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#10 会敵

 西方列強は、どちらかといえばバリャールヤナ連邦国寄りだ。

 決して仲がいいわけではない。むしろ、西方列強国内ではバリャールヤナ連邦国と敵対している国もある。が、小国ながらも急速に軍事力をつけてきた我々を警戒し、バリャールヤナ連邦国に肩入れする列強諸国も現れた。

 我が東方連合皇国と、その北側に位置する大国のバリャールヤナ連邦国とは、細いスレイン海峡を隔ててつながっている。その先に並ぶ島々には石油やゴム、金属、そして大麦の田園地帯を抱える大小さまざまな島がある。先に戦闘を仕掛けてきたのはバリャールヤナ連邦国だが、ちょうど登場したばかりの魔導砲という超兵器のおかげで、逆に我々が彼らの領域へと攻め込む結果となった。

 その際、西欧列強国は我が国に石油の禁輸措置をしてきた。それゆえに、余計に我々はバリャールヤナ連邦国の島を奪取する羽目になる。そこにある資源が狙いだ。

 それゆえに、バリャールヤナ連邦国からの侵攻を阻むためのスレイン海峡攻略戦が行われた。


 ところで、サヨは開戦から一年、戦いに参加していない。正確に言えば、参加できなかった。

 男恐怖症もあるが、それ以上にサヨの多過ぎる魔力(マナ)を許容できる魔導砲が開発できなかった、というのが大きい。ようやく三連装砲化した魔導砲を作り上げ、この強力魔女を戦線投入できるようになるのに一年も要してしまった、ということだ。

 それほど強力な魔女が、前線に現れた。これは我が国のすぐそばまで植民地を抱える西方列強にとっては、脅威でしかない。


 どうして、魔女という存在があるのか? 西方列強や、他の国ではほぼ壊滅させられてしまった魔女を、我が国だけが巫女として祭り上げることで生き延び、それが結果的に戦況を大きく左右する存在となった。

 が、そもそもどうして魔女なるものが存在しているのかについて、まったく分かっていない。この世界における、大いなる謎だ。

 しかし、その謎のカギを握っているのが、我が東方連合皇国しかない。


「どうしたの? じーっと私の顔を見て」

「いや、何でもないよ。ちょっとサヨの顔を見ていたくなっただけさ」


 そう言うと、すこし笑みを浮かべつつじっと僕の顔を見つめてきた。いい雰囲気ではあるが、まさか艦内でやましいことをするわけにはいかない。僕は第二砲塔内の点検整備を再開する。


「今度も、勝てるのかな」

「さあ、どうだろう。だけど、スレイン海峡での戦いならば、あの狭い場所での撃ち合いになるから、攻勢に出られる敵の艦艇数も限られるだろうから、タイミングさえ間違えなければ上手く戦えるというのが、参謀長殿の話だ」

「そんなに上手くいくのかなぁ」


 考えてみれば、本来は男だけが駆り出される最前線に、魔女というだけで連れてこられたわけだ。すでに今までに、我が国の魔女は三十人近くが亡くなったという。魔女だから、無敵というわけではない。艦が沈めば当然、運命を共にすることもあるし、陸上戦なら接近戦でやられてしまう場合もある。

 幸いなことに、第二艦隊は駆逐艦を失ったものの、その魔女は脱出し無事だ。新たに建造された駆逐艦に移乗し、戦うことが決まっている。

 そう考えると、我が艦隊の魔女は、まだ運がいい。

 この運の良さが、続いてほしいものだと願う。


「明日の夕刻、いよいよ戦闘開始となる」


 その日の昼に、甲板に集められた第一砲雷科全員は、砲雷長から状況を伝えられる。


「ともかくだ、得意の夜戦で敵を徹底的に叩きのめす! 全身全霊をもって戦いに臨め!」


 砲雷長にしてはまともなことを言う。ということで、ここは全員で敬礼し、早速戦闘準備に入る。僕は第一砲塔へと向かう。


「おい!」


 と、そんな僕を、砲雷長が呼び留める。またか、と覚悟を決めて、僕は振り返りつつ、敬礼する。


「はっ、何でしょうか!?」

「魔女殿の様子は、どうか」


 変なことを聞く砲雷長だな。僕は正直に答える。


「はっ、特に問題なく、健康体でございます」


 なにせ、隅々まで見た結果だから、間違ってはいない。が、その報告を聞いた砲雷長はこう答える。


「そうか。では、持ち場に戻れ」


 あれ? いつものように理不尽に殴りつけてくるのかと思いきや、そんなことはなかった。どういう心境だ。つい先日は僕に無言で殴りかかってきた相手とは思えない。

 逆に気味が悪いな。いや、殴られたいわけではないのだが、いつもと違い過ぎる行動に、そら恐ろしいものを感じる。

 が、これまでの行動から、僕なりに合理的な解釈をしてみた。

 そう言えば、砲雷長は前回の帰投前に、サヨに威圧的な態度を取っていた。もしかすると、そのことを艦長か参謀長からきつく注意されたのではあるまいか。

 だからこそ、出港直後は機嫌が悪く、一方で今は気を使っていると言わんばかりの行動に出た。なるほど、これならば筋が通る。

 が、いくつかの不可解な点もある。最近、食事を自室で摂るようになったこと、そして停泊中もなんどか震洋に通い詰めていたという事実だ。これらが、結びつかない。

 まあ、元々が不可解なお方だ。今さら詮索しても、仕方あるまい。そういう奇妙な人物なのだと、僕は自身に言い聞かせる。

 そこから砲弾、弾薬の点検や砲身内の清掃といった、砲撃戦闘準備に備える。なお、第一砲雷科にも担当する魚雷発射管が左右に一門づつある。ちょうど第一、第二砲塔の間にあるそれは、主砲の間に設置されているということで第一砲雷科の担当だ。もちろん、そこにある魚雷の点検も我々の仕事だ。

 こうして、あっという間にその日は暮れて、第二砲塔の点検をしつつサヨと会話をした後、就寝する。

 そして、翌朝を迎えた。


『今夜、二一〇〇(ふたひとまるまる)、敵艦隊と会敵する予定だ。各員、夕刻までの間に休息を取り、今夜の戦いに備えよ。以上』


 艦長から伝声管越しに命令が来た。機関科や見張り員以外は、全員休息せよとのことだ。

 で、僕はといえば、第二砲塔の狭いベッドで、なぜかサヨを抱きしめながら寝ている。無論、やましいことはしていない。戦いを前に緊張して眠れないというサヨを抱き寄せて、安心させるためだ。

 おかげで、すーすーと寝息を立てて寝ている。そんなサヨの小さな身体を抱き寄せ、胸の辺りをぎゅっと寄せた。

 小さい身体だが、こういうところは発達しているな。いかんな、少し興奮しかかった。こんなことしてる場合じゃない、僕も寝なきゃ。

 こうして一、二時間ほど眠ったところで、ベルが鳴り出す。


『総員、戦闘用意!』


 おかしいな、まだ日は沈んではいない。まさか、予想以上に早く敵が現れたのか。僕は起き出し、第二砲塔の扉に向かう。


「なぁに、もう敵が来たの?」

「分からん。ちょっと見てくる」


 僕は甲板に出る。が、見渡す限り、敵がいる様子はない。しかし、すでに戦艦震洋の機関はうなりを上げ始め、最大戦速で前進しつつある。

 僕からは見えないが、これはやはり敵が現れたということだろう。


「艦内哨戒、第一配備! 総員、戦闘配置!」


 伝令員がこう叫びながら走り回っている。第一砲塔がまさに右方向に動き出している。僕は慌てて第二砲塔に戻る。


「今さっき、右砲戦、六十度に備えって、伝声管から指令が飛んで来たよ」


 サヨが代わりに命令を聞いていた。僕も慌ててレバーを操作し、右方向に砲塔を回転させる。そして、照準器を覗く。

 そこに見えたのは、単縦陣を組んだ敵の艦隊。距離はおそらく、二万メートル。すでに我が四十五センチ砲の射程内だ。


『敵艦隊、出現! 数、二十七! 単縦陣でスレイン海峡に突入せり!』


 予想以上に早く、敵が現れた。ただし、現れると想定された五十隻ではない。およそ半分ほどの数だ。

 だが、こちらも第一艦隊との合流を果たせていない。数の上では、不利なままだ。

 想定外の艦隊出現に、艦内は騒然となった。

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