『ギリシャ神話が攻略本』
双盾が、二つの首の噛みつきを受け止める。
「やるじゃん」
「やるねぇ」
「すごいねぇ」
「そりゃどうも、っす!」
お返しに盾でカウンターと行くが、残念ながらそこらの量産機兵とは違い効果は薄い。そもそもアルマをアタッカーとして扱うのが無茶なのだ。なので、攻撃は彼らに任せる。
「まずは光の弾なんていかがかしら?」
「どりゃ!!!」
前方からは怪異も切り裂く斬撃が、後方からはあくとうをこらしめる光の弾がハクジャに襲いかかる。並の敵ならまずこのコンボに耐えられない。耐えられているのは
「僕が並の敵じゃないから」
「強いからだねぇ」
「強いからなんだよぉ」
「これじゃキリがないっすね…!」
ダメージは与えられている、そこは認めよう。しかし、瞬く間に再生するから結局意味がない。不死身、というのは恐ろしいものである。
「やられてばかりじゃいないよぉ」
「キヒヒ」
「反撃するよぉ」
「しまった…!くそ、この首邪魔っす!」
ハクジャの中央の首がアルマを妨害し、残り二つの首がノアとルビーに襲いかかる。
「ちっ…!防御はあまり得意じゃないんだけどな」
「魔法ってのは攻撃だけじゃなく防御にも使えるのよ」
ノアは剣で首の攻撃をなんとか受け止め、ルビーは火の魔法を放つのではなく纏うことによって首からの攻撃を防御…それだけでなく、カウンターにも成功する。
「いった!??!」
「…?」
目に見えて痛がるハクジャを見てノアは疑問に思う。確かに、今までもハクジャは痛いだの言うことはあった.でもそれは、明らかに自分たちを揶揄う意図であって、本気で苦痛に悶えているわけではなかった。
「火の魔法って、こういうことにも使えるの。凄いでしょ?」
みなさんは、ギリシャ神話を知っているだろうか。ケンタウロスだのメデューサだのいろいろな魔物が登場するが…今回大事なのはヒュドラである。
「ギリシャ神話でヒュドラはどうやって退治された…?」
ノアは思考に耽るため一度戦線から離脱する。幸いハクジャが厄介なのは再生力だけであって、攻撃力、殺傷力はあまり高くない。考える時間は山ほどある。
ノアは記憶を辿りギリシャ神話を思い出す。ヒュドラは頭を切り落とすと二つの頭が再生するという特徴を持ち…
ヘラクレスは甥のイオラオスと協力し、頭を切り落とした後に火で焼き、再生を防いだ。
「わかったぞ…!」
アルマも、ルビーも知らないギリシャ神話の物語。なんだ、攻略法は既に先人がたどり着いていたじゃないか。
「ルビー、力を貸してくれ!」
ノアはハクジャへと駆け出し、名案を思いついたと仲間たちに伝える。
「……私を呼び捨てにするとはね。この状況じゃなかったら首をはねてたわよ。」
「まず俺が剣であれの首を一つ切り落とす!そしたらお前は切り落とした首の傷口を焼いてくれ!」
そうルビーに伝えると同時に、一気にハクジャの雰囲気は変わる。
「「「それは容認できないわねぇ」」」
あれだけヘラヘラとしていたのに急に凍てつくような表情へと変わった。なるほど、やはりノアの考えは間違えていなかったようだ。
しかしそれは同時に、ハクジャを本気にさせたことを意味する。三つの首が全てノアに向かい、一気に勝負を決めようと…
「させないっすよー!!!」
「なに!?」
「なんと??」
「や、やるねぇ…」
中央の首と左の首がアルマによって妨害され、ノアへの攻撃に失敗する。
そして…
「ルビー、今だ!!」
ノアはハクジャの右の首を切り落とし、そうルビーへと叫ぶ。
「分かってるわよ。"トッピング"してあげる。」
火の魔法で切り落とされたハクジャの首の傷口が焼かれ…
「「痛いいたい痛い!!!」」
「あぁ、なるほど…そういうことか」
傷口を焼かれて苦しさで悶えるハクジャを見てルビーは納得した。
今までと違って、首が再生してこないのだ。
「ノアさんやるじゃないすか!!」
「俺はあくまでギリシャ神話のヒュドラを思い出しただけなんだけどね」
再生のカラクリをうち破いたノアにアルマはそう目を輝かせて褒めるが、ノアは大したことではないと卑下する。
「もう油断しないよ」
「全力で倒すよ」
まず傷口を焼くには首を切り落とす必要がある。それができるのはノアだけだ。ルビーも首を吹き飛ばすことは可能だが…傷口を焼くための火の魔法を行使するまでには既に再生が完了している。
つまり、ノアにだけ気をつけておけば脅威では…
「もうやり方は分かったわ。トランプゲームより簡単ね?」
死角からハクジャへと迫ったルビーが光の薙刀で残り二つの首を切り落とした。この光の薙刀はとても熱く、傷口を焼き切るには十分なほどの温度がある。
だが、ハクジャに関して一つ気をつけなければならないことがある。それが…
「もう許さないよぉ…!!!」
中央の首だけは不死身であり、熱で焼き切っても再生するということだ。
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「絶対に許さないよぉ…!」
前提条件として、ウサギとはヘビのエサである。そのウサギに長年連れ添った二首を切り落とされるというのはどういうことなのか。人間にペットとして飼われてるような軟弱かつ脆弱かつ醜悪な種族をこれ以上調子に乗らせるわけにはいかず、断罪が必要である。罪は償うもの、命を持って支払え。
「あのウサギの首を切り落としボスに献上したら絶対喜ばれるよぉ…!」
我ら『四ノ厄災』は全てボスのためなら命すらも捨てられる。彼が喜ぶのならなんだってする…しかし、何故ボスはあのギャンビッターとやらに従っているのか理解が追いつかない。ボスこそが、世界を滅ぼし真の"世界平和"を成し遂げるべき存在なのに。まあ、よい。
ハクジャは既に冷静な思考などできなくなっており、ただ憎きウサギを追いかけることしか考えることができなかった。
「見えたよぉ、とっても焦ってるよぉ、キヒヒ」
見えた、自分に後ろ姿を向け情けなく走るウサギが。変な音は聞こえたが、まあ問題ない。まさか自分が不死身だとは思っていなかったのか?とっても焦っている。こうなりゃ、あとは追うものと追われるものの関係だ。狩りというのはこうでなきゃ。
「人間のペットごとき、諦めて養分となるんだよぉ」
しかし、ハクジャは気づけなかった。
真の意味で狙われていたのは、自分だったことに。
「ヘラクレスは不死身のヒュドラに大岩を載せて生き埋めにして勝った」
「!?」
どこからか聞こえたノアの声に、ハクジャは驚く。そして…
その声が聞こえると同時にビルが崩落し、ハクジャを生き埋めにしようと瓦礫が迫る。
「な!?」
ハクジャは唖然として動くこともできない。もちろん、動けていてももはや全盛期の3分の1となってしまった力では間に合わなかっただろうが。
瓦礫が凄まじい音を鳴らし、地響きを鳴らしながら不滅のハクジャを生き埋めにした。
「君を倒す方法なんて、神話の時代からわかってたんだよ」
これにて、ハクジャ攻略戦終結である。