『「長らく、待たせましたね」』
「可能だけど…きゃ!?」
「危ないっす!」
ルビーはノアの提案に対して深く感心し、実行可能と告げようとするが…命を刈り取る荒々しい風の刃がルビーの首と胴体を切り離そうと襲いかかった。
幸い威力を度外視し速さだけに拘ったものであったため、相対する魔龍の様子が少しずつ変わっていくのに気づいたアルマがなんとか先回りして盾で防ぐことに成功する。
当然風の刃を放った犯人は魔龍グレイド、しかし今までとは明らかに様子が違った。
それは、焦り。グレイドは声帯上言葉こそ喋れないが…言葉の意味くらいならわかる。そう…
——-彼らはなんと言った。何を、話していた。
あの忌々しい『聖龍』を、呼び出すだと…?
「グォォォォォ!!!!」
グレイドは対象の捕獲を諦め、彼らの殲滅へと切り替える。万が一『聖龍』メギドラを呼び出されてしまったら一気にこの状況も覆される。それだけは阻止せねばならない。
「…五秒、時間を稼いで。できるわよね?アルマ、ニンゲン」
「任せてくださいっす」
「任せろ」
ルビーが魔法を詠唱し始め、そしてノアとアルマはそれぞれ盾と剣を構え、目が光り世界も震えるほどの気を放つ本気のグレイドと相対する。
———勇者たちよ、本気の魔龍相手に五秒もの時間を稼いでみせよ。
「グォォォォ!!!」
わざわざアルマとノアを狙う必要はない。メギドラを呼び出すことができるのはルビーだけなのだ。よって一気にルビーに対して距離を詰めて切り裂こうとするものの…
「うおおおおおおお!!!」
しかしそれを予測していたアルマがグレイドに立ち塞がり、全力の突進を披露する。だがもちろん怯むどころかノーダメージ。
本気を出したグレイドはアルマたちでは止められない…否、このエリアではガンダーラ軍やクリフサイドなどなどあらゆる戦力を一気にこのグレイドにぶつけても間違いなく返り討ちにされるだろう。しかし今までとは違い、一つだけつけこめる隙ができた。それは後述する。
グレイドにとってメギドラやディオラムスなどは絶対に脅威になる…というよりも絶対に勝てない。ごっちゃになっていて世界も混乱しているというのだろうか、『拠り所の世界』の恩恵はほぼズルを使っているグレイドは例外として、誰も受けることはできない。
しかし彼らは別だ。この死の街は「おろちばーす」のものを模倣して作られた存在であり…世界が勘違いし、結果…拠り所の世界の恩恵を彼ら二人も受けてしまうのだ。それにグレイドが気づいたのは"巣"を完全に作り終えたあとだった。
しかし今更エリアを変えることもできず…それにこのエリアは狭く、だからこそ雑兵の密度を上げられるし管理体制も完璧なものを取れるためできるだけ変えたくもなかった。
だが、何度も言うようにグレイドも無能ではない。倒せないならどうすればよいのか…そう、そもそも戦いの土俵に上げさせなければいいのである。グレイドはポータルなどの特性をいじり、メギドラやディオラムスなどはこの闇の世界に入れないようにしてしまった。
そして念の為あらゆる者たちの能力を調べ、メギドラとディオラムスを召喚できる者はいないと確認した。当然だ、まず召喚…この場合は厳密に言えば世界と世界を繋げる魔法であるが。まあどちらにしてもそんな高度なことができる人間は限られている。
それに、異世界同士で接点などまずないものだ。いくら召喚なんて高度なことができるとしても、会ったことどころか名前すらも今まで知らなかった龍を呼び出せる人間など絶対に存在しない。
————しかしまさか、そことそこで繋がりがあっとは。
だからこそグレイドは非常に焦っている。とんだ伏兵もいたものだ、メガロやオチムシャ、シュガーなどなど…あらゆる絶対強者たちのデータや特性などは全て調べさせてもらった。
戦闘において情報というものは非常に重要なものである。彼らの手の内も全て把握し、そして彼ら全員に余裕を持って勝利できる…シュガーに関しては世界そのものを壊されては困るので人質戦法は使うつもりだったが。まあでも、そのはずだった。
『…我が身こそ金の鍵…』
だがグレイドは気づけなかった。目を瞑り世界と世界を繋げる魔法の詠唱をしているウサギの女王、ルビーが彼らよりも圧倒的に脅威であり、そして唯一の負け筋であることを。
だからこそグレイドは真っ先に彼女を潰そうとしたが…焦りというのは頭の回転を鈍らせる。本来のグレイドならあえてアルマやノアから狙うことで意表をつき、そしてルビーも殺害することに成功していただろう。焦っていたからこそ、アルマにその動きを読まれてしまった。
「グォォォォォ!!」
だが、グレイドのその圧倒的なフィジカルは健在。中途半端だと復帰されては困る、グレイドは徹底的にアルマを打ちのめす。最初の一発目は驚くことになんとか防いでみせたが…あくまでこれは連撃。そのあと続く二発目、三発目には耐えきれずアルマは倒れ込む。そして、とどめの四発目を喰らわせようとした。
「どりゃぁぁぁぁ!!!!」
「ッ!?」
だが、ノアが乱入してきたことでそれは阻止される。ノアはグレイドの死角から迫り、そして奇襲することに成功した。本来なら気づかれていたものの…グレイドが焦りに焦ってルビーだけにしか意識が行かず気配を読むのが遅れてしまったというのも成功の理由の一つではある。
光の双剣はグレイドの翼を突き刺そうとするも、残念ながらまたしても折れてしまった。
「グァァ!!」
「しまった…!」
グレイドは本来アルマにぶつけようとした連撃のうち四発目を、代わりにノアにぶつける。
剣で防御することもできなかったノアはその攻撃をまともに喰らい地面に倒れ込む。
ノアとアルマを制圧するのに二秒もかけてしまった。だが、もう邪魔する者はいない。グレイドは死の吐息をルビーに当てその命に終止符を打たせようと…
———待てよ…
「グォ…?」
ここまで圧倒的な力を見せつけられておきながら、本当にこの作戦が成功すると思ったのだろうか。魔法にもいろいろな発生トリガーがある…もしかして、この召喚魔法は術者の死亡をトリガーに発生するタイプのものではなかろうか。
グレイドは知能が非常に高い、そしてそれが深読みの原因となり、今回では仇となった。一秒も考えてしまったが問題ない、ここで決める。死亡がトリガーなら意識を失わせて仕舞えばよいのだ。グレイドはルビーに対して高速接近して、そこそこ頑丈なルビーを一撃で失神させれるほどの打撃がルビーの頭に…
『ゲスト・イン・ワンダーランド』
本当に、ルビーはグレイドにとって大の天敵であった。別に三秒あれば魔法は行使できたのだが…あえて『五秒』と宣言することで時間に多少余裕がある、とグレイドに勘違いさせたのだ。
もしルビーが正直に三秒かかると言えばグ、レイドは多少リスクを取ってでも三秒以内に殲滅していたはずだった。
さて、これにより五秒を想定して動いていたグレイドの計画は狂わされたことになる。まあつまり、これが何を意味するかというと…
「我、聖龍メギドラ。盟約に従いてここに顕現せし……なーんてセリフ、一度言ってみたかったんですよね」
グレイドの体が突如大きくぶっ飛ばされた。彼らにとっては希望だが、魔龍にとってはまさしく絶望そのものだろう。
「じゃあ、私の出番はここまでかしら?舞台の準備は出来たわよ」
ルビーは現れた助っ人に対してそう話す。
ルビーやノア、アルマたちは自分の使命を一旦全て果たした。なので、グレイドの相手は彼に任せるとしよう。
「お任せあれですね。まあ、ボッコボコにしたらいいんでしょう?」
聖龍皇帝メギドラ、遅れながらもここに参戦。
さあ、絶望を希望で上書きするとしようか!




