『希望の生存者たち』
「ボスは何やってるのかなぁ」
「ボスは忙しそうだったねぇ」
「僕たちも頑張らないとだよぉ」
この白き三つ首の大蛇の名前は「ハクジャ」。エリア5のボスに仕える幹部『四ノ厄災』の一人である。ハクジャの役割は基本的に生捕り担当。先日もシエルという名前の女性を打ち倒し洗脳していた。
まあ生捕り担当と言っても殺しをしないというわけではなく、洗脳するリターンよりももし洗脳が解除されたときのリスクが上回れば殺すことも少なくない。さて、ハクジャはその三つの首を上げて愚かな挑戦者たちを待ち続けるのであった。
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「ハイジョ!!」
「敵ハ女一人!」
「私が求めてるときに限って特級戦闘員とでくわさねぇなの…前々から思ってたけど、ほんとについてないなの」
もはや何度目かすらわからない雑兵戦にリヴァはうんざりする。彼女が求めているのはこの街の末端ではなく幹部クラス、雑兵などに用はないのだ。
さて、リヴァに対して愚かにも突撃という選択肢を取ってしまった雑兵には凄惨な末路が待っている。
もはや攻撃すら不要。リヴァが竜化するだけで愚者たちはリヴァの下敷きとなってぺしゃんことなり、あっけなく命を落とす。
ただ今回は取り逃がしが出てしまったので氷の礫で追撃を仕掛け取りこぼしのないようしっかり倒す。
そんなこんなで何度目かもわからない雑兵戦もこれにて終結。しかし、こんな弱っちぃ雑兵よりも圧倒的にリヴァの心を抉り取るものがある。それは…
「ちゃんと供養できなくて、ごめんなさいなの。とりあえず今は土の中に埋めておくなの」
このエリア5で命を落としたであろう勇者たちの亡骸だ。リヴァにとってこれらの雑兵は大したことないが、それはリヴァが強者だからである。
一部の超越者を除き多くの者にとっては雑兵ですら脅威であり、そして大量の雑兵を目の前になすすべなくやられた者たちも少なくない。リヴァは無惨な姿の亡骸を土の中に埋めたあと、自身についた腐った生臭い血を水で洗い流す。
水は専門外ではあるが、氷魔法を応用すれば水も難なく生み出すことは可能である。流石に戦闘で実用可能なほど水を上手く扱えるわけではないが。まあ、よい。
リヴァが転がる死体たちを片付け終えた後、何か遠くから声が聞こえた気がした。
「兄ちゃん、あの女の子もひょっとして敵かも…?」
「待ちなさい妹よ!…辺りに大量の機械兵の残骸が転がっている。おそらくあの少女は我々の味方だ!」
「…何者なの?」
リヴァが杖を構え冷酷にその奇妙な銀髪の二人組を睨む。片方は美青年、片方は少女。美青年の方は薙刀を持っており、少女の方は鎌を持っている。このエリア5を闊歩しているのだ、ただ者ではないのは確か。警戒を強めるリヴァに対して大男は慌ててこう話し始める。
「待ってくれガール!俺たちゃお前さんの敵じゃねぇ。俺はリカブト、こっちの可愛い妹はパセリだ!俺たちもこの街を探索してたってワケさ」
「む、そうなの…失礼しましたなの、私の名前はリヴァ。よろしくなの」
どうやらリヴァは初めての生存者と出会ったようだ。半ば諦めかけていたが、こうして生存者と出会えるとなると中々嬉しいものだ。
「気にしなくていいぜ姉ちゃん!私たちも行く残りとあったのは初めてだしさ。なぁ兄ちゃん」
「そうだとも妹よ!何せこの街に入ってから見かけるのは機械兵とかだけでね。うんざりしてたところだよ」
「私も同じで助かったなの…ところで、よくこの街にいて無事だったなの。特級戦闘員とかには襲われなかったなの?」
そう、そこである。何もこの街は雑兵だけではない。特級戦闘員という上位戦闘員…おそらくもっと上がいるとはいえ、そんな彼らもいるのだ。並大抵の者は彷徨いて無事でいられるわけがない。
「特級戦闘員…あぁ、あれのことか!なら心配いらねぇ。ちゃんとぶっ倒したさ!」
「大丈夫さ姉ちゃん!私たち、こう見えて結構強いから」
「おお、マジかなの!」
どうやら心配無用だったみたいだ。彼らもかなりの猛者、少なくとも特級戦闘員を倒せるだけの力はあるようで…これはかなり心強い味方ができたとリヴァは安堵する。
「確か倒したやつの話によると特級戦闘員の数は全部で………妹よ、何体だっけ?」
「7体だよ兄ちゃん!リーダーのアルベロにゾレイク、ジェルテオ、マドラス、トタラ、ドラグル、そして私たちが倒したのがメドア!ケンタウロスみたいなやつね!」
「おーーーーっとそうだった!すまない妹よ!」
「あ、私がドラグルは倒したからメドアも合わせてこれで残り5体ってわけなの」
予想外の収穫を得られてご満悦なリヴァはそう告げる。ドラグルからは全く情報を得られなかったわけだが、リカブトたちからはいい情報を得られた。だが、一つ気になれことがある。それは…
「特級戦闘員はおそらくこの街の幹部クラスではないと踏んでいるなの。何かそれ以外にも情報は得られなかったなの?」
「…すまないガール・リヴァ。一つだけそれで話しておかなければならないことがある」
リヴァがリカブトに尋ねると、リカブトは途端に声色を下げてこう話し始めた。どうやら特級戦闘員よりも遥か上の役職に『四ノ厄災』というものがあるようだ。しかし…
「私たちがそれについて聞き出そうとしたら、いきなり機械兵が現れてあの特級戦闘員にとどめを刺しちゃってさ!四ノ厄災についての情報は得られなかったよ」
「そう…なの」
よくよく考えたらそうだろうが、どうやらエリート戦闘員でも敵に捕まってしまえば見捨てられてしまうようだ。これは覚えておかなければならない、たとえ特級戦闘員を捕縛しても、周りの安全が十分に確保できていなかったらせっかく捕まえた特級戦闘員が殺されてしまう。これは肝に銘じておかなければならない。リヴァは自らの髪を少し撫でたあと、こう話した。
「むー、わかったなの。貴重な情報提供ありがとうなの」
「リヴァちゃんはこれからどうすんだい?あたしたちについてくか?」
「ガールリヴァ!固まって動いた方が俺たちもあんたも動きやすいと思うんだが」
せっかくの生存者、それも特級戦闘員を倒せるくらいの猛者。本来なら固まって動いた方が楽だろうが…リヴァは思案する。確かに安全度はそちらの方が高くなるだろうが、自分も彼らもかなりの実力者。それならば…
「いや、私もあなたたちも特級戦闘員を倒せるくらいの実力があるんだからここは手分けして情報を集めた方が得策なの。今は一刻でも早く情報を集めてこの街の抱える戦力を把握すべきなの」
「オッケーだぜガール・リヴァ!まあそっちの方が効果は3倍だからな!」
「兄ちゃん、あたしたちは2人で行動するから効果は多分2倍だと思うよ!」
ということで、銀髪兄妹とリヴァはひとまず別れて行動し、定刻にまたこの場所へと集合することになった。難攻不落のエリア5だが、少し希望が見えてきたとリヴァは安堵した。この絶望の街を、少しずつ、少しずつ攻略していこうではないか。




