『憤怒の地団駄』
ここは死の街、部外者は生きるということすら罪になる街。ほとんどの者が次々極刑となっていく中、氷結の魔女だけはかろうじてそれを避けこの街の探索を続けられていた。
リヴァは力尽きて横たわる量産機兵が最後の抵抗として発射させた砲弾を避け、お返しに竜の姿となって踏み潰す。もし周りにディノスがいたらオーバーキル、と言っていただろう。もっとも、ディノスは助けられなかったためここにはいないのだが。
「余計なこと、言ってんじゃねぇなの」
さて、リヴァは冷気を辺りに漂わせあらゆる雑兵たちを捻り潰している。雑兵に何も価値はないが、かといって放置しておくと不都合が発生する。なので片っ端から雑兵たちを引き裂いているのであった。返り血は水で洗い流すから問題ない。
悍ましいこの街を歩いているわけだが、気づいたら至る所にこびりつく赤く蠢く謎の物体が増えてきたような気がする。おそらく何が良くないものだろうと勘づきリヴァも最初は見つけ次第潰していったのだが、あまりにも尋常じゃない数がこびりついていたのでこれらの根絶は諦めた。
さて、リヴァはかろうじて崩壊していないビルの上からこの街を見下ろす。風がまるで帰れとでも言ってるかのように頬を伝い、リヴァへと警告するが彼女は全く動じない。
「あれは……オルタナクラブ、なの?」
オルタナクラブ。それはクリフサイド本部を襲ったデカブツの名前でもある。遠目でよく見えないが、特徴から察するにオルタナクラブまたはそれの仲間とみた。
だが、オルタナクラブはピクリとも動いていないようだ。何者かに倒されたか…それなら、リカブトやパセリなどのように生存者がいるはずだ。行ってみるに越したことはない。氷はビルから飛び降り、オルタナクラブの残骸を目印にその地点へと向かう。
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「…」
リヴァは辺りから熱を奪いながらも目的地へと辿り着き、辺りを見渡す。オルタナクラブの残骸の付近には…生存者、だった者たちがいた。もはや見てもいられないくらいにはぐちゃぐちゃに液状化した凄惨な死体があった。溶けた死体たちは重なり合っていて、もはや個人を識別することなど不可能。
「———おげ」
心労と、長時間この街を探索していた疲労と、吐き気を催す異臭と。リヴァは堪えきれない嘔吐感のままに、胃袋の中身を一気に床に吐き出す。胃液と混ざり、ドロドロになった内容物が、酸っぱい臭いと共にこの濁った大地へ向かって放射される。
「おぇ、ごべぇ———げほ、げほ」
胃は嘔吐を続けさせるよう脳へと指令し、脳もそれに従う。嘔吐の理由には精神的なものもあるし、肉体的なものもあるし、物理的なものもある。だが、一番の理由は。
———僅かではあるがディノスも目の前のこれのように冒涜的な死をこの街で迎えてしまうのではないか、と脳裏によぎってしまった。
一瞬ではある、そんなことはない、決してそんなことはないのだ。ディノスは誰よりも強いと何度も目の前で立証させられたではないか。最後には必ず助けにきてくれるはずだ。
———しかし、一瞬とはいえディノスのことすらも信じれなくなってしまった自分が憎くて、嫌いでたまらなくて。
「はぁ…はぁ」
呆然と自らの吐瀉物を、口元にこびりついた吐瀉物を拭うことすらも忘れて見下ろしていると…次第に自らに対する怒りと嫌悪と憎悪で満たされてしまった。リヴァは吐瀉物を極寒で凍らせると、足で必死に踏み砕きはじめた。
「———こんなものこんなものこんなものこんなものこんなもの!!!!!」
凍てついた想い人に対する冒涜の汚物をまるで子供が癇癪を起こしたかのように踏み散らす。汚らしい氷は音を立てて破片を辺りに散らし、ポタポタと氷が瞼から穢れた地面へと落下する。その様子に現れた雑兵たちも恐怖を覚え、蜘蛛の子を散らすかのように逃げだす。
氷結の絶叫は、この街に鳴り響く。
踏み砕かれ悲鳴を上げる氷はもうないというのに、それでもリヴァは足を振り下ろすのを止めない。止めてはならない。なぜなら、目の前にあるのは自分の英雄への冒涜に等しい汚物なのだから。
その後も我を忘れて怒りのままに足を振り下ろし続け、地形すらも変形して大きく歪んだころにようやく落ち着いた。リヴァはようやく冷静に分析を開始する。
「………多分、あっちにこれをしでかした犯人がいるなの」
おそらくはこの街の支配者または幹部…特級戦闘員ではないだろう。おそらくこのオルタナクラブを倒したのはかつて生者だった目の前の液状化した死体たち。オルタナクラブを倒せる猛者が特級戦闘員に遅れを取るとは思えない。
こうして、リヴァはさらにこの街を進むのであった。




