数の新兵器と、コーラに強化されたサヨの魔導砲によって、七十の敵はその三分の一以上を失って撤退した。
夕焼けに染まるカルタエナ港へ戻る「震洋」の甲板で、僕はキャリア、我々の言葉で「航空母艦」と呼称されるあの船を眺めていた。
「ねえ、タクヤ」
隣で、サヨが空になったコーラの瓶を透かして見ている。
「この飲み物、すごいね。ラムネよりずっと刺激的で、強引で……飲むと、なんだか力が溢れてくる」
「ああ、やはりウィストリアの飲み物は、ただものじゃないようだな」
圧倒的な物量。常識を覆す新兵器。そして、魔女の力さえも増幅させてしまう未知の飲料。
彼らは味方だ。今は、心強い味方だ。
だが、その力はあまりにも強大で、異質だ。もしもこの国が、敵に回っていたなら……思わず背筋が寒くなった。
バリャールヤナという悪魔を倒すために、我々はさらに恐ろしい巨人と握手をしてしまったようだ。
空を埋め尽くすあの鉄トンボと、サヨを変えてしまった黒い水を見ながら、僕は言い知れぬ恐怖を感じていた。
「とりあえず……今は勝ったことを喜ぼうか」
「うん。でも私、やっぱりラムネの方が好きかな。これはちょっと、強すぎるよ」
サヨは苦笑いをして、空き瓶をそっと木箱に戻した。その横顔からは、勝利の安堵よりも、急速に変わりゆく時代への迷いが感じられた。
港に着くと、そこには援助物資の山と、そして停泊する平らな船の上に並ぶ、多数の最新鋭の翼が見える。
負ける気がしない。ウィストリアの参戦は、この戦争を終わらせるだろう。
だが、その矛先が、今度は僕らに向くのではないか。
水平線に沈む太陽は、何も答えず、ただ赤く海を染め上げていた。




