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三連装砲の魔女  作者: ディープタイピング
第二部 戦線拡大編
28/39

#28 発現

 不吉な予感は、すぐに現実のものとなった。

 バリャールヤナ艦隊との海戦から数日後。逃走した残存艦艇三十隻が、スラヴィア共和国の植民地の一つである「バハナ王国」を攻撃しているという急報が入ったのだ。

 バハナは、スズやニッケルといった貴重な鉱物資源を産出する島だ。敵は手負いのまま帰投せず、腹いせのように無防備な植民地を襲ったことになる。


「バリャールヤナ、ディスピケブル バスタード(卑劣なバリャールヤナめ)!」


 スラヴィア第七艦隊の司令官、ネイルソン中将は激怒する。無論、即座に出撃を決定した。我々、第二艦隊も彼らに続くことを決定する。

 問題は、シンドゥの魔女たちだ。

 今回も、彼女らはついてこないものだと諦めていた。が、予想外なことに、アーティが彼女らを説得し、今回は出撃することとなった。


「えっ、ほんと!?」

「我ら、バリャールヤナ、叩く。奴ら、我らの、やっと手に入れた独立、奪おうとしている。だから、戦う」


 心強い一言だ。サヨは思わず涙ぐむ。僕はそんなサヨの肩を握る。それを見たアーティが、こう叫ぶ。


「泣く暇、ない! 泣く時、それは、奴ら、倒した時!」


 ああ、アーティの言う通りだ。今はまだ、始まりに過ぎない。これからが、本当の戦いだ。

 戦いが終わってから、感情を表すべきだろう。今は心を一つに、すなわち、敵艦隊を撃滅することに全てを集中するべき時だ。


『進路そのまま、両舷前進半速!』


 艦長の号令が、伝声管越しに響いてくる。その頃、第二砲塔ではちょっとした騒ぎになっていた。

 シンドゥの舞姫(マハラニ)たちが、替わる替わる、砲塔内に入ってくるからだ。


「ヤー、メリィ ソウバハ バダハイ!」

「アーシィ ジャガハ パー アイサハマラァ……」


 好奇心丸出しな彼女らは口々に何かを話しているが、何を言っているのかまでは分からない。ただ、あまりあちこちを触らないで欲しいなぁ。特に、サヨの寝床のあたりは。


「ああっ! ダメだよそこは!」

「ヤハ カマール ハイ……ケィタナ、シャラァーラティ……」


 なんとまあ、寝床の下に隠してあった下着を見つけられてしまった。あれは、僕と共に夜を過ごす時にだけ付けるやつで、見た目がなんとも刺激的だ。

 褐色の肌を晒す彼女らが見ても赤面するほどのそれを見られ、両手で顔を覆い座り込むサヨだが、彼女らは容赦しない。ニヤニヤと、僕とサヨを見ては何やらやましいことを考えているに違いない。まあ、否定はしないが。

 そんな日々を、三日もの間、過ごす羽目になる。やがて、目的地であるバハナの西方約百七十キロの地点まで達した。

 そんな場所に、敵艦隊が現れたのだ。おかしいな、バハナ王国を占拠しようとしていたのではないのか? なぜ、こんな場所に現れる。いずれにせよ、敵は三十隻。我々はスラヴィア第七艦隊が二十四隻、我が艦隊もこのところの連戦で数を減らしたとはいえ、十四隻いる。

 数の上でも、練度でも不利な奴らは、何もない海上に突如現れたのだ。攻撃しないてはない。

 が、少し妙な気がする。

 さらに接近すると、そこには異様な光景が広がっていた。

 バリャールヤナ艦隊は、その島影すらない広い海上に展開していたが、その動きがおかしい。まさに敵艦隊は、単縦陣を敷いたまま停船していたのだ。


『敵艦隊、単縦陣のまま停船しています!』


 観測員の報告に、艦橋がざわめく。


「停船だと? 故障でも起こしたのか」


 第二砲塔の上で、スザキ大尉がそう呟きながら双眼鏡を覗く。確かにそこには三十隻の艦艇が、まるで壁を作るように微動だにせず、一列に並んでいる。通常、海戦において足を止めることは死を意味する。標的になってくれと言っているようなものだ。


「まさか、誘っているのか……?」


 スザキ大尉が呟く。だが、スラヴィア艦隊は止まらない。好機とばかりに、突撃を開始する。


『砲雷長! 砲撃用意よし!』

『撃ち方、待て。何かがおかしい』


 スザキ大尉は慎重だった。だが、スラヴィア艦隊が砲撃を開始しても、敵は反撃こそすれ、動こうとしない。

 何かが、おかしい。

 と思った、その直後だ。観測員から信じがたい報告が入る。


『スラヴィア艦隊の砲弾、命中……いえ、敵艦に損害なし!』


 距離があるとはいえ、オライオン級を含む二十四隻もの砲撃だ。しかも、世界的に見ても高練度な砲兵たちによる一斉砲撃。少なくとも、無傷では済まないはず。

 だが、敵は全く無傷だというのだ。

 続けて、第二射、第三射が撃ち込まれる。が、結果は同じだ。

 四撃ほど加えたところで、スラヴィア艦隊は一旦、距離を置き始めた。


「アーティよ、あれを、どう思う?」


 僕は第二砲塔の上にいるアーティに尋ねた。怪訝な顔で、アーティは答える。


「何か、ある。我ら、壁の魔導、同じような、仕組みが」

「同じような仕組み? だが待て、バリャールヤナ艦隊には魔女はいないはずだぞ」

「だが、見える。反射の、壁。だが、魔導のそれ、と、少し違う。その仕掛け、分からない」


 どうやら、アーティが以前使ったあの魔導と同じようなものが、あの場所に展開されているのだろう。通常弾が効かないのはそのためだ。

 と、いうことはだ。当然、魔導砲といえども……

 が、その時、スザキ大尉が叫んだ。


『艦長、接近し、魔導砲による一斉砲撃を加えるよう進言いたします! 一点を集中砲火すれば、あれを突破できるかもしれません!』


 それを聞いた艦長は、即座に命じる。


『全艦、全速前進! 敵艦隊に肉薄し、距離七千まで迫る!』


 艦長の号令と同時に、第二艦隊が前進を開始した。単縦陣で、ちょうどスラヴィア第七艦隊の後方から内側に入るように迫る。


『第二砲塔、魔導砲の発射準備となせ』


 そこに、砲雷長の命令が入る。


「了解! サヨ、砲撃準備だ」

「うん!」



 サヨは宝玉を握りしめる。猛烈な勢いで迫る第二艦隊は、バリャールヤナ艦隊のおよそ八千まで迫っていた。

 接近戦だ、当然だが、シンドゥの魔女たちの力はなくとも当てられる距離だ。


「全員、伏せろ! まもなく発射する!」


 僕は砲塔上部に控えるシンドゥの魔女たちにそう叫んだ。アーティが僕の言葉を翻訳し、他の二十九人に伝える。

 やがて、距離七千まで迫った。


『敵艦隊中央、ネヴィリーム級に照準! 合図とともに、魔導砲、一斉砲撃』


 艦長からの命令が伝声管より入る。宝玉を握りしめたまま、サヨはその合図を待つ。僕は艦長の命令通り砲塔を回転させ、敵艦隊中央にいるネヴィルィーム級に狙いを定めた。


『今だ、一斉砲撃!』


 その艦長の合図が入る。と同時に、サヨは祝詞を唱え始めた。


「八百万の神々よ、邪悪なる障壁を打ち砕きたまえ! 清めたまえ!」


 宝玉が光り、三連装砲から放たれた青白い閃光が一直線に敵艦隊へ向かう。同時に、他艦からも一斉に魔導砲の光が放たれた。それが、一隻の敵艦目掛けて吸い込まれるように向かう。誰もが、あの壁の突破を確信した。

 が、無情にも、その希望は打ち砕かれた。


『弾着! なれども、敵艦未だ健在!』


 なんということだ。この第二砲塔だけではない、第二艦隊全体に動揺が走る。魔導砲の一斉砲撃すらも弾き返すほどの壁だったとは、なんという仕掛けか。

 つまりこれが、あの巫女の予言の正体か。バリャールヤナの「秘策」とは、この見えざる障壁のことだった。

 と、その直後だ。


『敵、一斉砲撃来ます!』


 動かない敵艦隊から、猛烈な砲火が放たれた。それまで沈黙を守り続けてきた敵が、いきなり撃ってきた。


『回避運動、取り舵七度!』


 航海長の声が聞こえてくる。その十数秒後に、一斉に水柱が立つ。流石に動いている相手に初弾から当てられるほどの練度は、バリャールヤナ海軍にはない。が、そんなバリャールヤナ艦隊は、あれほどの防壁を見せつけながらも、全速で退却していく。


「くそっ、魔導砲が通じないなんて!」


 我々の持つ最強の矛が封じられた。敵はそれを知っていて、あえて足を止め、我々をおびき寄せたのだ。挙げ句の果てに、悠々と逃げ出していく。

 が、その時、サヨが僕の袖を引いた。


「タクヤ。アーティたちに、『魔導の道』を使うよう、頼んで」

「え? 舞姫(マハラニ)たちに、例のあれを?」

「うん。今なら当てられる気がする」


 何を言っているんだ。ついさっき、魔導砲の一点突破を弾かれたばかりじゃないか。僕は反論する。


「サヨ、さっきこちらの魔導砲を弾かれたばかりじゃないか。それに、敵も既に距離一万まで離れているし、ここで無理に長距離射撃をしたところで……」

「いや、あの壁、もしかしたら消えたのかもしれない。いや、間違いなく消えたはず」


 そう、サヨは答える。不思議なことを言うやつだ。僕は尋ねる。


「どうして、魔導砲が当たると?」

「あの壁があったから、敵は撃たなかった、いや撃てなかったんじゃないかな。だって、通常弾どころか、魔導砲すらも跳ね返す壁は、味方の弾ですら跳ね返すはずだよ。ところが今、敵は急に砲撃を開始してきた。もしかしたら、魔導砲による一斉砲撃で、壁の効果が切れてしまったんじゃないかな。であれば、今ならこちらからの攻撃も通るはず。だから、二発目をなんとかして当ててやりたい」


 サヨの確信に満ちた表情を見て、僕はハッとした。言われてみればあの壁、敵の弾も味方の弾も関係ないはずだ。敵の弾がこちらに届くと言うことは、その逆もありうる。そう考えた僕は、スザキ大尉に進言する。


「砲雷長! 舞姫(マハラニ)と連携した長距離魔導砲攻撃を具申いたします! 敵の弾が届くのですから、こちらの魔導砲も届くはずです!」


 その意図を、一瞬で理解したのだろう。


『言われてみればそうだな。魔導砲、発射準備!』

「はっ!」

『第一、第三砲塔も、射撃用意! 追撃戦に入る!』

「アーティ! 魔導の道を作ってほしい! 第二射を加える!」


 僕はすぐに砲塔上部にいるアーティたちを呼ぶ。三十人の褐色の魔女たちが、第二砲塔上部で立ち上がる。


「サヨ、第二射、いけるか?」


 サヨがラムネを片手に、ニヤリと笑う。


「当たり前じゃない。アーティが、力を貸してくれるなら、逃げる敵艦隊に、私の魔導砲を届けられるわ」


 それを砲塔上部の扉口から聞いていたアーティが答える。


「サヨ、我ら、導く!」


 再び、あの褐色の舞姫たちが、舞を舞い始めた。サヨが宝玉を握りしめる。


『目標、敵艦隊後方、ネヴィリーム級戦艦!』


 スザキ大尉が命じる。距離は既に一万三千まで開いていた。この距離は、普通なら魔導砲は届かない。だが、シンドゥの魔女たちがいれば、この程度の距離でも当てられる。

 と同時に、アーティが何かを唱えはじめた。


「ナーナ、タラ、ヤン……」


 舞姫(マハラニ)たちの詠唱と舞が、高まる。サヨも、祝詞を唱えた。


「八百万の神々よ、今こそ壁を失いし悪の使いに、償いの光を届けたまえ! 清めたまえ!」


 これが三度目となる、長距離魔導砲撃。琥珀色の光を纏った青い閃光が、海を越えてまっすぐと敵の戦艦へと向かっていく。

 僕は固唾を飲んで、照準器を見つめた。もし、あの壁が少しでも生きていれば、その弾道が弾かれるかもしれない。

 が、それは杞憂だった。光は何物にも遮られることなく進み、逃走するネヴィリーム級戦艦の背中に突き刺さった。

 強烈な閃光が、敵戦艦を真っ赤な溶けた鉄に変える。すぐに弾薬庫にその火が回ったのか、誘爆して巨大な火柱が上がり、巨体が粉々に吹き飛ぶ。

 溶けた鉄が、前後にいる敵の僚艦にも降り注ぎ、やがて煙を上げはじめた。こうなると、砲撃どころではない。そのうちの後方の巡洋艦一隻は、溶けて砕け散った敵戦艦の炎の真ん中に突っ込んでいく。

 そこに、こちらの砲撃を見て、砲撃を再開したスラヴィア艦隊からの一斉砲撃が浴びせられる。たちまちのうちに、巡洋艦は砲弾の雨を受けてその燃え盛る鉄の塊の中で沈んでいく。

 先頭の十八隻ほどがなんとか逃げられたものの、その後方十二隻はその後、スラヴィア・皇国合同艦隊による砲撃で海の藻屑と化した。


「やったぁ!」

「ヴァーディ!」


 サヨと三十人の魔女たちが、歓声を上げる。そして、砲塔の真上で互いに抱き合った。


「やっぱり、読み通りだった」


 僕は燃え上がる敵艦を見ながら、しかし戦慄していた。

 サヨの読みは正しかった。あの「見えざる壁」は、強力無比だが、弱点があったのだ。

 おそらく、あの防御陣形――停止して密集した状態――でなければ展開できない代物なのだろう。おそらくだが、移動しながらでは使えない。だから前回、どうにか誘い込もうとしてたのだろう。

 だから、奴らは止まっていたのだ。我々を誘い込み、魔導砲を無効化するために。

 しかし、だ。魔導砲の一斉砲撃でようやくその壁を打ち砕いた。

 だが、あれを大規模に使われたなら、どう対処すべきか。いや、それ以前に、もっと大きな問題がある。

 どうして、魔女のいないバリャールヤナが、あれほどの力を手に入れたのだ?

 使われ方によっては、強力な武器だ。防御だけとはいえ、敵が絶対に攻められたくない場所に使われたら、手も足も出ない。


「タクヤ、どうしたの?」


 考え込む僕を見て、サヨが心配そうに覗き込む。


「あ、いや……勝つには勝ったけど、敵の底知れなさを感じてね」


 その後、僕はスザキ大尉に呼ばれる。


「先の、あの敵の魔導砲防御だが、事前準備と停止状態を必要とする『設置型』の結界のようなものだと考えるべきだな。が、これは厄介な仕掛けだぞ」


 スザキ大尉も僕と同じことを考えていた。それはそうだろうな。戦い方を、根本的に変えなくてはならない。


「今後、どう対処すべきなのでしょう?」

「分からんな。状況に応じて、対処するしかあるまい。ともかく、ああいう兵器を敵が持ったと言うことを肝に銘じておこう。……しかし奴らめ、どうやってあんなものを開発できたというのか?」


 戦いは終わった。だが、バリャールヤナが開発した「対魔導砲兵器」の存在は、これからの戦いが、単なる力押しでは勝てない、より高度な情報戦と駆け引きになることを示唆していた。

 遠くの海で燃え尽きる敵艦の炎は、まるで僕らの前途を不気味に照らしているようだった。

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