『アルマ』
ここで一つ、三人の勇者の一人…アルマという名の戦士についての話をしよう。実はアルマは剣聖の一族出身である。料理のときに包丁の手捌きがかなり良かったのも、実は彼が剣聖の血を引いているからである。
「とはいっても落ちこぼれのポンコツだったっすけどね」
しかしアルマはそう自嘲する。さて、今回は彼について話していこう。
————————————————
アルマは剣聖の家系に生まれた。しかし、彼の剣才は剣聖の家系の中だと…はっきりいっていまいちなものだった。幼い頃は自分もいつかあの神剣を継ぎ、そして立派に剣を振るえるようになりたいと思っていた。しかし歳を重ねるに連れそんな希望は少しずつ失せていき、最後には剣を振るうことに拒否感を示すようになってしまった。
両親や兄弟たちはそんな彼を責めたりなどはしなかった。アルマに少しずつ元気がなくなっていき、ついには剣を振るうことすら拒むようになってしまっても、彼らはアルマを責めたりなどしなかった。代わりに、家事などの戦闘とは全く関係ないことを鍛錬させ、極力戦闘とは関わらせないようにした。
そしてその優しさがアルマにとっては辛かった。自分を責めてくれた方がまだ、まだ、楽になれた。自分を見下してくれた方がまだ、よかった。
それなら、憎悪を彼らに向けることができる。自分の非力さから目を逸らして矛先を彼らに向ければまだ気持ちは救われた。それすらもできず、ただ自分の劣等感を募らせていくばかり。そして、そんな優しい兄弟たちが戦場でまた一人、また一人と死んでいくのを見るのも辛かった。
皮肉なことに、自分が弱いからこそ自分だけは生き残ることができたのである。そして、血を流させ命を弄ぶ破滅の象徴である剣を恨むようになった。
アルマが最初に盾使いになったのもこれが理由である。剣と間反対のものは、なにか。その答えは簡単…盾である。
アルマは神器である盾…名前は確か『イージス』と言ったか。倉庫に保管されているそれだけ欲しいと両親に頼み、それをもらってからアルマは数日後行方をくらました。いなくなってしまったアルマを両親は探そうとしたが、その日の晩敵襲に遭い彼らは殺されてしまった。幸いなことに、アルマはそれを知らずに済んだのが唯一の救いだろうか。
『イージス』をもらって旅出たはいいものの、アルマは何をしてどうやって生活したらいいかはわからなかった。家事能力はかなり高いとはいえ、職も経験も剣の才能も何もない。自分は、どうやって生きるのだろうか。
そして数ヶ月後、アルマは孤独な山賊と化していた。ただし、一般人には何もしない。狙うのは武器を持った野蛮な人間だけである。武器があるから人は傷つくのだ。武器など生命の冒涜たるものは全て排除しなければならない。
まあ、結局アルマはその武器を売った金で生活しているわけだが。売られた武器は当然再利用されるので、根本的な問題は何も変わってないのは皮肉である。
さて、そんな生活をしていたアルマに一人現れた男がいる。それは、ギターを持ち赤のマントを被った鰐…
「お前が武器狩りのアルマジロ、アルマで合ってるよな?」
「そうだけど…オマエは誰だ」
アルマは突如現れた謎の男に対してそう問いかける。
「オレは『雷音』ディノス。山賊から足を洗え、アルマ!」
「お断りだ。歯向かうなら痛い目に遭ってもらうよ」
しかしアルマは困惑した。———ギターは武器なのか、と。迷いがある戦士は弱い。アルマはディノスとの月明かりの決闘に敗れた。
「…とどめを刺さずに、オマエは何をしてる」
「何って…お腹鳴らしてるし、腹減ってるんだろ?食べないのか」
アルマはディノスによって月がよく見える崖へと移動させられ、そしてディノスに差し出されたビーフジャーキーを見て困惑する。この男は、何をしているんだと。
「オレもお前の事情は詳しく知らないが…でも、お前だって好きでこんなことやってるわけじゃないのはわかってるよ。それよりほら、お腹空いてないのか?」
「…いただきます」
アルマは渋々ディノスによって差し出されたビーフジャーキーを食べだす。いつも空腹のアルマにとってはそれはかなりのご馳走であり、あっという間に食べ尽くしてしまった。しかし安心して欲しい、おかわりもある。
「しかしオレは見てるだけってのも寂しい。一曲、弾くとするか」
ディノスはそう言い懐からギターを取り出すと一曲弾き出した。月下に響き渡る音はあまりにも華麗であり、それはアルマの心を動かす。
「すごいで…すごいっすね。まさか血を流させるだけでなくこうして心を落ち着かせるための道具でもあるとは」
今までアルマにとって武器とは血を流させるものであり戦乱の象徴だと思っていたが…まさか、こんな使い方もできるとは。
「お前の盾だってそんなバリバリ血流させるものじゃないだろ?だいたい、お前はその盾で何を守ってるんだ」
「え…」
何を今更そんなこと…答えなどわかりきってるだろう。盾は、自分を守るためにある。
「自分を守るためっすけど…」
「まあ確かにそうだが、盾の意味を理解してないな…盾ってのは、誰かを守ることで真価を発揮するんだ」
綺麗事を言わないで欲しい。ただの言い訳など聞きたくな…
「オレな、実は不殺を目標にいつも頑張ってるんだ。そうだろ?殺し殺されだから戦乱ってのは絶えないんだ。でも残念なことに…一人だと力不足でどうしようもないことがある。できなかったこともある」
アルマは、初めてこの男の言葉に強く動かされた。この男こそが、真の世界平和に繋げれるカギなのではと。しかし、そんな彼でも何人かは殺してしまったことがあるらしい。
そして…
「なぁ、アルマ……オレの、"盾"にならないか。オレも近距離戦はできないことはないんだが厳しくてな…それに盾ってのは誰かを守ってこそ本領発揮するもんだし。そして…」
ディノスは一呼吸置いてこう言った。
「お前と二人なら、本当に平和な世の中を作り出せそうな気がするんだ。もっとも、完全な不殺というのは無理だろう。生まれた時点で破滅の道を辿るしかない者もいる。基本彼らは殺してやるしかないが…多くの者は違う、救うことができる。そしてオレ一人では助けられなかった者もいる。なぁ、来てくれないか」
アルマが断る理由は、何一つなかった。
そしてディノスとアルマは6年の旅を経て…本当に平和な国を実現してみせた。
一時期ディノスはかなり精神状態が酷かったようだが…アルマが来てからディノスも本来の調子を取り戻し、そして『おろちばーす』でもディノスは"勇者"として活動をするようになった。
実際、嫉妬の大罪やグラルス、ダルルガなどなど…多くの者は彼らによって救済された。
———しかし…
「誰よりも平和を好むアニキはいま、望みもしてない戦闘を無理矢理させられてるっす」
それはディノスにとってかなりの屈辱であろう。誰よりもディノスを慕っている盾の相棒は、それを許さない。そしてなによりも…
「僕が帰ってきたときのアニキは酷くやつれ、疲れ切っていたっす。もう一人のアニキは、世界に絶望して最後には死を懇願して死んでいったっす」
9年間、アルマが戻ってくることをディノスは最後まで願い続けた。
そして、もう一人のディノスには頼まれた。
"オリジナル"が、末永く幸せに生きれるように…と。
尊敬するアニキは運命に嫌われている。世界は、よく彼を破滅への道へと誘いたがる。
————これ以上、自分のディノスをいじめるというのなら絶対に許さない。たとえいじめっ子が神であっても、世界であってもだ。
目の前の魔龍の強さに絶望し、諦めた者も数少なくはない。
しかし目の前のこの戦士は、彼の大切なものを取り返すため決して諦めることはなかった。
『魔龍』にとって、アルマは数少ない天敵のうちの一人なのである。




