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三連装砲の魔女  作者: ディープタイピング
第二部 戦線拡大編
23/39

#23 救出戦

「暑い……それに、なんて湿気だ」


 甲板に出た瞬間、僕は思わず軍帽で顔を仰いだ。南方の鳴鷲島も暑かったが、ここは別格だ。肌にまとわりつくような濃密な湿気と、むせ返るような緑の匂い。

 ここは、西方の大陸にあるシンドゥ大公国。その南端に位置する、密林に覆われた隠れ港だった。

 我々第二艦隊は、はるばる海を越え、ついにこの地に投錨した。目的は、シンドゥ独立派が保護しているという三十人の「舞姫(マハラニ)」――すなわち、シンドゥの魔女たちを救出することだ。


「ここが、シンドゥ……」


 僕の隣で、サヨが手すりに掴まりながら、深い緑に覆われた岸辺を見つめている。


「大丈夫か、サヨ」


「ううん、平気。ただ、ここの空気が……重いの」

「重い?」

「魔力的なものが、よどんでいるというか、そんな感じの空気なの」


 サヨは鋭敏だ。この密林の吐き出す湿った空気を特別な気配として感じ取っているのだろう。僕はそう思っていた。


『内火艇、戻ります! シンドゥの魔女、三十人を救助せり!』


 見張り員の報告と共に、ジャングルに偽装された桟橋から、数隻の内火艇がこちらへ向かってくるのが見えた。


「来たぞ。異国の、三十人の魔女たちだ」


 スザキ大尉――いや、今は砲雷長として指揮を執る彼が、僕らの後ろに立った。考えてみれば我々は、異国の魔女と対面するのは初めてのことだ。

 魔女同士、一度は砲火を交えはしたものの、対面はしていない。が、この地上では珍しく魔女が生き残っている国に赴き、そんな彼女らを救助する羽目になるとは、ついひと月前までは考えもしなかったことだ。

 そんな、我が国以外の魔女が、まさに我が戦艦「震洋」にたどり着こうとしていた。


「トウゴウ伍長、カンザキ上等兵。貴官らは直ちに第二砲塔へ戻り、不測の事態に備えろ。彼女たちを収容し次第、直ちに出港する」

「まさか、敵が来るのですか?」

「分からん。が、スラヴィア軍がこの界隈の海上封鎖を強めているという情報もある。遭遇戦は覚悟しておいたほうがいいだろう」


 スザキ大尉の勘は、恐ろしいほどによく当たる。前砲雷長のスパイ行為を見抜いた上に、それをまんまと利用するほどの頭の切れの良さだ。敵襲が来ると考えておいて、間違いはないだろうな。そう思った僕はサヨを促し、第二砲塔へと向かおうとした。


 と、その時だ。


 タラップを登り、甲板に降り立ったシンドゥの女性たち。その一団が、異彩を放っていた。


 彼女たちは、帝国で見かける着物や洋服とも、南方で見かけた現地の服とも違う、鮮やかな布を身に纏っていた。だが、その布は泥や煤で汚れ、彼女たちが過酷な逃避行を続けてきたことを物語っていた。

 その先頭に立つ一人の女性が、僕らの前で足を止めた。


 切れ長の瞳に、意志の強さを宿した女性だ。褐色の肌に、額には赤い印。その手には、なぜか麻袋のようなものを握りしめている。


 彼女は僕と、そしてサヨを見ると、何かを探るような視線を向けた。


「お前、噂の……三連装、魔女か?」


 片言でたどたどしくはあるが、それは皇国語だった。いきなり異国人の魔女が、我々の言葉で話しかけてきた。その違和感は、僕でさえも不気味に感じたほどだ。ましてや人見知りの激しいサヨのことだ、当然、驚愕のあまり僕の背後に隠れようとする。が、思い直し、僕の腕をつかんだまま前へと進み出た。


「は、はい。カンザキ・サヨです」


「私、アーティ。シンドゥの同胞、導く者」


アーティと名乗ったその女性は、サヨの目をじっと見つめ、そしてニカッと笑った。


「噂と、違う。お前、小さい。大柄な者と、思ったぞ」


 その豪快な笑みに、サヨがポカンとしていると、突如として艦内にサイレン音が鳴り響いた。と同時に、伝声管から観測員の叫び声が響く。


『敵艦見ゆ! 湾口に艦影多数! 数、二十!』

「なんだと!? 軍艦旗は!」

『スラヴィア共和国海軍旗に、相違ありません! 敵の艦隊です! ウォーリア級戦艦が五! スコーピオン級駆逐艦十五!』


 僕は思わず海の方角を振り向いた。密林に遮られて見えなかったが、この入江の出口にあたる湾口から、黒煙を吐きながら次々と艦艇が侵入してくるのが見えた。


『敵艦隊、湾入り口を閉鎖しつつあり、すでに砲撃の兆しあり!』

「くそっ、やはり待ち伏せしていたか」

『総員、砲撃戦用意! 敵艦隊右翼に集中砲火、一点突破を図る!』


 艦長のこの号令に、甲板上が騒然となる。スザキ大尉の懸念が的中した。敵は我々がここに来ることを予測し、湾の出口を塞ぐようにいつの間にか展開していたのだ。


『機関始動、錨上げ、出港用意!』


 艦長の怒号が伝声管から響く。


「サヨ、行くぞ! 第二砲塔へ!」


「うん!」


 僕らは駆け出した。だが、アーティたちシンドゥの魔女たちは、避難しようとしない。


「おい、貴殿らも早く中へ! ここは戦場になるぞ!」


 僕が叫ぶと、アーティは首を横に振った。


「逃げる必要、ない。我らも戦う」

「おい、戦うって……どうやって!?」

「見るが、いい。シンドゥの、『魔力(マナ)』を」


 アーティは仲間の魔女たちに何かを叫んだ。それは独特の響きを持つ言語だったが、彼女たちは一斉に頷くと、肩に抱えていた麻袋を開けた。

 中から出てきたのは、黄金色の粉末や、赤黒い木の実のようなもの――このつんと来る臭い、間違いない、あれは香辛料だ。


「香辛料……?」


 サヨが不思議そうに呟く。が、彼女たちは構わず、甲板の隅に積まれていた荷揚げ用の網縄や古びたロープに駆け寄ると、その香辛料を猛烈な勢いで塗り込み始めた。


「ナーナ、タラ、ヤン!」


 独特のリズムで呪文のような言葉を唱えながら、彼女たちは香辛料まみれになった網縄を手に取る。すると、ただの薄汚れたロープが、淡い琥珀色の光を帯び始めた。


「まさか、魔力(マナ)を……あの縄に塗り付けた香辛料に定着させているのか?」


 僕は思わずつぶやく。が、そんな中、ついに敵の砲撃が始まる。


『敵艦隊、発砲!』


 ズン、ズンと腹に響く音が遠くから聞こえ、次の瞬間、ヒューッという砲弾の飛翔音が空気を切り裂く。

 敵は旧式の戦艦や駆逐艦ばかりだ。が、数は二十隻。おまけに、旧式艦ゆえに小回りが利く。狭い湾内で身動きの取れない我が艦は、彼らにとって格好の的だ。


「危ない!」


 僕はサヨを庇い、第二砲塔の中へと駆け込む。が、まだ外には、三十人の異国の魔女たちがいる。


「何している! 艦橋へ、走れ!」


 僕は手招きしつつ叫ぶ。が、アーティたちは思わぬ動きを見せる。彼女たちは光る網縄を抱え、戦艦震洋の左舷――敵艦隊に面した側の手すりに、一斉にそれを広げたのだ。それはまるで、漁師が網を打つように。


「イセ、ヴァ―パス、チュアレン」


 アーティの叫びと共に、網縄が強烈な琥珀色の光を放つ。と、その時、敵の砲弾の一発が、我が艦の左舷に命中する。

 一斉に、爆炎が上がる。が、様子がおかしい。

 僕らの目に映ったのは、信じがたい光景だった。

 それは砲弾が、まるで目に見えない壁に当たったかのように、弾き返されたのだ。網縄の隙間から漏れる光が、網状の布の合間に張られたしゃぼん膜のような障壁を作り出していた。

 いとも簡単に、砲弾が弾き飛ばされた。その光景に、サヨも僕も唖然とする。


「嘘……弾いた、の?」

「これ、我らが、魔力(マナ)!」


 アーティが額の汗を拭いながら、不敵に笑う。


「コショウ、ナツメグ、ターメリック、カルダモン、辛味の元は、大地の力、宿る。魔力(マナ)で、練り上げれば、弾丸など、無意味!」

「えっ、なにそれ、すごい……」


 サヨが感嘆の声を漏らす。だが、感心している場合ではない。敵の第二射、第三射が迫ってくる。


『第二砲塔、砲撃用意! これより、敵旗艦に接近し砲撃する!』


 伝声管越しに、スザキ大尉からの命令が飛ぶ。僕らは慌てて砲塔内に飛び込んだ。


「距離測定! 敵艦隊まで、およそ一万五千!」


 僕が照準器を覗き込みながら叫ぶ。


「一万五千か……」


 サヨがため息を吐きながら、こう答える。


「まだ倍以上、離れてるよ。それまでこの(ふね)、もつの?」

「今までだって、似たような戦いをやってきただろう」

「だけどさ、こんな動きにくいところでの戦いなんて……」


 通常の艦砲射撃なら届く距離だ。しかし、魔導砲は魔力を光に変えて放つ兵器。大気中の減衰が激しく、七千メートルを超えると威力が拡散してしまう。


『第一、第三砲塔、交互撃ち方、効力射! 敵に隙を与えるな!』


 伝声管からスザキ大尉の焦った声が響く。外では、砲撃音が鳴り響く。

 そういえば、あの三十人の魔女たちはどこに行ったんだ? 先ほどまで甲板にいたが、さすがに砲撃戦が激しくなり、甲板から姿を消した。

 やれやれ、艦橋内に潜り込んだか。とおもいきや、思わぬ場所に彼女らはいた。

 そう、この第二砲塔の真上に、彼女らが立っている。


「お、おい! 砲塔の真上で、何をしている!?」


 ぼくは異国の魔女たちに叫ぶ。が、アーティという魔女が僕に向かってこう返す。


「撃て!」


 砲塔の分厚い装甲の上で、アーティが叫ぶ。


「おい、異国の魔女、この砲は射程七千メートル、敵はその倍以上先にいるんだ! 撃ったところで当たらない!」


 僕はそう告げたが、アーティはサヨを指差し、こう返答する。


「我らの力、お前の魔力(マナ)、導く」

「えっ?」

「我ら、三十人。お前の、魔力(マナ)の、『道』作る」


「道……?」


「お前の、魔力(マナ)、遠くへ、届ける」


 アーティには確信があるようだ。が、いきなり倍以上離れた敵に、発射数の制限がある魔導砲を放てというのは、いくら何でも無茶過ぎる。

 が、サヨは一瞬、僕の方を見た。そして、こう告げる。


「やってみる。あの魔女たち、さっきは砲弾を跳ね返してみせた。今度も多分、裏打ちされた何かがあると思うの」

「いや、だけど……」

「このまま手をこまねいていると、射程距離に迫る前に損害が出ちゃう。もう、あの魔女たちを信じるしかない。そう思ったの」

「……それは、魔女、いや巫女としての、勘か?」

「そう」


 サヨは覚悟を決めたようだ。僕は伝声管でスザキ大尉に呼びかける。


「砲雷長、トウゴウ伍長、意見具申!」


 いきなり僕から意見具申を求められたスザキ大尉の返答は、すぐにくる。


『具申許可! なんだ!』

「魔導砲の発射許可をいただきたいのです」

『おい、まだ一万五千だぞ! 射程外だ』

「シンドゥの魔女たちが、その射程外砲撃を当てるというのです」

『はぁ? おい、射程外と言っても、倍以上離れているぞ』

「ですが、砲雷長。先ほどからこの艦は敵の砲火を避けるのに精いっぱいで、接近できておりません。一か八か、異国の魔女を信じるしかないと愚考いたします」


 根拠はない。あるのは、サヨの勘と、アーティをはじめとする異国の魔女たちの自信のみだ。しばらく沈黙が続くが、スザキ大尉がこう返答する。


『わかった、砲撃を許可する。ただし、一撃のみだ。二発目以降は、その結果次第で決める』

「了解しました! では第二砲塔、砲撃準備に入ります」


 それを聞いたサヨは、宝玉を両手で包み込んだ。そして、こう叫ぶ。


「撃つよ、アーティ!」


 それを聞いたアーティはうなずく。仲間に声をかけ、全員、一斉に両手を挙げる。

 すると砲塔上にいる残りの二十九人の魔女たちが、一斉に何かを唱え始めたのが聞こえた。それは、まるで大合唱のような、あるいは大地の祈りのような響きだった。

 それに呼応して、サヨが祝詞を唱え始める。


「八百万の神々、我が前に立ち塞がる壁を穿ち、遥か彼方へ光を届けたまえ! 清めたまえ!」


 宝玉が白く輝き、サヨの身体から膨大な魔力が溢れ出す。


「てーっ!」


 僕の号令と共に、サヨが魔力を解放した。猛烈な砲撃音と共に、三連装の砲身から青白い三本の閃光が迸る。

 通常なら、この光は七千メートル付近で、霧散するはずだった。

 が、その七千メートルを超えてもまだ、まっすぐ光は突き進む。

 砲塔上のシンドゥの魔女たちが、その光に合わせて両手を掲げ、踊るように体を揺らす。すると、彼女たちから立ち昇る琥珀色の光が、サヨの青い光に絡みついた。


 まるで、茶色の光の縄が青白い光にまとわりついたかのように包み込み、それを遠くへと運んでいくようだ。


 魔導砲のエネルギーは、三十人の魔女たちの意思によって束ねられ、一直線に伸びていく。


「まさか、本当に射程外にまで飛ばすの?」


 サヨがつぶやく。

 光は海面を焼き焦がしながら伸び続け、一万メートルを超えもなおその先へと飛翔する。

 そして、一万五千メートル先に鎮座する、大将旗を掲げたスラヴィア艦隊の旗艦に突き刺さった。

 次の瞬間、水平線の彼方で太陽が生まれたかのような巨大な爆発が起きた。


『敵旗艦、轟沈! 魔導砲、命中!』


 観測員の裏返った声が響く。


「うそ……本当に、届いた……」


サヨがへなへなと座り込む。だが、まだ終わりではない。


「休んでいる暇、ない! 敵、まだ、残っている!」


 アーティがサヨに檄を飛ばす。


「次は二番艦だ! 奴らが恐怖で動けなくなるまで、叩き込め!」


「う、うん。それよりラムネ、タクヤ、ラムネちょうだい!」


 僕は慌ててラムネの瓶を開け、サヨの口に押し当てた。サヨはそれを一気に飲み干すと、再び立ち上がった。


「第二射、行けます!」

「我ら、導く! シンドゥ、キハヴァ、ジャドゥ・カ・マーダイン カルシャロ!」


 後半はなんと言っているかは分からないが、あれはきっと彼女らの「祝詞」なのだろう。サヨも、二度目の砲撃に備える。


『先ほどの旗艦の後方にいるウォーリア級戦艦めがけて、第二射、放てっ!』


 砲雷長からの命令が届く。二度目の祝詞が、唱えられる。


「八百万の神よ、我が前を征く邪悪なる船に、償いの光を浴びせまえ! 清めたまえ!」


 宝玉より力を得た三連装の砲身から再び放たれた極大の閃光は、先ほどと同じように琥珀色の光に包まれて導かれ、正確にその二番手の戦艦を捉えた。

 その間に、砲塔の上に立つ彼女らを見た。三十人が揃って、手足を整然と、しかしゆっくりと動かしている。その動きに合わせて、サヨの放った魔導の光が琥珀色の覆いとともに曲げられて、吸い込まれるように標的へと導かれる。

 それが着弾するや、強烈な轟音と同時に、パッと衝撃波が海面に巨大な円形を描く。一瞬にして炎に包まれたその戦艦には、その艦上にいたあらゆる命を強風の前のロウソクの火のように吹き消してしまった。

 二隻目の戦艦が爆発炎上し、敵は一気に戦意を失う。まだ戦艦は三隻いる。が、全力でその場を離脱し始めた。

 理由は、単純だ。我々の三連装魔導砲が空けた敵の戦列の穴へ、我が第二艦隊の高速駆逐艦が突入し、次々と敵の戦列に魔導砲を放ち始めたからだ。十隻の駆逐艦、二隻の巡洋艦、そして一隻の戦艦「櫻火」が次々と魔導砲を放つ。敵の戦艦、巡洋艦が一隻づつ、駆逐艦も何隻かが火を噴いている。

 にしても、射程の倍以上の距離一万五千での、正確無比な魔導砲撃。

 こんなことを可能にするシンドゥの魔女とは一体、何者なのか?

 我々にはない魔力の使い方だ。敵の弾を弾き返し、さらに魔導砲の射程距離を伸ばす。

 その時の彼女らは、呪文の詠唱だけでなく、皆、ゆっくりと舞を舞うように手足をゆっくりと、そして整然と動かしていた。

 まるで「舞う」が如く魔力だ。なるほど、だから「舞姫(マハラニ)」と呼ばれているのか。

 敵の旧式の艦隊にとって我々の予想外の反撃は、悪夢以外の何物でもなかっただろう。魔導砲の射程外から、あの悪魔のような青白い光が浴びせかけられたのだから。


『敵艦隊、回頭! 撤退していきます!』


 観測員からの報告が、伝声管越しに入る。ついに敵は我々の包囲を諦め、退却に転じた。

 気づけば僕の手は、震えている。長射程の魔導砲を目にして歓喜したからなのか、それとも異国の魔女のその力に恐怖を覚えたからなのか。自分でも、よく分からない。

 が、たった一つ、分かったことがある。

 それは、三十人の魔女の救出と、艦隊戦に勝利したという事実だ。

 いつの間にか敵艦隊は、湾口から姿を消していた。遠くに見える敵の残存艦隊が出す黒煙は、彼らの恐怖を象徴しているようだった。


「ふぅ、なんとかなったね」


 サヨが大きく息を吐き、壁にもたれかかる。ラムネを手にやや青ざめた顔を見せながらも、しかし晴れやかな達成感を垣間見せた。


 そんなサヨを、アーティがニカっと白い歯を見せて笑いながら抱き寄せた。


「お前の、魔力(マナ)、凄まじかった。導くの、三十人が皆、手一杯だった」

「あ、アーティたちこそ、あんな魔法、私は見たことないよ。網で弾を弾いたり、魔導砲弾を遠くまで導いたり」


 もうすっかりこの二人は、打ち解けていた。人見知りのサヨがこれほどまでに早く馴染むとは、僕のほうが驚きだ。もしかすると、魔力同士で何か通じ合うものがあったのかもしれないな。


「だから、あなたたちがいてくれなかったら、私たちのこの(ふね)は沈んでいた。ありがとう」


 サヨが深々と頭を下げる。以前の彼女なら、異国の、しかもあんなに気性を露わにする女性に対して、ここまで素直に話しかけられただろうか。

 そんなサヨを見て、アーティは少し照れくさそうに鼻をこする。


「礼を、言う。お前たち、来なければ、我ら、スラヴィアの奴ら、言いなり。やっと我ら、自由を得た」

「自由って……そんな、大袈裟な」

「以前、スラヴィアの奴ら、五人、連れて行った。皆、帰ってこなかった。奴ら、舞姫(マハラニ)、人と、思ってない」


 サヨがその言葉を聞き、こう返す。


「そ、そうだよね。少なくとも連合皇国は、魔女を敬ってくれる国だし」


 そう述べたサヨの顔に一瞬、曇りが見えた。おそらくだが、父親のことが過ぎったのだろう。だが、そんなサヨの手を、アーティは力強く握りしめた。

 その光景を見ながら、僕は思った。

 魔導砲の射程延長。そして、物理攻撃を防ぐ防御魔法。

 そういえば以前、サヨの魔導砲を跳ね返した網を使われたことがあったが、あれはシンドゥの魔女の力によるものだったのか。

 が、そのシンドゥの魔女たちの力は、我々の下にいる。

 それが、とてつもない奇跡であることは、いうまでもない。最強の矛と、最強の盾を手にしたことになるからだ。

 

『総員へ伝達、これより湾外へ出る。ここでの任務は完了した。砲撃戦、用具納め』


 まさにその目的の完遂を告げるかのようなスザキ大尉の言葉に、僕は我に返る。

 戦艦震洋は、まだ海上で黒煙を上げる敵艦の残骸を横目に、悠々と外洋へと進み出た。

 その甲板には、白い軍服の魔女と、鮮やかな衣の魔女たちが、並んで海を見つめていた。サヨは、亡くなった敵兵に弔いの意を示すため、手をあわせる。それは、やがて訪れる激動の時代の、新たな同盟の幕開けでもあった。

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