『聖龍、ここに参戦』
高貴なウサギの女王を護るかのように現れた人型の偉大な聖龍は、虹色のオーラを纏いながら魔龍と相対する。
「あの、メギドラさん?その虹色のオーラはなんっすか」
アルマは地面に這いつくばりながらも疑問に思う。今まで虹色のオーラなんかメギドラが纏ったことはない。あれは、なんなのか。
「これ僕もよくわかんないんですよね。でもなんかいつも以上に力がみなぎってきますね…例えるなら、にゃんこの使徒キラー究極」
説明しよう。これはどういうことかというと、世界が勘違いをしているのだ。世界が勘違いをするほどの魔法を使用してみせたルビーもかなりの凄腕である。つまり、メギドラを拠り所の世界による恩恵がかかったまま召喚することに成功したのである。
また、このフィールドは擬似おろちばーすの世界であるのだが…そのせいで拠り所の世界が誤認をしてしまい、そこから更にメギドラに拠り所の世界の補正がかかっている。
ルビーの手腕と環境的な問題、それが産んだ奇跡。
そう、メギドラは二重に拠り所の世界の補正を受けているのだ。よって、この日メギドラは最強の存在として己の使命を果たす。
「あなたをこの世界に顕現できるのは1分が限界…それまでに決着を頼むわ!」
ルビーのタイムリミット宣言と同時に第二ラウンドが開幕した。
だが、今この状態のメギドラに勝てる者はたとえ神だろうが決して存在しない。それは、目の前の魔龍すらも例外ではないのだ。
聖龍から放たれた小さな太陽と魔龍が吹いた死の吐息が相殺し…合わない。一瞬で吐息がかき消され、小さな太陽が魔龍に直撃する。
「一度討伐した後なんですよ?タネも仕掛けもお見通しなんですね!!」
「グァ…!」
一気にメギドラがグレイドとの間合いを詰め、グレイドもそれに応戦しようとする。
その戦いは、あまりにも一方的すぎた。
「どうしましたどうしました!?このくらいの攻撃も捌ききれないんですかね!?」
「…ッ!」
1発1発が世界に悲鳴を上げさせるほどの重さの連撃。グレイドは当然捌ききれない。見る見るうちに傷が増えていく。片方のツノも折れる。
「それ」
「グァ!?」
「こうか」
「…ッ!」
「さてさて」
グレイドはまるで竜巻にでも飲み込まれたかのように、虫カゴをゆすられる虫のように等速直線運動すらも許されず激しい連撃を喰らう。
挙げ句の果てにグレイドは地面に叩きつけられ、なんとか体勢を立て直そうとする。
忌々しい聖龍がこちらへ向かって小さな太陽を放とうとしているが…問題ない。この距離とタイミングなら避けられる。そう判断したグレイドだったが…体が動かない。これは、メギドラの特殊能力によるものだ。確か…
"鈍足"、と呼ばれていたかな。
「なんかここまでイキイキしてるメギドラさんは初めて見たかもしれないっす…」
「失敬ですね…!いやマジで」
グレイドはさらに小さな太陽を叩き込まれる。なんとか芯を避けることには成功したものの…掠ったグレイドの羽の一部が、吹き飛ばされてしまった。
しかし、ここまでグレイドをボコボコにしているメギドラは何故か溜息をつく。
「あ、これ本気出したら普通に世界ぶっ壊れますね」
今の聖龍はあまりにも強すぎる。通常攻撃で世界を難なくぶち壊せるほどには…それが問題なのだ。世界をぶち壊してしまってはグレイドだけでなくアルマにルビー、そしてノア…彼らだけでなく、ほとんどの者は死んでしまうだろう。メギドラはそのあまりにも強すぎる力をなんとか調整するのに苦戦しつつ、"あるタスク"をこなしながらグレイドをボコボコにしているのだった。
さて、これだけ大規模な戦いが起こっているとなると部下たちもすぐに異常事態に気づく。
「あれは…『シャドウロイド軍隊』か…!」
メギドラがグレイドと戦っている間にアルマやルビー、そして自分自身の怪我を魔法で癒していたノアが大量の影がこちらに向かって来ていることに気づく。
それは四ノ厄災とも並ぶ死の街の主戦力、シャドウロイド100体から成る軍隊である。彼らにはこの街を闊歩し、侵入者を排除する役割がある。まずは手負いの三人組を排除しようと少しずつ距離を詰めてい…
「僕の波動の確率もうちょっと上げてもいいと思うんですよね」
「「「!?」」」
メギドラがグレイドを蹂躙しながら片手間に放った波動、それは地面を抉りながらルビー達に少しずつ迫るシャドウロイド達を次々無へと還していく。8割のシャドウロイドたちは波動に飲み込まれ消滅し、残り2割は波動によって崩落したビルに押しつぶされた。
——『シャドウロイド軍隊』、壊滅。
小さな子供が親には勝てないように、この戦いにグレイドが勝つ方法はなかった。
「ッ!!」
グレイドもバカではない。何せ、相手にはタイムリミットがあるのだ。
その時間切れを狙ってとにかく逃げに徹しようと…
「今の僕はほぼツバメンズみたいなもんなんですよね〜」
「!?」
当たり前のように追いつかれ、とうとうグレイドの表情は恐怖のソレに変わる。
もっとも、その恐怖は間違えていないのだが。
当然、その賭けに負けた代償は己の身で支払うことになる。
守るべきものが増えると弱くなる。これがグレイドの信条だったし、実際メギドラも守るべきものを守っていたためグレイドに一度は追い詰められた。
「グァ…!」
そしてギャンビッターに命を救われ、彼に忠誠し、幹部となったグレイドも例外ではなかった、と彼も気づく。
四方八方から飛んでくるまるでハヤブサ、いやそれよりも遥か上をいく神速の連撃はグレイドにズシンと響く。切り刻まれたあまりの衝撃に地面に倒れ込む。
しかし『シャドウロイド軍隊』は役に立たなかったとはいえ…さらなる援軍が現れる。
「ヌボァァァァァ!!」
それは、エリア3から帰還してきた『苔蚯蚓』ザルドア。彼は地中から建物を破壊しながら現れ、メギドラを飲み込もうとする。その20mを超える巨体による攻撃は、流石の聖龍も…
「ほれ」
「ヌ…ァ?」
ザルドアはメギドラから放たれた小さな太陽に直撃し、肉片すらも残らず爆発四散する。ザルドアはその命を落とした。
———『苔蚯蚓』ザルドア、撃破。
「グァァァァァ!!!!」
しかし、魔龍グレイドはザルドアが一瞬生み出した隙を見逃さなかった。世界を震わせる咆哮が響き渡り、かつてメギドラを追い詰めた人質戦法を使う。大量の赤黒いエネルギー弾がメギドラ以外の全ての命を狙うが…
「そんなことさせないわよ!」
「くっ…流石にこの数を防ぐのはキツイっすね」
「まあ、防げないいわけではないけどね!」
数で言えばグレイドにも勝る大量の光球が半分のエネルギー弾を相殺させ、残りはアルマとノアが全て防ぎ切る。
ここには、満身創痍の状態で放たれたエネルギー弾も防げないような弱者は誰1人いなかった。そして…
「どこ見てるんですかね?」
「!?」
メギドラはグレイドが放ったエネルギー弾よりも圧倒的に強力なエネルギー弾を発生させ、グレイドはもろにそれに直撃する…!
「グォァァァァァ!!!」
流石と言うべきか、魔龍は瀕死の状態にも関わらずまだ諦めていないようだ。
だが…2度も同じ相手に殺されかけたことは肉体的なダメージとは別の、精神的なダメージとしてグレイドに蓄積していた。
もはやこの魔龍は立っているのもやっとな状態なのである。
しかし、勝利の女神はまだグレイドを見捨ててはいなかった。
「ごめん…もうタイムリミットかもしれないわ!」
あと一歩で魔龍を倒し切れるところでついにタイムリミットが来てしまった。
「もう相手は虫の息、あとは頑張ってくださいね!」
メギドラが元の世界、おろちばーすに強制転送された。だが、このことに絶望する者は誰1人いない。むしろここまでやってくれたのなら十分…いや、十分以上である。もう回復魔法はこれ以上使うのは限界だが…三人はほぼ万全の状態まで回復した。
「当たり前っす。さぁみんな、ここからが本番っすよ!」
魔龍グレイド攻略戦、開始である。




