『揃いし三人の勇者たち』
「———なるほど、つまり今はガンダーラ軍本部へ乗り込むために五つのエリアの攻略と洗脳された者たちの解放をしていて、アルマはこの『死の街』を担当してるってわけか」
「そうっす。だから、ノアさんとルビーさんの力が借りたいわけっす」
ノアやルビーに現在の状況を伝えたアルマは、ノアからの確認にそう肯定する。さて、どうやらこのノアもルビーと同じく何者かにより不意打ちされ、気づいたら洗脳されていたらしい。幸いどうやら洗脳されてそんなに時間が経ってないところで発見できたため、量産機兵たちに完全に連行される前に助け出すことができたが。
アルマやルビー、そして自分自身もポータルに吸い込まれてこの世界へとやってきた。ガンダーラ軍と自分に最も身近であった問題、"怪異"が何か繋がりがある線は…しかし、怪異はもう完全に解決したはず。となると、それらは無関係と捉えるのが妥当か…?
神妙な顔をして考え事をするノアを横目に、スプーンで野菜スープを掬っていたルビーがこう話す。
「でも最初に会ったのが友達のアルマでよかったわ〜もしそこのニンゲンだったら八つ裂きにしてたもの」
「物騒すぎる…まあでも、二人は元々知り合いだったんだな」
「そうなんすよ〜昔ルビーさんの世界にアニキやリヴァさんと飛ばされたことがあって、そのとき危機的状況だったところを助けてもらったんすよ。そして元の世界に返してもらったっす」
なるほど、初対面の異世界の人間同士のはずなのに何故か仲がいいとは思ってたが…そういう事情があったのか。
む、待てよ。
「なぁ、アルマ…もしかして、君も人肉を食べる主義なのか?」
「ちげーーーっす!!!ルビーさんと一緒にしないでほしいっす」
「あら、アルマも食べてみれば気に入ると思うのだけど」
あらぬ誤解を受けて激怒するアルマと、そんなアルマに対して人肉料理を推奨するルビー。まあ仲はいいとはいっても、そこで満場一致されてたらガンダーラ軍だけでなくクリフサイドにも気をつけなければならないことになっていたので、助かったとノアはホッと息をつく。
さて…話がずれたので戻そう。
「でもルビーの能力でそれぞれの世界へ帰れるのにそれを使わないってことは……」
「僕たちの世界だとアニキ…ディノスとリヴァさんが。ルビーさんたちの世界だとアリスが消息不明。帰るわけにもいかないんすよ」
「…そうだろうな」
「それに、このまま帰っても何の問題解決にならないわ。またいつ、このような事態が起こるかわからないんだもの」
その通りである。それぞれの元の世界へ帰ったとしてもそれは問題を先延ばしにするだけであり…何せ、あのメギドラですらも闇の世界にアクセスができないほど強力な制限をかけることができる存在がいるのだ。ここで諸悪の根源を潰しておかないと、今よりも大惨事となる。しかし…
「ルビーの能力でそれぞれの世界から強い者を連れてくる、というのはできないのか?」
そう、ルビーは世界と世界を繋げる能力がある。それならば、元の世界から様々な強者が連れてこれそうなものだが…
「甘いわ、ニンゲン………なぜそれをしないかというと、一つ目は元の世界の防衛。全勢力を持ってきた結果帰る頃には王国は既に焼け野原…とか目も当てられないわ。二つ目は…」
ルビーは一度紅茶の入ったカップを手にし、それを唇につけ飲み、そしてカップを置いて続きを話す。
「他のエリアはまだマシだとは思うけれど……この街はおそらく単純な力でどうにかなるものじゃない…———明らかに、異質すぎる」
この街の情報が全く出てこない。それはつまり…この街から無事に帰ってこれた者はほぼいないことを示しているのではなかろうか。あまりにもこの街の戦力は強大すぎるということは、薄々全員わかっていた。
おそらく下手に強い者を連れてくるよりも、こうやって三人という少数で行動した方が動きやすいだろう。それに敵の戦力も把握できていないのに、"切り札"を使うのは間抜けもいいところである。
「…状況はかなり深刻みたいだな。わかった、みんなで協力しよう。そしたらできないこともできるようになるはずだ。実は俺たちの世界でもシエルにアイリス、あと大丈夫とは思うがルイズがこの世界に飛ばされてきて、そして行方不明でな…」
ノア、ルビー、アルマは手を合わせごちそうさまでしたと呟く。自分の血肉となってくれる食材たちに感謝を表すまでが大事な料理の"一環"である。その感謝の気持ちは決して忘れてはならない。ノアは席を立ち、ルビーは杖を持ち、アルマは盾を再び装備する。
「それじゃあ、休憩も済んだ。アルマ、ルビー、行こうか」
「ちょっと、何故ニンゲンごときが勝手に仕切ってるのかしら…?首を刎ねても文句は言わないでちょうだい」
「ルビーさん、仲良くっす!!!」
思わぬところで反撃を喰らい困惑するノア、アルマがいなければ間違いなくニンゲンなんかと行動していないルビー、そんな彼らをなんとか引き留めるアルマ。
一見奇妙な三人組であるが、実は……
この三人こそが、超難攻不落のエリア5『死の街』を攻略する上で他の誰よりも最適性であり、そしていずれ闇の世界の歴史にも名を残す三人の勇者なのであった。