#21 反乱
「スラヴィア共和国を倒せ!」
東方連合皇国の艦隊にやられ、命からがら帰ってきた艦艇から、青白い閃光が放たれる。
それはまさしく、魔導砲の光だ。しかも、一撃ではない。
通常、一発撃てば魔力切れを起こすのが普通の魔女だ。だが、その魔導砲は第二射どころか、第三射、第四射まで撃ってくる。
「どうなっている! なぜ、魔導砲が我々に向けて撃たれているんだ!?」
「連れてきた魔女たちも、どうやら反乱軍に加わったようです!」
「司令! もはやこのままでは、司令部が破壊されます、直ちに脱出を!」
「くそっ、せっかく魔導砲の技術と、植民地から魔女を見つけ出して東方の連中と張り合える武器を手に入れたと思っていたのに、なんという失態だ。これでは我が軍は、彼らに武器を譲り渡したようなものではないか」
「ともかく、裏の港に停泊している駆逐艦二隻が使えます。すぐに隣のカメリア諸島にいる援軍に頼りましょう」
「くそっ、あの時、キング・オブ・インヴィンシブルが失われなければ……」
その司令官はギリギリと歯ぎしりをするものの、もはやなす術がない。戦艦二隻と巡洋艦一隻にようやく乗せた三門の魔導砲を奪われては、味方に犠牲が出るばかりだ。
ちょうどスラヴィア共和国の司令官が建物から出て、裏の森に身を隠したその時だ。ついに魔導砲が、司令部の建物にとどめを刺した。ガラガラと崩れるその建物を前に、スラヴィア共和国の司令官らは捲土重来を果たすという決心を胸に、その場をすごすごと逃げ出すしかなかった……
◇◇◇
「ルマク島には、残存艦艇が九隻、到着した。その艦艇の内の三隻に、届いたばかりの魔導砲三門がつけられたらしい」
鳴鷲島の司令部の一室に僕とサヨは呼び出され、こうスザキ大尉から告げられる。
「あの、そのことと、今回起きたとされる反乱とは、どういう関係があるんですか?」
「その魔導砲を使えるのは、どこの出自の者か知っているのか?」
「スラヴィア共和国には魔女はいませんから、植民地から連れてこられた住人ということになりますね」
「そうだ。早い話が、スラヴィア共和国にあまり良い感情を抱いていない者たち、ということになる」
「まさか、今回の反乱って……」
「そう、その魔導砲が奪われ、港にある司令塔に向けて放たれた。スラヴィア共和国の司令塔はあっという間に壊滅、すぐさま反乱の鎮圧にあたろうとしたが、ほぼ同時に島中の住人がスラヴィア共和国軍へ反撃を開始。戦艦二隻と巡洋艦は奪われ、司令塔も破壊された。司令部は別の港に停泊していた駆逐艦二隻に乗って逃げ出した。これが、この先にあるルマク島で起きた反乱の概要だ」
さらにスザキ大尉が言うには、どうやらキング・オブ・インヴィンシブルを失ったことが、彼らにとっては反乱を起こすきっかけとなったらしい。
というのも、傷ついた二隻の戦艦に、傷だらけの巡洋艦と駆逐艦が息も絶え絶えに港に着いた。それを見たルマク島司令部では、届いたばかりの魔導砲を搭載し、防御態勢を取ろうと画策した。
我々がすぐに攻めてくると考えたのだろう。もっとも、我々にそれほどの軍事的余力はないのだが、ともかく彼らは我々がこの島に攻めてくると考え、大急ぎで戦艦二隻と巡洋艦一隻に、届いたばかりの魔導砲をそれぞれ一門づつ搭載した。
ところがだ、その魔導砲を搭載した艦に、住人らが押しかける。この島に集められた魔女は、この島やその他の国から連れてこられた者を合わせて全部で十五人。その魔女が三つに分かれ、交互に魔導砲を撃ち放った。
結果として、ルマク島司令部は壊滅。生き残ったスラヴィア共和国軍は二隻の駆逐艦に分乗し、その島を逃げ出したというわけだ。
「こう言っては何ですが、自業自得じゃありませんか?」
「まったくその通りだ。が、一つ厄介なことが増えた」
「厄介なこと、ですか?」
「そのルマク島だが、独立を宣言し『ルマク王国』を名乗った」
「はぁ、それはよかったじゃないですか」
「なにがよいものか。それが大問題なんだ」
「なぜです?」
「そのルマク王国政府から、正式に我が国へ援軍要請が来たんだ」
ああ、そりゃあ大変だ。自国を護るのに精いっぱいだっていうのに、さらに南方の遠く離れた小国を護れと言うのか。
「もっとも、その見返りとして石油や鉱物資源、ゴム、そして珈琲豆などを輸出すると申し出てきた。悪い話ばかりではない」
うーん、珈琲が手に入るのは悪い話じゃないな。それに、ルマク王国にはサトウキビや天然の炭酸水泉があると聞く。これで、メロンソーダーにも困らない。サヨにとってもきっと、いいことだろう。
だが、それは同時に、戦線の拡大を意味する。
「第一艦隊がどうにかバリャールヤナ軍を抑えてくれているが、あちらも軍備を整えて新造艦が次々と現れて苦戦していると聞く。我が国でも海軍力の増大をはかるため、重巡の増産計画が進められている。とはいえ、問題はどうやって人を集めるかだな」
「新米の海兵ばかりでは、戦いになりませんからね」
「おまけに、頼ってくるのは構わないのだが、そのルマ王国自体の軍事教練が行き届いているとは、到底言い難いからな」
そう、ルマク王国もこれを機に軍を創設したようだが、戦闘経験がある者はそれほどおらず、苦慮しているようだ。
「ともかくだ、通商航路は守りつつ、遠く離れた島の防衛まで依頼されてしまった。かといって断れば、我が国は信頼を失う。それにだ」
「まだ、何かあるんですか?」
「……おそらくだが、これを機にスラヴィア共和国の植民地のあちこちで反乱が起きる可能性がある。スラヴィア共和国に対し、良い感情を持っている植民地などほとんどないからな。だからこそ彼らにとっては負けられない戦いだったというのに、象徴艦を失っただけでなく、せっかく作りだした魔導砲を、裏切られた魔女によって自身を攻撃されることになるとは……」
こんな事態が起きるとは、予想だにしていなかった。想像以上に事態が悪化していくことが分かる。が、それにしても植民地の人々が、そこまで鬱憤を貯めていたとは予想だにしなかったな。
そんな最中、僕らはこの鳴鷲島の例の浴場とやらに向かう。そこで身体をほぐしてもらい、いつになくすっきりした気分で出てきた。
「さ、あそこに行こう」
サヨが誘うのは、当然、あの店だ。
「おい、絶対に第一砲雷科の連中に見られているぞ」
「いいじゃない、どうせもう、夫婦みたいなものなんだし」
「まあ、それはそうだけどな」
「それにさ、どうせなら、こそこそと見られいるところに押しかけて、連中をからかい返してやりたい気分だし」
などといいながら、裏茶屋の方角へと向かう。
しかしだ、周りを見るが、当然いると思っていた第一砲雷科の連中が全く見当たらない。食堂での仕返しをしようと思っていたサヨは、肩透かしを食らう。
で、どうにか見つけたのは、親友のサイゴウ伍長だった。
「おい、サイゴウ伍長、いくら探しても、第一砲雷科の連中が見当たらないんだが、どうなってる!?」
それを言われた親友は、こう答える。
「そんなの決まってるだろう。お前らがうらやましくて、第一砲雷科のやつらは皆、自身の伴侶を探すためこの島中、うろついてるんだよ」
「はぁ? なんだそれ。で、お前はどうなんだ」
「俺か。実は俺、もう見つけちゃっててよ」
……なんてやつだ。こいつ、散々人のことをからかったくせに、人のことなど言える立場じゃなかったってことじゃないか。
「おまたせぇ! あれ、もしかして、こちらが例の魔女殿なの!?」
「ふえっ!」
なんかやけに明るいのが来たぞ。そのサイゴウ伍長の連れの者は、いきなりサヨの手を握り出す。こういう明るい人物は、サヨにとってもっとも苦手な人種だ。
「いやあ、一度でいいから会ってみたいと思ってたんよ。ねえ、このまま一緒に、洋茶屋で一緒にしゃべらない?」
「いや、ダメだって、今からこいつら、裏の方に向かおうとしてるんだから」
「なーんだ、残念だなぁ。じゃ、また会った時にね」
といいながら、サイゴウ伍長と共に、その明るい女は去っていった。
僕は、じっとその女の後ろ姿を見る。どうもあの女、この島の者ではないな。
もしかすると、あれも魔女じゃないのか? 軍服を着ているわけではないが、しゃべり方からして内地の人間だ。こんなところにいる内地の女といえば、各艦に乗る魔女くらいのものだ。
が、僕があまりにその魔女らしき女をじーっと目で追いかけていたものだから、サヨが怒り出した。
「ちょっと、何じっとあの女ばかり見てるのよ!」
ああ、嫉妬してるな。いや、別にサイゴウ伍長の女が気になって見ていたわけじゃない。単にあの女も魔女じゃないかと疑っていただけなのだが、サヨにとってはそれを別の意味でとらえてしまったらしい。
「大丈夫だよ。僕には、サヨ以外にはいないから」
僕がそう告げると、あれだけ不機嫌だったサヨの顔がぱあっと明るくなる。そして二人、手をつないで、裏茶屋へと向かう。
一応、この裏茶屋というのは非合法な場所だ。本来、茶屋がそういう風俗的なことをしてはならない。とはいえ、ほぼ公然と存在する非合法な場所。そんなものが、対程度の街にも存在する。
「いらっしゃーい! つがいのお方、お二階のお部屋へ、ごあんなーい!」
にしても、やけに明るい店員のいる店に来てしまったものだ。おかげで、大きな声で叫ばれる。これだけ大声で営業していて、よく摘発されないものだな。まったく、この島の警察はどうなっているのか。
などと思ったところで、摘発されたら困る立場にいるのはまさにここを利用している僕らだ。軍属でありながら、こんないかがわしいところに来てしまった。
部屋に入るや、サヨはそっと上着を脱ぐ。そこで見えた肩の肌を見て、僕は思わずこう言った。
「……あれ、サヨの肩って、こんなに白かったっけ?」
露わになった肩を見た僕は、思わず口に出してしまった。
「違うよ。肩が白いんじゃなくて、私の顔から首が日焼けで黒くなっただけ」
「ああ、そうか、そう言われてみれば、ここは南方だったからな」
「そうだよ。最近は結構外に出ることが多かったから、日に焼けたんだよ」
といいながら、さらにその下の方まで露わにする。この首筋に見える日焼けの境目が、かえって僕の理性を外しにかかる。思わず、サヨを押し倒し、抱きしめてしまった。
で、まあ、それから一時間後には、僕らは表の方の茶屋に向かうことになった。
「うわぁ、ここ、メロンソーダーあるよ!」
新たに独立したルマク王国からもたらされた炭酸水によって、メロンソーダーが作られていた。しばらくぶりに出会うその飲み物に、喚起するサヨ。
ソーダ―には、氷が入れられていた。ここには氷業者もいるのか。粗削りされた氷が三つ、放り込まれていて、三連装砲の魔女はそのひんやりとした飲み物に感激している。
その姿は、あまり最強魔女には見えないな。
「まったく、本当にあなた、最強の魔女なのかしら?」
ああ、僕と同じ感想を抱く者がいるな。って、よく見ると、あの戦艦櫻火の魔導砲担当でもある安国神社の社主の娘じゃないか。ヒトツバシ兵長は、サヨにこう言い放つ。
「あのねぇ、どうして三連装砲の魔女ともあろう者が、メロンソーダーごときで浮かれているんですか!」
「いや、だってこれ、美味しいし」
「もうちょっと自覚はないのかしら、巫女としての自覚は。まったく、これだから田舎娘は……」
なんだこいつ、前回は神妙な顔で現れたくせに、今回はまたこの間のように嫌なやつに戻ってしまったようだ。うーん、どうしたものか。そろそろ、反撃に出るか。
と思ったその時、ある人物が現れる。
「す、スザキ大尉殿!?」
そう、現れたのは軍令部情報局員で、かつ砲雷長のあのお方だ。
そんな人物が、ヒトツバシ兵長という、もう一隻の戦艦の魔女と同じ場所に現れた。
となれば、サヨに対して言いたい放題のこの魔女に、スザキ大尉はガツンとひと言、もの申してくれるはずだ。僕は思わずニヤッとにやける。
が、スザキ大尉は思わぬ反応を示す。
「待たせたな」
なんと、この安国神社の巫女に、このひと言である。
「あら、ジロウさん。私も今、来たところですわ」
「なんだ、お前、カンザキ上等兵とは顔馴染みなのか?」
「巫女ですし、そんなところですわね。そんなことよりも」
「なんだ」
「聞いた話では、この先に浴場があるとのことですわよ」
「それくらいは知っている」
「で、その浴場で身体をほぐしてもらった後、例の場所に行くととても良いという……」
この時点で、僕は察した。なんだこの二人、そういう関係だったのか。
どおりで第三射の話を、スザキ大尉がすると思った。元々、ヒトツバシ兵長からあの予言を聞いていたのか。いや、それだけではない。
おそらく、今までの作戦も、ヒトツバシ兵長の持つ先読みの能力を使い、それを基に作戦を立案していたのかもしれない。
頭の切れる人物であることは確かだ。が、先読みの能力には、協力者がいたということか。
で、二人は店を出て、例の浴場の方へと向かっていった。
「スザキ大尉も、隅に置けない人だね」
サヨがボソッとそう呟くが、二重の意味で僕はそう思った。驚くべき状況判断力と、決断力を持つという面、そして、あの由緒ある巫女を伴侶としていたという面。まさに、隅に置けないお方だ。
さて、しばらくの間、僕らはこんな具合に平和な日々を過ごしていた。
情勢が一変したのは、一か月後のことだ。
「敵艦隊が、現れたそうだ」
第一砲雷科の詰所で、スザキ大尉がそう告げる。
「あの、どっちの敵の艦隊が、でしょうか?」
「ここは南方だ。スラヴィア共和国軍に決まってるだろう」
いや、そうとも限らないぞ。だってバリャールヤナ連邦国も最近は勢いを取り戻しつつあると聞く。残った第一艦隊が大忙しだという。
ただ、バリャールヤナ連邦国には魔導砲の技術は渡っていないようだ。スラヴィア共和国とバリャルーヤナ連邦国は、表向きは手を取り合っているようで結局のところ仲が悪いままのようだ。バリャールヤナ連邦国としては、魔導砲の製造法や魔女が手に入るとばかり思っていたのに、どちらも得られなかった。この調子だと、いずれその両国がぶつかり合うのも時間の問題だ。
が、今のところは両国とも、我が国だけを狙い続けている。
「ルマク島の東に二千キロのところにあるカメリア諸島から、艦隊が出撃したとの報告が入った」
「それは、大艦隊ですか?」
「いや、規模はニ十隻程度で、戦艦二隻、巡洋艦五隻に、残りは駆逐艦だそうだ」
「少数精鋭の部隊、ということでしょうか」
「いや、旧式艦ばかりだそうだ。当然、魔導砲は搭載されていないようだな」
「なぜですか? やつら、我々と会敵すると分かっていて、魔導砲を搭載しないなどとはとても考えられませんが」
「むしろ載せられないだろう。それでまた、反乱がおこってしまいかねない。今回の艦隊の派遣の意図も、我々というより、ルマク島の再占領が目的だろうな」
「で、我々、第二艦隊に出撃命令が下ったのでありますか」
「そうだ。最大最強の戦艦を沈められておきながら、格下の相手をよこしてきやがった。その報いを、受けさせてやる」
冷静だと思っていたスザキ大尉の本性が最近、徐々にわかりつつあった。この人、意外と熱血だ。ただ、以前の砲雷長のようなああいうタイプではない。
普段は冷静さを装い、戦いになると血が湧き躍る、そんな感じの人物だ。
そんなお方が、まだここの砲雷長をやっている。
「今度も勝つぞ! 西方列強に、我らが東方の力を思い知らせてやる!」
「おおーっ!」
この大尉の言葉に、第一砲雷科の連中も意気揚々に答える。その中の一人に、サヨもいた。
「頑張ろうね、タクヤ」
で、第二砲塔に入ると、先ほどの興奮を引きずったままのサヨが僕の前で微笑みつつ、拳を握りしめる。
「僕はいつでも頑張ってるんだが」
「そうだね、この砲塔でも、ベッドの上でも、いつも頑張ってる姿、私は知ってるから」
いや、ベッドの上の話はこの場ではしないでほしいなぁ。どこでだれに聞かれるか、分かったものではないのだから。
「なんだ、ベッドの上では、トウゴウ伍長は張り切るタイプなのか」
ああ、言わんこっちゃない。こういうタイミングで、スザキ大尉が現れるんだよなぁ。絶対に、隣の戦艦に乗る魔女の能力を借りているな。そう勘ぐってしまうくらい、タイミングがいい。
「ところで、次の戦いでの作戦をあらかじめ、話しておく」
が、このお方は急に戦いの話に入る。根っからの軍人なようだ、男女の交わりよりも、砲弾の交わりの方が性に合っていると見える。
「戦艦櫻火と震洋の二隻で、敵の艦隊を一気に壊滅する」
「つまり、三門の砲撃でかたをつけるんですか?」
「そうだ。相手は旧式艦の集まりだ。そんな連中に、第二射すらもったいない。いや、一撃で片付けることに意味がある」
「その理由を、お聞かせ願えますか」
「簡単だ。その方が、面白いからだ」
……いや、それは砲雷長の感想ですよね。僕が聞きたいのは、理由の方だったんだが。
「まあ、それは冗談だが、旧式艦など戦艦二隻で十分だと、そう示すことで敵を本気にさせることができる。が、それ以上の効果が見込める」
「それ以上の、効果?」
「分からないか?」
「いえ、全然」
「スラヴィア共和国艦隊の惨敗ぶりを知れば、多くの植民地での独立運動が盛んになる。ちょうどこの海のさらに東にある大洋の向こう側の植民地。そこが独立戦争を起こす公算が高くなる」
スラヴィア共和国よりもずっと広い国だ。資源も豊富で、入植者も多い。そこが独立戦争を起こせば、スラヴィア共和国はさらに追い込まれる。
「もちろん、バリャールヤナ連邦国にも影響が及ぶだろうな」
「えっ、また我々のところに、バリャールヤナ連邦国が攻めてくるってことですか?」
「逆だ。弱ったスラヴィア共和国に対し、宣戦布告するんじゃないか。その際はおそらく、我が東方連合皇国に対して不可侵条約でも取り付けてくるに違いない」
「あの国が、不可侵条約なんて守りますかね?」
「守るつもりはないだろうな。だから、こっちから拒絶する。それでもスラヴィア共和国への攻撃はしようと考えるだろうから、その時は……」
うーん、これはヒトツバシ兵長の予言の力ではないな。スザキ大尉自身の分析だ。とてもじゃないが、巫女が見えている範囲を超えている。やっぱりこのお方、並みの頭脳ではない。
さて、それから一週間後には、ルマク島東五百キロの地点にいた。見張り員の声が、伝声管を通じて届く。
『敵艦隊、視認! 戦艦二、巡洋艦五、駆逐艦十三! 距離二万!』
僕は照準器で敵戦艦を見る。あれは確かに、旧式のウォーリア級だ。搭載する砲塔は、二十七センチ連装砲が四基。二万メートルまで接近したというのに、攻撃してくる気配はない。
どうやら、我々に発見されて逃げの態勢に入ったようだ。が、足の遅い旧式艦に、追いつけないほど我が艦隊は遅くはない。
『右砲戦、二十一度、砲撃用意っ!』
『射撃用意よし!』
『交互撃ち方、初弾観測後、発射間隔二十秒、撃ち―かた始め!』
まずは通常砲弾が放たれる。逃げる敵の目前に、次々と水柱が立つ。ただでさえ加速の遅い旧式艦は、水柱に行く手を阻まれて減速する。
その間に、我が第二艦隊は単横陣形で敵に突入する。一気に距離を詰め、敵艦隊まで距離四千と迫る。
その地点で、発光信号が震洋から放たれる。それに、櫻火が答える。
「よし、我が艦は敵の三分の二、櫻火は三分の一を薙ぎ払う。薙ぎ払い砲撃、用意!」
そう、二隻の強力な魔導砲によって、敵の艦隊を薙ぎ払おうというのが今回の作戦である。第二射はいらない、いや、使わない。
「射撃用意よし!」
「よし、撃ちーかた始め!」
僕に号令するスザキ大尉。この二人の思うところは、同じだ。
ここに旧式艦をよこしたことを、嫌というほど後悔させてやる。
そして、サヨが祝詞を唱え始めた。
「八百万の神、冥府への道へ急ぐ船を、祓いたまえ、清めたまえ」
まだまだ、戦いは続く。敵も同じ魔導砲を手に入れたが、それが仇になって反乱がおきた。だが、たとえそれが敵に回っても、最強の「三連装砲の魔女」であるサヨが負けることはない。やがて訪れる平和を夢見て、今日も僕らは戦いに臨み続ける。




