『何も守れない、何も救えない』
「……ダメだったなの」
銀髪兄妹と別れて一時間後。一足先に戻ってきたリヴァが念の為に物陰に身を潜めながらリカブトとパセリの帰還を待ったが…やってきたのは、数体のシャドウロイド。
——そしてシャドウロイドたちはその漆黒のボディーに血や肉片、銀の髪の毛を付着させていた。
「————ごめんなさいなの」
リヴァはその地を離れながらリカブトとパセリに対して謝罪の言葉を告げる。彼らは許してくれるだろうが、残念なことにこの謝罪の言葉が彼らに届くことはもうない。そこの髪の毛と肉片を人として見做せるなら別だが。
全てはリヴァの判断ミス、この街で効率なんて傲慢なものを求めてしまったリヴァの判断ミスだ。その結果がこれだ。
「ごめんなさいなの」
瞼から氷が道路に溢れながら、氷の竜はその地を去っていく。氷は内心で荒れ狂い、自らが犯した罪を赦すことはなかった。
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「グギ…」
「どこからこんな力が…」
「ちょ、待」
「何も言うことはねぇなの、死ね」
悲劇の地を離れたリヴァは再び雑兵狩りを行う。氷が次々と雑兵を貫き、もはや逃げ惑うことすら許されない。ある者は恐怖を、ある者は困惑を、ある者は敵意を押さえられることなく全てが朽ちていく。冷気は生命体を全て凍てつかせ殺す。
「結局ここにも特級戦闘員はいないなの」
死の街の中央部は危険だろうからまだできるだけ近づかないようにしているのだが、そうなると特級戦闘員とは中々エンカウントできない。ここは危険を承知で中央部に行ってみるべきだろうか…もしかしたら何がそこにいい情報があるかもしれない。
しかしもちろん中央部に近づけば近づくほど危険度は上昇していくだろう。捕まって捕虜や洗脳だけでとどまるならまだよい。だが捕虜も洗脳もどちらにも言えるが、もし解かれてしまったときの損害が大きいのならば殺してしまった方が安心だ。自分ならそうする。
身を最大限潜めながら活動しているからまだリヴァは彼らの餌食になっていないが…ここまで暴れているのだ、おそらく目をつけられているに違いない。殺される可能性も高い。
「死が贖罪となるなら、私はやるなの」
だが、今のリヴァにとって死は脅しとならない。ディノスを助けられるなら、リカブトとパセリがそれで許してくれるならば、みんなが幸せなら…
リヴァがそう考えていたそのときだった。どこからか、非常に聞き覚えのある音が耳に劈く。
「これって、もしかしてなの…!?」
その雷鳴にはとても聞き覚えがある、というか聞き覚えておかなければならない。
————それは、ディノスが放った技によって発生した音で間違いないからだ。いつもいつも、隣で聴いている雷鳴。
ディノスは何者かに無理矢理この世界に引き摺り込まれたはずだったが…彼のことだ、なんとか無事だったのだろうか。ともかく、それならまず最優先はディノスとの合流だ。
最悪ディノスが洗脳されていたとしても、洗脳されているディノスになら余裕勝ちだろう。操り人形のディノスに負けるほどリヴァもヤワじゃないのだ。
「まあ普段のディノスは最強なの、あの人が本気で作戦立てたら勝てるやつなんざ誰一人いねーなの!!!」
リヴァは屋根から屋根へと飛び移りながら音の発生源へと近づいていく。氷を撒き散らしながら、潜伏することすらも忘れて、世界で最も頼りになる人の元へと一心不乱に駆けつける。
しかし、一つここで言っておかなければならないことがある。有能な支配者が洗脳者というダイヤの原石を野晒しで放置しておくかと言われたらもちろん…否、である。
ようやく正気に戻り身を潜めながら活動し始めたリヴァは音の発生源へと辿り着いた。
———いた。洗脳こそされているが、向こうにいるのは間違いなくディノスだ。しかし…そこにいたのはディノスだけではなかった。
「———アリスさんに、もう片方は大人の女性…全員、洗脳されてるなの」
洗脳者はそれぞれ単独行動している…と聞いたのだが、どうやらこの街では洗脳者は集団で行動をしているようだ。確かにそれぞれ別で動かれるよりかは、まとめて動いてくれていた方が管理もしやすいのだろう。
だが、甘い。確かにこの街の洗脳者は他のエリアと比べると比較的強いとは聞いたが、それでも本来のスペックはまだ出せないだろう。見た感じは彼らの強さもまだまだ発展途上、今ならリヴァ一人でも余裕勝ちだ。今すぐに…
「集団で動いてるなら管理がしやすい…」
今すぐリヴァはディノスたちを洗脳から解き放とうとしたが…動こうとした直前に、ある一つの疑念が思い浮かび硬直した。
———洗脳者は、時間が経てば時間が経つほど強くなる。この街の支配者が、いずれ大きな戦力となる彼らを野晒しで置いておくだろうか。
「ディノスたちは、撒き餌として使われてるなの…?」
この街の洗脳軍団はいわゆる"撒き餌"。彼らを解放しようと近づいてみろ、すぐさまこの街の強者たちがリヴァたちを処理しようと集まってくることだろう。
まだ敵戦力も十分に把握できていないのだ、今ここでディノスたちを洗脳から解放してこの街の主戦力と激突する余裕などない。
「ディノス」
リヴァはそれだけ言葉を発し、踵を返し元の場所へと歩いていった。でも、それでも。
「ディノス」
どうしてもリヴァは諦めきれず、もう一度だけ振り返る。近くにあって遠くにある大切なものへと向かって…手を伸ばしたが、すぐにその手を降ろす。リヴァではディノスを助けられない。
すぐ近くに大切な人がいるというのに、彼女ができるのは遠目で彼らを見ることだけ。彼女では彼らを助けることはできない…と世界に暗に告げられているというわけだ。
おねがいですもうやめてくださいわたしはあのひとといっしょにいたいだけなんです。




