『大逆転の一手』
諦めないというのは大変素晴らしい心意気である。それぞれに背負っているものがあるのはよくわかった。
しかし、それだけで崩せるほど魔龍を甘く見てもらっては困る。それに、背負うものがあるのはこの魔龍も同じなのだから。
「そらぁぁぁぁ!!」
ノアが光の剣でグレイドを斬ろうとするものの、剣がグレイドの身体に突き刺さることはなかった。否、それだけで済んだらまだよかった…残念なことに、光の剣が音を立てて折れてしまったのだ。
「グォォォ!!」
「ぐ…」
攻撃を仕掛けたのだから当然、攻撃される覚悟くらいは持っておくべきだ。ノアは咄嗟に新しく剣を生成し防御するが遅い、グレイドの切り裂きがノアに直撃する。ノアは胸部分にかなりのダメージを負ってしまい、出血が止まらない。
激痛を堪えながらなんとか治療魔法で傷を塞ごうとするが…
グレイドはそれを易々と許すほど寛大ではない。追撃かつとどめの一撃を喰らわせようとするものの…
「させないっすよ!!ぐぅっ…!?」
「ぬぅぅぅぅ…!!」
アルマとルビーが伝説の盾と光の薙刀でそれをなんとかして防御してみせた、はずだった。グレイドが少しだけ力を入れるとあっという間にアルマとルビーが押され始める。そして…
「それはまずいっす…!!」
グレイドは一つだけエネルギー弾を生成させ、それをグレイドの片手を必死に抑えているアルマたちにぶつける。なんとかアルマが抑えようとするものの無駄なことである。
劣勢だった防御状態が一気に突破され、アルマの胸部にエネルギー球が直撃する。アルマは大きく後方に吹っ飛ばされ、ルビーもそれに巻き込まれる形で後方へと吹き飛ばされた。
「グァァァ!!!」
さらに追撃として死の吐息が放たれ、着弾地点に粉塵が舞う。ルビーとアルマはなんとかこれを耐えてみせた。まあ…
「ルビー…さん、まだいける…っすか」
「大丈夫よ…このくらいなら…ハァ、まだ」
立ち上がってみせたアルマとルビーだが、どう見ても痩せ我慢。正直、グレイドから見たらなぜまだ立てているのか不思議でならなかった。
「大丈夫か、いますぐ手当を」
なんとか傷を塞ぎ戦線復帰できるほどには回復したノアが二人のもとにかけつけ、彼ら二人を同時に癒す。
だが、彼の負担も中々のものだ。
ノアの回復のおかげでなんとか戦線は成り立っている状況であるが…それもいつまで持つことやら。いずれノアも治療魔法の使いすぎで倒れることだろう。
無理に急ぐとうっかり殺してしまうリスクがある。ここは向こうの体力切れを待った方が安全にサンプルを回収することができる。グレイドはそう判断して、急いで彼らを倒しにかかることはしなかった。
そして、こちらも進展はゼロだったわけではない。前々から勘づいていたとはいえ…ルビーが魔龍グレイドの"カラクリ"を完全に理解してみせたのだ。流石光魔法と炎魔法だけならバーディアをも超える魔法の達人と言うべきか。魔力…厳密にはかなり違うが、それの乱れで気づいたようだ。
「やっと…わかったわ。あなた、この赤いので世界からどれだけ力を奪ってるの…!」
ルビーは耳から、腹部から未だ血を出しながらそうグレイドに対して詰め寄る。そう、この『死の街』に山ほどあった地面にこびりつく赤い謎の物体。それこそが、グレイドの力の源であった。
グレイドは世界に"巣"を植え付けて、世界から力を奪い無理矢理『拠り所の世界』補正を自分自身に付与している。
拠り所の世界補正がどれほど強力かというと…『みかづきわーるど』でディノスとアルマ、リヴァが拠り所の世界補正がついているだけのただの弱っちぃ盗賊三人組と交戦したのだが…その彼らに敗北した。
そう、『拠り所の世界』というのはそれだけ強力なのであった。自分の属する世界では異世界からの刺客には絶対に負けない、そしてそれはまた逆も然り。世界のルールの裏をついたのが、この魔龍であった。しかし、タネがわかれば簡単だ。
「なるほど…アニキもそれに気づいて巣を破壊したってわけっすか。じゃあ僕たちも…」
「無駄よ」
攻略法が見つかったと歓喜し早速実行に移そうとするアルマをルビーは制止する。
———この死の街は、既にもう手遅れだからだ。
「…この死の街には大量に巣とやらがあった。それらを全て除去するのは…」
「それに、表面だけでなくもう完全に巣はこのエリアにこびりついてるわ。———巣を破壊するには、このエリアごと世界を滅ぼすしかない」
唯一自分を倒し得るメギドラたちのアクセスを禁止、あらゆる世界の強者たちの記録を徹底的に調べて完璧な対策を貼っておく、自分なしでも前哨基地として十分以上に成立できるような戦力を所蔵、そしてほとんどをチームで動かせて1体1体だと必ず発生する隙をカバーさせあい、裏切り者ツボハットの動向を監視し100%勝てる算段を持ち、本体はただ鎮座してるわけではなく直接厄介者の処理を行い、四ノ厄災も一人が侵入者と交戦したらすぐ近くにいる別の四ノ厄災が増援として向かうようにするシステムの確立、徹底的な情報管理などなど…グレイドはさまざまなことをやってきた。
そこまで徹底しているグレイドが、今更自分の弱点など見過ごしているわけなかったのだ。
お喋りはもう終わったかとグレイドは大量の紅の砲弾をルビーたちへと向かって降らす。
そしておまけに瓦礫も降らす。
「…っ!」
なんとかこれらはアルマが防いだもののそれでもかなり戦局は厳しい。どうすれば、どうすればいい。
「メギドラさんはあいつにどうやって勝ったんすかね…!」
今、なんと言った。
アルマは何気なく言った言葉であるが、ノアはそれを聞き逃さなかった。いや、待てよ…
「アルマ。お前の世界では一度あいつを倒したことがあるのか?」
「えぇ、メギドラさんがなんとかしてくれたっす!でもメギドラさんはこの世界には入れなくて…一応内部から無理矢理召喚されたらいけるかもとかなんとか」
「メギドラ…内部から無理矢理召喚…召喚…?」
ノアは深く考え込む。メギドラさえいればこの状況を打開できるかもしれない。もちろん、メギドラを直接召喚できるような者がいなければならない。それは、召喚魔法だけでなくメギドラ、いや『おろちばーす』とも関わりがある人物でなければならない。
それなら、ここにいるではないか。
魔法の達人かつ高貴なるウサギの女王が。
「ルビー。確か、お前はアルマたちをお前の世界から元の世界へ送り帰したことがあるんだよな?」
ルビーはそれにコクリと頷き、肯定する。それさえ見れれば、もはや十分である。
「送り返したならその逆…呼び出すことだってできるんじゃないか?」
ノアが気づいたそれこそが、この手遅れと言うのが最も似合った絶望的な状況を打開する、唯一の勝ち筋なのであった。




