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#17 南方

 スラヴィア共和国には、魔女はいない。が、植民地には数は少ないものの、魔女がいる種族がいるらしい。

 さらに、我が国の撃沈された駆逐艦の残骸をバリャールヤナ連邦から譲り受けて、そこに取り付けられていた魔導砲の構造を研究、模倣したということだ。

 ただし、ようやく試作機が一門、できたに過ぎないという。が、どちらにせよ脅威には違いない。我々自身が、その破壊力をよく知っているからだ。たった一撃でも、もし震洋が食らったなら撃沈する可能性が高い。

 わが国だけが独占していた魔導砲という強力な武器を敵も所有しているとなれば、油断はできない。これまでとは違う戦いが、南の海では待ち構えている。

 おそらく、一門では済まなくなるだろう。いずれ二門目、三門目が製造され、そこに植民地の魔女が当てられる。

 こう言っては何だが、自国民でない者を戦争に駆り出すのはどうなのか。いや、自国に魔女がいないから、というのは分からないでもない。が、だからといって力で支配する国の人員を駆り出すとか、それは正気なことなのか?


「どうしたの? 何かぼーっとしてるけど」


 僕は今、第二砲塔の中で掃除をしているところだ。サヨも本棚を整理しており、僕は床をほうきでホコリを掃き出していた。が、そんなほうきの手を止めていた僕を見て、心配そうにサヨが僕に語り掛ける。


「いや、南方の戦いは、どうなるのかなと思ってね」

「何か、不安なことがあるの?」

「そりゃあ当然、あるよ。戦ったことのない相手だからね」


 そう、バリャールヤナ連邦とはかれこれ一年ほど戦っている。だから、その戦術の癖というか、武装もよく知れている。が、スラヴィア共和国については遠くにある国だから、その事情はほとんど分かっていない。

 無論、我が国も諜報活動を行っている。南方のスラヴィア共和国の植民地に潜り込み、どのような兵器が輸送されているかを調べている。その情報が逐次、軍令部に入ってきている。

 そしてそれは、なぜか第一砲雷科にももたらされる。

 理由は、単純だ。


「トウゴウ伍長、清掃作業は終わったのか?」

「はっ、砲雷長殿、まもなく終わります」

「……にしても、嫌に長いぞ。妙なことは、していないだろうな」

「いえ、決してそのようなことは……」


 第二砲塔の扉を開けて現れたのは、新たな砲雷長だ。そう、どういうわけかスザキ大尉が、砲雷長としてそのまま着任している。無論、本来の所属である軍令部情報局所属のままで、砲雷長を兼務している。

 だから、震洋の第一砲雷科には最新の情報が入るのが早い。


「敵……いや、まだ宣戦を布告されたわけではないが、いずれ敵となるスラヴィア共和国海軍は今、我が国の南端の島、鳴鷲島の南東およそ千三百キロ離れたルマク島に集結しつつあるとのことだ。戦艦が五、巡洋艦十五、駆逐艦二十の計四十隻の艦隊が集結しつつあるとの報告があった」

「四十隻、ですか」

「数は、我が第二艦隊と第三艦隊合わせて三十二隻となる。もっとも、戦艦四、巡洋艦十、駆逐艦十三、そして海防艦が五隻という内容だからな。数の上でも質的にも、相変わらず不利なことは変わりない」


 うーん、数字的には絶望的だな。まともにぶつかり合ったら、勝ち目はない。


「しかも、戦艦の一隻に魔導砲が搭載されているとの情報が入っている。が、どの艦なのかが分かっていない。確かめようにも、戦艦の主砲塔にはすべてカバーがかけられていて、把握できなくなっている」

「ですが、艦種とその武装はだいたい把握しているんですよね?」

「三十五センチ砲を搭載したオライオン級が三、三十センチ砲のヴィクトリー級が一隻、そして……」

「残る一隻が、キング・オブ・インヴィンシブルだと言われている。四十五センチ砲の四連装砲を一基、四十二センチ三連装砲二基を載せたとされる、全長二百六十メートルの、世界最大の戦艦だ」


 通常砲だけ見れば、四十五センチ三連装砲を二基、搭載した我が震洋をも超える戦艦が現れたことを示唆した。

 が、スザキ大尉の話は続く。


「おそらくだが、このキング・オブ・インヴィンシブルに魔導砲が搭載されていると考えるのが妥当だろう。理由は明確だ、魔導砲は接近戦が基本だから、そこそこの装甲を持ち、接近戦に耐えうるだけの強固な艦でなければとても魔導砲を備えた我が皇国艦隊を突破できないからな。だからこそ、わざわざ遠く離れた東方の地まで最先端の戦艦を連れてきたのだろう。震洋の主標的は、その最新鋭艦となるだろう。当然、あちらも震洋を狙ってくるのは確実だ」


 つまり、数の上では四十対三十二。しかし、どちらかというと両国の最新鋭艦同士の戦いとなることは、間違いない。


「あと二日で、鳴鷲島に到着する。これまでは北方の寒い地域での戦闘が主だったが、今度は亜熱帯での戦いだ。暑くなるぞ」


 そうスザキ大尉、いや、砲雷長は言い残して第二砲塔を出ていった。そんな話をわざわざするために、ここに来たようだ。が、それはサヨを不安にさせるだけだ。


「せ、世界最大の戦艦を、相手にするんだよね」


 この魔女は、明らかにスザキ大尉の話を聞いて動揺しているな。僕はこう言い返す。


「実質的には、こちらが世界最大の戦艦だ。三連装の魔導砲など備えた艦は、世界中探してもここにしかない。だから、気負いすることはないさ」


 それを聞いて、笑みを返すサヨではあるが、無論、不安感が消えたわけではない。僕も、四連装砲を搭載した艦と聞いて思わず尻込みしたくなる。見かけだけならば、あちらの方が確実に上だろう。

 スラヴィア共和国の本国はバリャールヤナ連邦国よりも小さい国家とはいえ、世界中に植民地を抱える、実質的には世界最大の国家だ。元々、バリャールヤナ連邦国とは仲が悪い国ではあるが、東方の小国に過ぎない我が国の戦いぶりを見て、バリャールヤナ連邦国を支援する気になったようだ。

 実に、迷惑極まりない話だ。特に我々は彼らの領土や権益を侵したわけではないし、むしろ友好条約すら結んだ相手だ。だが、東方の民族に対する差別意識が、彼らを我々との戦闘に駆り立てたのだろう。

 我々など、彼らからすれば、他の植民地と変わらぬ国家としか見られていない。そんな国が、西方の大国相手に大勝利した。海軍力を誇るスラヴィア共和国としては、看過できない。だから戦争というより、懲罰的な意味合いで攻めてきたようだ。

 気に入らない。だから、戦争はいつまで経ってもこの世界からはなくならない。


「こっちは終わったよ。タクヤの方はどう?」

「今、終わる」

「そっか。で、すぐに戻るの?」

「砲雷長直々にお出ましだからな、詰所へすぐに行かなきゃならないだろう」

「うん、そうだね。でも」

「なんだ」

「今度の砲雷長は、殴らないからいいね」


 微笑むサヨだが、あの砲雷長は別の意味で恐ろしい。とにかく、頭が切れる。前砲雷長がスパイだと分かっていて、それを逆に利用しバリャールヤナ艦隊相手に多大なる勝利を収めた。。三連装魔導砲の砲台を振って敵を一掃する「薙ぎ払い戦法」を考え出したのも、スザキ大尉だ。

 殴りはしないものの、油断はできない。気を抜けば、付け込んでくる。僕とサヨの関係も当然、知っていることだろう。情報局出身で、二十代そこそこで大尉まで昇進したようなお方だ。僕らの個人的な情報も筒抜けだと考えた方がいい。


「ところでさ」


 僕が部屋を出ていこうとすると、サヨが急に呼び止める。


「どうした?」

「いや、今向かっている鳴鷲島って、どんな島なの?」

「さあ……南方の島だということしか知らないな」

「そう」


 南方の島と聞いて、かなり小さなところを思い浮かべているのかもしれない。島といえば、ホセ島に立ち寄ったが、あそこはかなり大きな島だった。地図で見る限りは、それと比べたら小さな島だ。寂びれた場所だと、サヨは心配しているのだろうな。

 が、二日後、その島に到着する。思いのほか、大きな島だった。

 あれ、ホセ島とほとんど同じか、むしろ大きいくらいじゃないか? そう思いながら、僕は地図を見返す。

 そうだった。この地図の図法では、北に行くほど大きく見えるんだった。つまり、ホセ島の方が北方にある分、実際よりも大きめに見えていただけだと気づく。

 戦艦震洋が入港できるほどの大きな桟橋がある。周辺がいきなり深い海だからこそ、こういう港が可能だったようだ。その島の桟橋に向かって、震洋は進む。


『面舵一杯』


 伝声管越しに、艦長の号令が聞こえてくる。目前に港があるのに、なぜここで回頭するのか?

 理由は、明確だった。つまり、後ろ向きに入港するためだ。そのために港の手前で大きく回頭し、その後は牽引船(タグボート)によって引いてもらいつつ、スクリューを逆回転させながら後退する。

 前向きで入港する方が、緊急時にすぐ発進可能だからだ。

 が、そんな中、第一砲雷科の詰所では、新砲雷長であるスザキ大尉がブリーフィングを行っていた。


「少し揺れる中だが、上陸前に伝えておきたいことがある」


 新しい砲雷長がそう、皆に告げる。


「次の戦いでは、通常砲の役割が重要となる。おそらくは、敵は魔導砲を搭載した新鋭戦艦で我が艦に突入し、その魔導砲で我が艦にとどめを刺す。それが目的だと思われる」


 しんと静まり返る詰所の中、スザキ大尉は続ける。


「で、今回の寄港で、砲弾をすべて徹甲弾に替える。その上で、通常砲の狙いはすべてその敵戦艦を防護する駆逐艦、巡洋艦に狙いを定めよ」


 通常砲が重要だと言いながら、戦艦ではなく駆逐艦や巡洋艦に狙いを定めよと言い出した。当然、砲雷科の皆から反論が飛び交う。


「砲雷長殿! 敵の戦艦を沈めてこその震洋の四十五センチ砲ではありませんか!」

「そうですよ、なぜ巡洋艦と駆逐艦なのですか!? 納得いきません!」


 最強戦艦である震洋の主砲を預かる砲雷科の乗員としては、当然の反論だろう。それを分かった上で、スザキ大尉は答える。


「もしも駆逐艦、巡洋艦を狙わず、敵の新鋭戦艦ばかりを狙ったとするならば、そこに魔導砲を当てることは困難となる。魔導砲の威力を知っているやつらはおそらく、小型艦艇を盾にして突入を試みるだろう。その敵の強固な盾を破壊し、敵に魔導砲による一撃を与える。それこそが、今回の作戦の成否を左右する。戦艦であるから、戦艦を狙う。その考えこそ捨てねば、未知の海軍との戦闘には勝利することができない」


 このスザキ大尉という人物は、頭が切れる。が、それを言葉にすることもまた、卓越している。今度の戦いが、今までとは全く違うものになることを、第一砲雷科の皆に説いた。以前の砲雷長ならば、海軍魂というものを盾にして、戦艦同士の決戦を主張するだろう。


「……砲雷長がそうおっしゃるならば、そう致します」


 そう答えたのは、第一砲雷科で新たに二番手となった、スガノ上等兵曹だった。おそらくは、不本意な話だと感じた上で、しかし軍隊である以上は上官の指示に従う。筋を通すべく、そう答えたに過ぎない。

 が、スザキ大尉はさらにこう答える。


「なにも、敵の新鋭戦艦であるキング・オブ・インヴィンシブルに一発も当てるなとは言わない。盾を早々に破壊した後はむしろ、その新鋭戦艦に砲撃を集中させる。当然、他の巡洋艦や駆逐艦がこの最強戦艦の守りのため、突入してくるだろうが、それは第二艦隊の他艦にゆだねる。一度穴を開けたならば、むしろその主標的に通常弾を浴びせかけるのは当然だ。しかも、そのためにも徹甲弾が必要となる」


 おそらくは、敵の新鋭艦ともなれば相当厚い装甲を施されていると想定される。だからこそ、通常砲弾では歯が立たないことも想定済みということか。


「敵がいつ、攻撃を仕掛けてくるか分からない。が、敵艦隊発進の報を受けるまでは、この鳴鷲島で十分な休息をとることを命じる。貴官らの奮闘努力に、期待する。以上だ」


 回頭が終わり、ちょうど震洋が後ろ向きに進み始めた時だ。全員が起立し、この新たなる砲雷長に向かって一斉に敬礼をする。

 どちらにせよ、次の一戦はこれまでになく厳しい戦いとなる。そう僕は感じ取った。


「ねえねえ、街の方に行ってみよう」


 真夏の暑さと、照り付ける強烈な太陽の光を浴びながら、サヨは僕の手を握りながら桟橋を進む。だが、サヨよ。お前、周りが見えていないのか?


「ひょえーっ、魔女殿はトウゴウ伍長の前では、そんなに甘い声を出されるのですか」

「ひえっ!」

「公然の秘密とは言え、こう目の前でヒヨドリ夫婦っぷりを見せつけられると、さすがに我ら砲雷科の皆のやる気が、そがれてしまいますなぁ」

「ぐえっ!」

「ああ、やはり魔女殿はトウゴウ伍長のことしか見えていなかったのかと、我ら一同、改めて衝撃を受けました」

「ふえっ!」


 ああ、だから言わんこっちゃない。つい(おか)に降り立って気が抜けてしまったところを、周りに見られてしまった。男恐怖症のそれとは違うが、サヨがあたふたとしながらなんとかごまかそうとする。


「あ、あの、そのようなつもりでは……み、皆様にはお世話になりっぱなしで、決して皆様を見ていないなどとは……」


 単にからかわれているだけだということに、この魔女は気づいていない。男性経験というより、普通の人との接点が少なすぎるからなぁ。仕方がないとはいえ、冗談が通じない。

 それをフォローしてくれたのは、サクライ上等兵だった。


「真に受けずとも良いですよ。我らはすでに、お二人の味方なのです。それを分かった上で、わざとあのようなことを言ってからかっているだけです。我らは三連装の魔女のお供として、そして栄えある戦艦震洋の主砲手として、魔女殿を支えていこうと決意しているのです。存分に、お二人でこの島をお楽しみください」


 と、若い上等兵に諭されてしまった。それを聞いて、汗を流しながらカクカクと首を縦に振るしかないサヨだった。


「あーっ、私ったらもう……」


 街中で見つけた洋茶屋の中で、サイダーとメルサボントーストを前にして、先ほどのあの振る舞いを後悔するサヨだが、僕はむしろ安心している。男恐怖症が、ほとんど消えかけている。特に第一砲雷科の男たちの前では、ごく普通のサヨとして振る舞っていた。だから今回の出来事は、僕にとってはむしろ普通の巫女らしくなってきたと感じたところだ。


「気にしなくてもいいよ。そんなことより、せっかくのサイダーがぬるくなっちゃうよ」

「うう、簡単に言うけどさ、私、とんでもないことを口走ったような……」

「何言ってるんだ。ただ街に行こうって、僕に言っただけだろう」

「えーっ、でもなんだか恥ずかしい、穴があったら、入りたい……」

「大丈夫だよ。そんなこと、今さら気にしたってしょうがない。櫻坂港の裏茶屋に行ってることだって、もうみんな、知ってるんだから」

「えっ、どうして!? 誰にも話してないのに」

「いや、あんな狭い街で、震洋専属の魔女が裏茶屋に入れば、そんな噂はあっという間に広まるよ。僕も、その噂を聞かされたことあるし」

「うわぁ、もうそんなことまで知られてたんだ……うう、穴掘って、その奥深くに入りたい……」

「気にしたって仕方ないだろう。ほら、ここは北方じゃないんだ。すぐにぬるくなるぞ」


 そう促されて、ようやくサイダーを飲み始める。が、甘いものが入ると、この魔女もようやく先ほどまでの悩みが薄れていったようだ。


「もういっそのこと、ここの裏茶屋に入りましょう。ダメだったら、私の宿部屋でもいいし」

「見境ないなぁ。そういうことは、もうちょっと人目の付かないところで話すことじゃないのか?」

「いいじゃないの。もう今さらって感じだし。私、もう逃げも隠れもしない」


 急に強気になったが、それは甘味による作用なのか、それとも照れ隠しのための強がりなのか。どちらにせよ、サヨは依然と比べたら格段に強くなった。

 が、そんなところにまた、あの人物が現れる。

 そう、戦艦櫻火の魔導砲手の魔女、ヒトツバシ兵長である。サヨの表情が一瞬、曇る。

 そんな安国神社の社主の家系の巫女が、サヨに向かってこう言った。


「今度の戦い、並みの戦いではないことを、ご存じなのかしら?」


 また、煽り口調で話してくる魔女。ただ、前回と違うのは、他の魔女をはべらせていないことくらいか。


「し、知ってます。あ、あちらも多分、魔導砲を使ってくるだろう、と」

「そうですわね。しかも、その実力も分からない相手。(わたくし)も、今度ばかりは覚悟を決めねばなりませんわ」


 物騒なことを言い出す魔女だが、しかし、前回とはどこか雰囲気が違う。この魔女をは、続ける。


「おそらくは敵の新鋭戦艦である、キング・オブ・インヴィンシブルがその魔導砲を使い、震洋目掛けて撃ってくるつもりでしょう。ですから我が櫻火は、全力でその魔導砲の発射阻止を行う。あなたは、その敵の戦艦を沈めること、ただその一点だけを考えることね」


 前回とは異なり、サヨを援護すると言わんばかりの言いようだ。それを聞いて、サヨは黙ってうなずく。


「ところであなた、これまでとは違い、第三射まで撃つことができると、そう聞いたのですけれど?」


 この問いには、僕が答える。


「ホセ島の石碑から、その技を習得した。ただしそれは、周囲の空間上を覆う魔力(マナ)を使うため、第四射をした途端、周辺海域で物理的な崩壊が起って大変なことになる。それほどまでに、危険な技だ」

「ですがおそらく、三連装砲の魔女は今回の戦いで、その第三射目を使うと(わたくし)の占いには出ております」

「……どういう、ことだ? たかが一隻を狙うのに、どうして第三射が必要だと?」

(わたくし)にも仔細はわかりませんわ。ですが、安国神社の巫女には未来を予知する力があるのです。ですから、その切り札をつかうことになると、そういうお告げがあったこと、予め知らせに来た次第ですの」


 そう言うと、魔女のヒトツバシ兵長はその場を去る。その話を、唖然として聞いていた。


「言われてみれば、安国神社の巫女は『予言の神』を召喚して、先に起きるであろうことを神託として受け取ることができると聞いたことがある。もしも今の話が本当だとしたら……」


 僕はそう話すが、さっきまでの威勢のよさはどこへやら。第三射まで使う羽目になると聞かされて、その厳しさに押しつぶされそうになっている。


「……としてもだ、その第三射で、僕らは勝利する。つまりはそう言いたかったんじゃないのかな、あの巫女さんは」


 僕はサヨを安心させるため、そう告げる。だが、笑みを浮かべるものの、その表情は暗い。


「勝てるよ、次の戦いでも、僕らには戦艦のみならず駆逐艦にすら魔導砲がある。皆が力を合わせれば、必ず勝てるさ」


 今までだって、決して楽な戦いなどなかった。バリャルーヤナ艦隊はいつもこちらよりも多数で現れ、通常なら勝ち目などないほどの劣勢をはねのけてきた。

 この男恐怖症で、一見するとひ弱そうなこの魔女の力さえあれば、相手が変わろうとも負けるわけがない、僕はそう自分にも言い聞かせた。

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